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第27話 久しぶり、じゃないから!

 エドナーに飛びついた桜が冷静になって目線を下に下ろすと、可愛らしい耳をぴょこぴょこ動かしている少女らしき子が怯えた目でこちらを見ていた。


「…ウサギ??」

「あ、あのごめんなさい。脅かすつもりはなくて、ただ、その…」

 慌てて弁明をしている言葉は、グゥゥゥという地響きのような大きな腹の音で掻き消され、より一層申し訳なさそうに耳が垂れ下がっていった。


「…お腹空いてんの?お母さんやお父さんは?」

 首をフルフルと横に振ると、頭の上の耳も一緒にぶんぶんと揺られる。


「サクラ行くぞ。」

 エドナーは桜の腕を引っ張るが、桜はその手を拒んだ。

「え、ちょ、迷子でしょ?置いて行けないよ!」

「迷子ではない。孤児だ。」

「コジ?」


 エドナーはきょとんとしている桜に声を落として、耳打ちした。

「親のいない子供のことだ。獣人だからな、捨てられたのかもしれないが…この辺り一帯はアリアに住んでいた民の受け入れや村が無くなってしまった民が住んでいる地帯だ。

 入国している以上彼らはアストリア国民ではあるが、王政を快く思っていない者も多く住んでいる。あまり長居してはいけない。」

「で、でも可哀想じゃん。こんな小さい子がここで一人で暮らしてるなんてさ。親がいない子供とかってどっかで保護されるとかじゃないの?」

「…昔は教会の一部でそういったこともされていたようだが、現王に代わった際に奴隷制度も廃止され、孤児が増え手に負えなくなったのだろう。

 更に今は穢れ対策で、国内は資金不足だ。今はこの辺りの住居費を搾取しないということで対応していたはずだ。」

「そんな…。」


 桜はエドナーの話を聞いても納得出来なかった。桜の住んでいた世界でも、親から放置された子供や食に困っている子供のニュースを見聞きしたことはあっても、実際に目にしたことは初めてだった。


 桜はカイルにあげようと買っていたお菓子を取り出し、渡した。

「あたし今これしか持ってないんだけど、とりまこれ食べて!」

「…ありがとう。」

「あたしはサクラ。名前教えてくれる?」

「…名前はない。でもみんなからはラビットって言われてる。」

「…そっか。じゃあラビちゃんって呼ぶね。」


 ラビは桜からもらった箱を大切そうに抱えこむと、嬉しそうに笑い、そのまま駆け足で何処かへ消えてしまった。


「良かったのか。カイルへの土産だったのだろう。」

「ワンくんにはまた買えばいいもん。…ああいう子、まだいっぱいいるのかな。」

「獣人は繁殖力も強いと聞くからな、ここで生まれ育ったものも多いだろうな。

 聖女様が穢れを祓い終えればまた元のアストリア王国に戻る。そうすればこの土地の問題に回せる予算が組めるよう、俺も話を通しておこう。」

「うん、ありがと。」

「…もう日が暮れ始めている。急ぐぞ。」


 桜は沈んだ顔でエドナーと共に神殿へと向かった。



 ♢



 エドナーが言っていたように鋪装されていない土埃の道から再び煉瓦の道に戻ると、すぐに教会と思われる一際目立つ建物が見えてきた。

 教会の前にはすでに馬車と共にラングレーが立っており、3人は案内人である神官と共に教会の中へと進んで行った。


 教会はシンプルな造りで、椅子と女神像が飾ってある祭殿のみだったが、椅子も含めて真っ白になっている足音だけが響き渡る静かな教会内は、流石の桜も一言も声を発することが出来なかった。


「神殿はこちらになります。手に清めの水を…。」

 神官に水をかけられ手を洗い、教会の奥にある神殿へと案内される。

 神殿は最高神ヴァルナから与えられた品々が祀られている、聖職者しか普段は立ち入ることが出来ない神聖な場所だった。


「本日は鑑定の儀ということで、よろしいですね?」

「ああ。見届け人は、私、エドナー・エル・ブラインだ。」

「かしこまりました。それでは儀式を受ける者はこの陣の中へ。そして最高神ヴァルナに全てを委ね、祈りを捧げなさい。決して目を開けてはなりません。」


 神官の指示に従い、桜は恐る恐る床に描かれていた魔法陣のようなものの中央に膝をつけ、見様見真似で手を合わせ目を閉じた。


(これで合ってんのかな…)


 桜の準備が整ったことを確認すると、神官は何かを唱え始め、目を閉じている桜ですらも眩しいと感じるほどに陣が光り始めた。


(なんか、あったかい…)


 ザワザワし始めた周りの様子が気になり目を開けたくなるのをグッと堪え、桜はひたすら念じた。


(よく分かんないけど、神様、よろしくお願いしますっ!)


『何をお願いしてるの?』

「え?誰?」

 どこからともなく声が聞こえてきた。というよりもどこから音が出ているのか分からない、脳に直接語りかけられているような、不思議な感じだった。


『君の魔力を媒介して空間を一時的に繋げたから、目を開けても大丈夫だよ。』

 声の主の言う通り、桜がゆっくりと目を開けると、そこは神殿はなく、何もない、終わりの見えないキラキラと光る白い空間だった。

 そして目の前には光の球が浮かんでいる。


「あれ、ここ最初に来た時通った場所に似てる…てことは、あんたあの時の声と一緒ね!」

『そう。僕は神様。久しぶりだね、桜。』


 桜はふよふよと漂う光の球を思い切り掴みかかったのだった。


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