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第21話 エーさん、マジ神!

 魔法を研究している人達がいる塔というだけあってか、男臭い騎士寮とはまた異なる異様な雰囲気が漂っていた。

「…なんか、薬みたいな、変な臭いするね。」

「おい、失礼なこと言うなよ。」

「だってさ〜。」

「これから会いに行くのはこの研究棟の一番偉い人なんだぞ。」

「マジか。ヤバ、なんか手土産みたいなのとか持ってくるべきだった?緊張してきたわ。」


 カイルが呆れた素振りで案内してくれたのは塔の一番上の部屋。ノックをし、カイルが名前を名乗ると、中から「入れ」とだけ一言返ってきた。


「久しいな、カイル。元気にやっていたか。」

「ブラインさん!久しぶりです!!はい、お陰様で!」

「そうか。」

 

 カイルの後ろに付いていた桜も、慌てて頭を下げて挨拶を行った。

「あっ、はじめまして!サクラ タチバナです!」

「例の異世界人か…。

 私はこの魔法研究棟の管理及び魔法実践部門の担当者をしてます、エドナー・エル・ブラインと申します。どうぞお見知り置きを。」

「あっ、こちらこそ!ありがとうございます!あの、あたしにもワ、カイルに話すみたいに敬語は使わないで大丈夫です!」


 エドナーは大柄な、強面の男性だった。魔法が使えるイメージから線の細い男性を想像していた桜の予想は外れたが、聖女ではない方の異世界人と分かっていて尚深々と頭を下げてくれた彼の優しさが嬉しかった。


「…分かった。で、今日はなんの用で?」

「急にお邪魔しちゃってごめんなさい!あの、これにすっっごい弱く雷の魔法を当てて欲しくて。」

「これは?見たことのない素材で出来ているな。」

「あたしが住んでた世界にある、このスマートフォンって機械をどこでも充電できるようにするためのものなんですけど、電池切れちゃって困ってるんです。

 最悪壊れるの覚悟なんですけど、なるべく弱い雷の魔法をここのこの口のとこに当ててもらえませんか?」

「ここに?随分小さい穴だが…これは指先から出す必要があるか…。」


 エドナはーモバイルバッテリーを受け取るとしばらくの間観察し、ぶつぶつと何かを言っていた。

 しばらくその光景を眺めていると、エドナーは右手の人差し指を突き出した。


「こんな感じか。」

「や、やば!バチバチしてる!!」

「流石ブラインさん!カッケー!」

「これをこの穴に充てるぞ。」

「お願いしますっ!」


 桜が両手を顔の前で交差させ祈っていると、カイルもつられて同じポーズを取り、二人はエドナーに向けて祈りを捧げた。


「…ヤバい、めっちゃ緊張する。」


 バチバチッ


 光っては消える、僅かに視認できる程度の雷の魔法を指先から出し続けるという、未だかつて誰もやった事もなければ、恐らく出来ないであろう偉業をエドナーは成し遂げた。

 そして、エドナーがモバイルバッテリーの充電口に手をあてていると、バッテリー側部についている、充電が溜まっている表示のランプが点灯した。


「や、やったーー!やばい、充電できてるんだけど!!」

「本当か!良かったな!!」

「これで良いのか。」

「あの、本当超申し訳ないんですけど、このランプが5つ全部点灯するまでやってもらうことって可能ですか?そしたらフル充電出来てるってことなんです。」

「…やってみよう。カイル、魔力切れ防止のためポーションをその棚から出しておいてくれ。」

「はい!」


 カイルが戸棚から取り出したのは何やら赤い色の付いた小瓶だった。

「やばー、これがあの噂のMPポーションってやつ?超ファンタジー!写メりたかったぁ!」

「お、おい、静かにしてろよ。」

 無言で充電し続けているエドナーに対し、カイルは常に緊張している様子ではしゃぐ桜を諫めた。


「良い。どれほど時間がかかるか分からないからな。そうだ、そこに菓子もあるぞ。」

「えっ!食べていいんですか!?」

「おい、やめろってば!やってもらってんのに。」

「気にするな。俺は甘い物は食べん。好きなだけ食え。飲み物も茶葉がそこにあるから勝手に使え。」

「わー!ありがとうございます!あたし淹れるね!」


 桜はカイルの静止など気にもせず、ニコニコとティータイムの支度を行った。

「やばっ!このクッキー超美味しいんだけど!ワンくんも食べなって!」

「お、俺はむぐっ」

 断るカイルの口に無理矢理突っ込むと、カイルの目がキラキラし、尻尾もパタパタと揺れ始めた。


「美味しいよね。エドナーさんも、はい、あ〜ん。」

「…あーん、とはなんだ?」

「え、こっちじゃやんないの?誰かに食べさせてあげる時の、セリフ?音?」

「俺はいいから二人で食え。」

「だってエドナーさんの部屋にあったんだから、エドナーさんも好きでしょ、お菓子。みんなで食べた方が美味しいからさ。やってもらってんのにウチらだけ食べてんのもアレだし。

 いいから、はい、あ〜ん。」


 エドナーの眉間の皺がより一層濃くなったが、恐る恐る口を開けると、そこにクッキーが差し込まれた。


「美味しいっしょ?ってあたしのじゃないけど!」

「…美味い。オジスタンに礼を言わなければな。」

「えっこれオジさんが作ったん?あ、ごめんなさい。作ったんですか?」

「いい。気にするな。話しやすいように話せ。」

「ありがとう!じゃあエーさんって呼んでもいい?」

「好きに呼べ。」

「ありがとう!」


 桜の物怖じしない態度にカイルは常に冷や冷やしっぱなしだった。充電が完了し寮に戻るまでの道中はお叱言が止まらないほどだった。


「ブラインさんは優しかったからいいけど、お前いつか捕まるぞ!聞いてんのか、サクラ!」

「分かったからそんな怒んないでよ〜。」

「いや、お前は分かってない!いいか!」


 次からは一人で行こう。そう決めた桜だった。



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