第18話 街スゴイ!
ローザスは心配そうにしていたが日が暮れる前に戻ることを約束し、オジスタンを訪ねていた商人の馬車に乗せてもらい、桜は初めて門から外に出た。
「や、やば〜!!!!!マジ海外じゃん!!」
「身を乗り出すと危ないですよ。」
「お嬢ちゃん達、ここが街の中央広場だぞ。ここで平気か?」
「うん!超助かった!ありがとう!」
商人に礼を良い馬車から降りると、レンガ造りの道にレンガや木で出来た建物が並ぶその光景は、自分が見てきた日本の光景とは何もかもが違っていた。
「やばい、せっかくだから写メろ!あ、ねーねー3人でも撮っとこ!記念に!」
桜が街の案内人に選んだのはラングレーだった。
「へぇ、これはサクラ様の世界の魔道具ですか?映っているのは私達ですね。」
「魔道具じゃなくてスマホね。ここがカメラだから、ここ見て笑って。はい、撮るよー!うん、良い感じ。」
「ラングレーさん、その、お休みしてたのに勝手にすみません。それに内緒で出て来て、あの、処罰は俺が受けますから!」
「私も暇にしていたから気にしなくていいよ。王子達は留守だしね。まぁレイクにバレたら五月蝿そうだから、帰りはどうにか隠れて帰ろう。」
「はぁ。」
「ねー二人とも見て見て!これやばくない!緑の肉、何かと思ったらカエルの魔物なんだって!超デカくない!」
見たこともない服装、特に女性が生足を露出しているその姿とこの世界では当たり前な物を見ては大きな声でケタケタと笑う桜はすぐに注目の的となっていた。
「…サクラ様、今日は観光でよろしいですか?日が暮れるまでなので行ける範囲でご案内します。」
「あ、観光も行きたいんだけど、今日は時間ないからそれはまた今度で。」
「ではどこに行きますか?」
「あのさ、ブラジャーって売ってる?」
「…え?」
「いや、だからブラ」
ラングレーは桜の口をすぐさま塞いだ。この世界でもブラジャー=女性下着のようだ。
「…衣類を買いたいということですね。女性用の品を取り扱っている店にご案内します。」
「ありがと!」
「サクラ、ぶらじゃーって何だ?」
「おっぱいに付ける下着のこと!一応パンツとキャミみたいのは貰ったんだけどさ、やっぱワイヤー入ってないやつだと絶対垂れると思うんだよね。」
「おっ!?」
「ゴホンゴホンッ!サクラ様、あまり往来でそのような話はお控えください。」
「え、マジこの程度の会話もNGなの!?すごいね異世界。」
「…サクラ様のいた所は随分と自由なんですね。」
「まー、あたしみたいなのばっかじゃないとは思うけどね。美香さんとかはあんまこういう会話しなそうだし。」
「でしょうね。」
ラングレーの表情はにこやかだったが、言い方には棘があった。
「こちらが街では一番人気の店かと思います。」
ラングレーが連れてきた店は随分と豪華な佇まいだった。ショーウィンドウにはキラキラとした装飾がたっぷり付いたドレスと宝石を身に纏ったマネキンが飾ってある。
「…ちなみにさ、あたしローザちゃんに貰ったお金がこれなんだけど、買える?」
桜はローザスから給料として受け取った麻袋の中の銀色のコインを5枚取り出した。
「5シルルですか。そうですね…スカーフくらいなら買えるのでは?」
「マ!?…あのさ」
桜はランランの腕を引っ張り耳元で囁いた。
「ああ、それなら買えると思いますよ。その角の店が専門店ですね。」
「OK!じゃああたし見て来るからワンくんとランランここで待ってて!」
「おい、どこ行くんだよ。店に入らないのか?」
「すぐ戻るからちょい待ってて!」
桜は宣言通り5分もしない内に嬉しそうにニコニコしながら戻って来た。
「はい、これ。ランランにも。」
桜は二人に小さな箱を渡した。
「マジこの国って物価高いんだね。1箱これ1枚だって。あたしがもらったお金半分くらいってことでしょ?やばくね?ま、でもめっちゃ美味しそうだったから、紅茶とかと一緒に食べてよ。」
箱を開けると丸いチョコレートが4粒入っている。
「これ、俺に?」
「そ!食べてみて苦手だったなら食べなくてもいいし!とりま食べてみなよ!何事もトライしてみないと!よし、じゃあ寮に戻ろっか。」
「…サクラ、あり」
「さっきから店前で何か御用ですか。」
店の女主人が中から出て来た。
「あ、ごめんなさい。今日ちょっとお金足りなそうなんで、また来ます!」
桜が笑って頭をかくと、女主人はフンと鼻で笑った。
「うちは貴族様にもご愛用いただいている高級店ですよ。貴女のような安っぽい娼婦では当分難しいのではないかしら。それに…」
カイルに目をやると、眉を顰め手で鼻を押さえた。
「獣人の臭いが衣類に付きでもしたら弁償して頂きますからね。」
「なっ!何その言い方!!あんたの方がよっぽど臭いんですけど!香水付けすぎじゃないの!」
「何ですって!」
「すみません、連れが失礼いたしました。」
「あら、これはこれは。ヒューストン様のお連れ様だったのですか?。
…私が言うことではございませんけれど、遊ばれる方はもう少し選ばれた方がよろしいですよ。お父様が見たら悲しまれますわ。」
「ハハハ。貴重なご意見有難うございます。
ですが、こちらの女性は異国からのご来賓です。私とその者は王命で護衛騎士をしているのです。王がお選びになられたお二人に何の問題があるのでしょうか。」
ラングレーの表情は変わらなかったが、声のトーンは冷ややかだった。
「ま、まぁそうでしたの。オホホホホ。そうですね言われてみれば不思議な素材のお召し物で素敵ですわね。そちらの獣人も、他の獣人とは違って品がありますわ。ええと、本日は何をお探しでしたか?よろしければ中を案内させていただきます。」
「いえ、今日は時間もありませんので、また今度お伺いいたします。さっ行きましょうか。」
「ちょっ、あたしまだ」
「良いから行きますよ。これ以上目立ってしまうと、もう街に降りられませんよ。」
「うっ…。」
ラングレーに背を押される形でその場を離れ、3人は寮まで静かに戻ったのだった。