第28話 ルナ最高!
桜が鷲掴みにすると光の球は驚いたようにブルブルと震え出した。
『ちょっと!何するの、僕は神様だって聞こえなかったの!?』
「いや聞こえたけど、だから何?勝手に変な世界に連れ去った誘拐犯でしょ!」
『それは僕じゃないよ!人間が勝手にやったことだろ!』
「あんたの力だって皆言ってるじゃん。あんたも関与してんでしょ!」
『そりゃね、僕は神様だもん。僕に魔力を捧げることで、別の世界と繋げてるんだよ。人間だけで出来るわけないさ。』
悪びれる様子もない神という球を桜はより一層力を込めて握った。
『ちょ、ちょっと!依代が壊れちゃうじゃないか!!君は能力値が高いんだから、考えて動いてよ!!』
「は?どういうこと?」
『君はこの世界の住人じゃないだろ?本来なら僕が作ったこの世界と世界を繋げた空間は、聖女の才能がある者だけが通る道なんだ。ここを通ることで秘められていた聖女の力が目覚めるようにしてあるんだよ。
聖女じゃない者が通ったことはなかったけど、能力値が全て高くなったようだね。』
「…よく分かんないんだけど。あたしゲームとかあんましないし、もっと分かるように言ってくれる?」
『だから、君は人よりも全ての能力が高いってこと。足が速くなったり力が強くなったりしなかった?』
言われてみれば思い当たることはいくつかある。
「あたしが物壊しちゃうのは握力バカになってるからってこと?でも普通にフォークとか使えるよ?」
『君が言っているのは部屋にあった魔法石を用いた魔道具や魔力の込められた城壁のことだろう?君は魔力がコントロール出来ずに全魔力で触れているから壊れたのさ。
元々生まれ持った力が高まっただけだから、握力は元々そんなになかったんじゃないか?強化魔法でも使えばその限りではないが。知力だって上がったはずなのに、君は、イテテテ!やめてよ!』
桜は光の球を強く握ることで言葉を遮った。
「あたし魔法なんて前の世界で使ったことないけど、魔力高いの?」
『君のいた世界では魔法の概念がなく、使う術がなかっただけだ。魔力は誰でも持っているよ。その量は人それぞれだけどね。それに生まれ持った魔力は何もしなくても少しずつ消費されていくんだ。
失った魔力を補うためには外から補給しなければならないけど、君のいた世界では外気の魔力量が少ないようだし、その術がなかったようだね。』
「へー。」
『ヘーって…普通もう少し神様がいたらみんな僕に頭を下げるんだけどな。』
「あたし神様とか信じない系だし。てかあんたこの球でしかいられないの?話しづらいんだけど。」
『仕方ないな…ちょっと離してよ。』
桜が手を広げると、光の球は、一瞬目も開けていられないほどに輝いたと思えば、目の前には桜と同じような制服を着た、女子高校生が一人立っていた。
『これでどーよ!』
「えっ、マジ?あんた神様!?ギャルじゃん!!やばっ!!!」
『話しやすいっしょ。サクラの記憶を見て、周りにいた人をマネてみた〜。』
「やばー!神!!!」
『だから神だって言ってんじゃん!』
見慣れた格好、話し方。全てが懐かしく、桜は涙が出そうになる程嬉しかった。
「ええっと、バールだっけ?」
『ヴァルナだよ。好きに呼んでいいよ。』
「オッケー、んーじゃあさ、ルナって呼んでいい?」
『いいよ。あたしもサクラって呼ぶし。』
桜はヴァルナの手を取り、彼女の目を見てニカっと笑った。
「これであたしとルナは友達ね!」
『…え?友達?』
「うん。ルナがあたしのためにギャルの格好してくれたのとか、マジ嬉しかった!本当ありがと。
もっとルナと話したいし、会いたいから、連絡先交換しようよ!…あ、スマホ使えないのか。」
ヴァルナは神。故に桜が本心で発している言葉かどうか感じ取ることが出来た。
自分と友達になりたい者が現れるなど夢にも思わなかった彼女にとって、じんわりと感じる胸の熱は初めての感覚だった。
『サクラは変わってるね。普通神様には願い事を言うもんだけど。』
「そりゃお願いする時もあるけど、結局叶うかどうかは自分の努力次第じゃん。」
桜の言葉は真意をついていた。ヴァルナは神ではあるが全能ではない。むしろ神の中ではまだ幼く、故に他の世界から聖女の才がある者を引き入れなければこの世界のコントロールが出来ないのだ。
そしてヴァルナが願いを叶えることはこの世界に直接神が関与することとなり、それらを行った際にどうなるか、予見することは難しく、世界の均衡を崩しかねない。故に彼女が礼拝者達の願いを叶えることは滅多に無かった。
『…あんたバカなのに、すごいね。気に入った!スマホ作ってあげるよ。』
「バカは余計だけど、マジで!?ルナ、スマホ作れんの?超凄いじゃん!」
『ただ、サクラの持ってるスマホに僕の力をかけてこの世界仕様にするから、もうそのスマホは使えなくなるけど、いい?前の世界のデータも消える。』
「え…。」
桜は胸ポケットに入れていたスマートフォンを手に取り、電源を点けた。待ち受け画面には、桜と読者モデル仲間の友人達で撮った画像が映し出された。懐かしい、大切な思い出だ。
「…あのさ、もう日本には戻れないの?」
『分からない。前例がないからね。でも召喚の儀式を行うと地球との道が出来るのは確かだから、それを通っていけばいけんじゃないかなとは思う。』
「マジで!?」
『マジマジ。ただやったことないし、召喚の儀式って結構大変だから、やってくれるかは分かんないけどね。』
「そっか…。」
『で、どーする?やめとく?』
「ううん!ルナと話したいし、どうせこのまま持ってても使えないし、やって!」
『元に戻すのは僕の力じゃ出来ないけど、本当にいいの?』
「うん。この神殿来るの、結構大変なことっぽいし、これでルナとお別れのが嫌だから。あ、でも翻訳のアプリ使ってんだけど、それも死ぬ?」
『翻訳のアプリとかこの世界で使えそうなものはもっと良いのにアップデートしてあげるよ。』
「ありがと!」
ヴァルナが桜の手の上のスマートフォンに両手を重ねると、手の中が熱く光ったと思えば、あっという間にスマートフォンがもう1台増えた。
そしてヴァルナは
『これで連絡取れるね。一応サクラ以外は操作できないようにしておいたから!またね!』
と言い、気が付けば桜は神殿に戻って来ていたのだった。




