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第30話 心臓破裂しそう

 王の間へと案内された3人は桜の鑑定の書を王へと差し出した。


「何故封が空いておる。」

「ごめんなさい、それ開けちゃいけないの知らなくて、もらってすぐにあたしが開けちゃったんです。」

「そうか。」

 桜が頭を下げると王はエドナーとラングレーに目をやった。二人はすぐさま頭を縦に振った。


「…サクラがやったのであれば仕方ないな。エドナー、見届け人として偽りのないことを誓うな。」

「はっ。滞りなく鑑定の儀が行われたことを最高神ヴァルナ様に誓います。」

「うむ。3人とも疲れたであろう、もう夜も遅いからな、下がって良い。」


 王は不思議な雰囲気を纏っており、彼が笑えば空気は随分と軽くなる。


 エドナーとラングレーが席を立とうとすると、桜は手を上げた。

「どうした、サクラ。」

「あの王様、その鑑定された紙ってあたしは貰えないんですか?」

「…これが欲しいのか?何故だ。」

 桜の発言によって再び空気が冷たくなった。


「貰えないなら別にいいんですけど、でも儀式とかあたし初めて受けたし、記念品的な?その紙は一生に一度しか貰えないって聞いたんで、せっかくなら欲しいなって。正直まだこの国の言葉も覚えきれてないからなんて書いてあったのかもよく分からなくて…。」

「そうか。」


 王が目配りをすると、傍に控えていた女性が一人王に近寄り、桜の鑑定の書を見ては何かを囁いた。そしてまた女性が元の位置へと戻ると、王は立ち上がり、桜の元まで降りて来た。


「確認は終えたからな、サクラに返そう。」

「あ、ありがとうございますっ!」

「…間も無く聖女が一度目の遠征を終え帰還する予定だ。そうなるとより一層騒がしくなる。

 サクラもいつまでも働くのは大変だろう。良ければ私の知り合いの家で暮らすと良い。娘を望んでいる夫婦がいるんだがな、きっと気にいると思うぞ。」


 王は桜の肩に手を置きながら優しい声色で話しかけたが、その目は笑ってはいなかった。


「…考えておきます。これ、返してくれありがとうございました!じゃ、おやすみなさい!」


 桜は王の手を振り払うように勢いよく頭を下げ、くるりと背を向けて退室した。



 ♢


 3人は城から出るとエドナーも含め騎士寮の桜の部屋に移動した。

「ヒヤヒヤしましたが、なんとか成功しましたね。」

「やばかったよね!めっちゃドキドキした!!」

 

 桜は返してもらった自分の鑑定の書を広げた。そこには魔力や生命力が軒並み200〜400台と書かれている。


 ヴァルナからの返信は『見せたくなければ魔法で隠しなよ。魔法は想像力だよ』というシンプルな内容だったが、それを見た桜は深く考えずに「こうなれ」と書に念じたのだ。すると書に書かれていた数字は思った数字へと書き換えることが可能になり、上手く彼らを騙すことに成功したのだ。


「通常隠蔽魔法は魔力の高い者が見れば見抜かれてしまうが、サクラよりも魔力が高い者はいないだろうからな。王お抱えの鑑定士も確認していたし、もう問題ないだろう。鑑定の書も回収したしな。」

「あの人鑑定士だったんだ。なんかジロジロ見てるからバレたかと思って焦ったわ〜。王様って優しそうだけど、結構怖いよね。」

「…王とはそういう者だ。だが特に現王はこの国を愛しているが故に、非情なまでに利益を優先する。あまりサクラは関わらない方が良い。」

「もしあの場で隠蔽が発覚していたら、今頃私達はこの世にいませんね。本当に良かったです。」


 ラングレーはにこやかに言うが、考えるだけでゾッとする。


「とにかく鑑定の儀は終わった。後はもうお前が魔法を使わなければ問題ないだろうが、その魔道具の存在もバレるとマズい。」

「スマホ?一応あたししか使えないようにしれくれたってルナが言ってたから大丈夫じゃん?盗まれてもあたしのとこに戻ってくるらしいし。」


 桜は自慢気にスマートフォンを取り出したが、エドナーの表情は変わらなかった。

「それがむしろ問題なんだ。この世を創設されたヴァルナ様と会話が出来るなど、本当だとすればいかようにも使い道がある。」

「そんな?別にルナ普通のギャルだよ?てか話したいなら神殿行けば良いじゃん。」

「…そのギャルと言うのは、理解しかねますが、ヴァルナ様と通常会話が出来るのは一生に一度。ヴァルナ様に自分の生涯の才能を見定めていただく、あの鑑定の儀のみと言われています。会話と言ってもサクラ様のお話しされているものではなく、ヴァルナ様からお告げをいただく程度。神殿に勤めている神官達も同様かと思いますよ。」

「マ?ルナ超良い奴なのに、会話しないとか勿体無いね。」

「…神と会話をしたがるなんて、サクラ様は本当に考え方が個性的でいらっしゃいますね。」


 ラングレーの嫌味発言にはもう慣れっこだ。


「まあヴァルナ様と会話が出来るなどと言ったところで誰も信じはしないと思いますが、気が触れたと思われ病院で一生を過ごすことがご希望でなければもう口にしない方がよろしいですね。もし神官の方に聞かれれば…」

「な、何?神官の人に聞かれたら何なの?」

 ラングレーはただにっこりと微笑むだけで口を開こうとはしなかった。


 ラングレーの嫌味に動揺する桜。二人の掛け合いを見ているだけで、エドナーは胸に違和感を抱いた。

「…とにかく、この話は他言無用だ。サクラはこれまで通り、魔道具の充電をしに俺の元へ来い。今後のことはどうするべきか、俺も考えておく。何か希望があれば教えてくれ。」


 エドナーが席を立つと、桜は手を取り

「今日は本当にありがとね!最後ちょっとバタバタしちゃったけど、またデート行こうね!」

と嬉しそうに笑った。


 エドナーは何も言わず、ただわずかに口元を緩ませながら頷き、ラングレーもエドナーの後すぐに退室した。


 こうして慌ただく桜の休日は終わり、この日は体を拭く事も出来ずにベッドに倒れ込み、朝を迎えたのだった。


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