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第22話 決めつけ良くない!

 エドナーのおかげでスマートフォンの充電が可能となった桜は、これまで制限していた分よりスマートフォンを触る時間が増えた。もっとも地球にいた時に比べれば操作時間は半分以下ではあるが。


 エドナーは強面ではあるが桜の失礼な言葉遣いに顔を顰める事もなく、会う度にオジスタン作の菓子や紅茶を用意し出迎えてくれる。生まれ持った体格と顔つきから、避けられることはあれど女性の方から好意的に近寄られるのは彼にとって初めての経験だった。



「じゃ、あたしエーさんのとこ行ってくるから!」

「では私は塔の入り口で控えておりますので。」

「なんで?部屋まで来ればいいじゃん。ランランも知り合いでしょ?お菓子あるよ?」

 ラングレーはただにっこり微笑み、それ以上何も発しようとはしなかった。


 桜がエドナーの元を訪れるのは週に一度。騎士寮の仕事も翻訳の仕事もしないと決めている、桜のお休みの日だ。休みの日は寮の業務量などを踏まえて毎週ローザスが決めているため、誰が担当の日にエドナーのところに行くかはランダムだが、部屋まで同席する二人とは異なり、ラングレーだけはエドナーに近寄ろうとしなかった。


「ねえねえ、エーさんってランランと仲悪いの?」

「ランラン?…ああ、桜の護衛のラングレー・ヒューストンのことか?」

「そそ。あたしが口出しすることじゃないけどさ、エーさんこんな良い人なのに、ワンくんもなんかビビってるし、誤解されてるのは嫌だなって思って。」

「俺を怖がらないのは、お前が俺を知らないからだよ。」

「どゆこと?そりゃまだちょっとしか知らないけど、あたしも知ってるよ?エーさん、めっちゃ良い人じゃん!」


 エドナーはそのまま口を閉じ、部屋には指から発せられるバチバチという音が時折鳴り響くだけだった。


「…ほら、今週の分はこれで良いな。」

「あ、ありがと。」

「じゃあ気をつけて帰れよ。」



 追い出される形で研究棟から出ていくと、入り口ではラングレーが約束通り待機していた。

「もう終わったんですか?今日は早かったですね。」

「うん…。」

「では寮に帰りましょうか。」

「…うーーーーー、ごめん!なんかあたしが口出すことじゃないのは分かってんだけど、なんでランランとエーさん仲悪いの?てかなんでみんなエーさんにビビってんの?そりゃ顔めっちゃ怖いし、あたしも最初はヤバイ奴かもって思ったけど、話したら全然普通ってか、むしろ超良い人じゃん!」


 桜は声を荒げて一思いにモヤモヤをラングレーにぶつけた。


「…はぁ。それを知ってどうされるのですか?むしろ知らない方が今の関係でいられると思いますよ。」

「分かんないけど!でもエーさん、あたしが話してると嬉しそうにしてくれるし、多分人と話すの好きなんだと思うの!あたし別に話すの上手じゃないけど、それでも黙って聞いてくれてさ。なのにみんなエーさんと話そうともしなくて、なんか…可哀想じゃん。」


 桜がここまでエドナーを気にかけているのはラングレーのことだけではない。エドナーの部屋を訪ねている間、塔の責任者として研究員が時折部屋に書類を持ってくることがあったのだが、誰もエドナーの方を見ようとはせず、書類を提出しては一目散に部屋から出ていくのだ。エドナーが礼を述べてもビクビクと怯えるばかりで、誰も彼の優しさに気付こうとはしていなかった。彼もまた、それが普通のことだと言いながら、どこか寂し気だった。


「サクラ様はご存じないでしょうが、ブライン様は“紅い稲妻の使い手“と呼ばれているんですよ。」

「どゆこと?雷の魔法が使えるのがすごいってこと?」

「ええ、火・風・水・土・雷の5つの属性魔法の内、雷の適性がある方が希少なことはご存じですね?」


 桜は王が用意した家庭教師から碌に授業を受けていないので知らなかった。が、とりあえず頭を縦に振った。


「ブライン様は希少な雷の使い手であり、また他に類を見ない程の、膨大な魔力量の持ち主だと言われております。そして、幼い頃から才能を発揮し、先代聖女様と共に各地の穢れを祓い、襲い掛かる魔物をその力で一層したと言われています。ヒューストン様の放たれた雷によって、空からは魔物たちの血の雨が降り、彼がいる戦場は全て真っ赤に染まる。

 故に“紅い稲妻の使い手“と呼ばれるようになったそうですよ。」

「で、でもそれってみんなを守ったってことでしょ?良いことしたんじゃないの?」

「その通りです。偉業を成し遂げられたのです。ですから、魔法研究棟のトップであり、魔法実践部門の担当責任者という役職でいらっしゃるのです。」

「じゃあなんで」

「自分よりも明らかに力の強い者に恐怖を抱く。サクラ様の世界では当たり前ではないのでしょうか?」


 ラングレーの言葉に桜は言葉が詰まった。


「ブライン様がその気になれば、私達が束になってかかっても敵わない。それほどまでに偉大な力をお持ちなのです。魔法がなくともあの体格ですからね、腕力でも私は敵わないかもしれません。異質な存在は遠ざけたい。それはどの種族であっても同じでしょう。

 さ、分かりましたら寮に戻りますよ。」


 桜はしばし俯いた後、キッとラングレーを見つめ、

「分かったけど、でもやっぱ納得いかない!!!」

 と言い、くると方向を変え一気に塔の上へ駆け上った。


 そしてエドナーの部屋の扉を思い切り開けると、

「エーさん、あたしとデートしよ!」

 と、状況が読み込めずキョトンとしているエドナーに言い放ったのだった。

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