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第17話 レッツゴー!

 ローザスの決めたスケジュール、そしてカイルが担当の時はカイルと共に集中して取り組んだだけあり、桜の翻訳業はどんどん進んでいった。


 基本的な単語ー私等の主語や走る等の動詞ーは調べなくてもアストリア語が書けるようになっていた一方で、先代聖女は医学に詳しい者だったと言うだけあり、桜自身も何か分からない単語が出てくるようになっていった。

 最初は帰りたい、辛いという気持ちがつらつらと書かれていただけだったが、数ヶ月後には成すべきことを成そうと切替、勉強を開始したのだ。アストリアの生い立ちに始まり、語学や聖女の魔法の勉強は彼女の気持ちを前向きにしていったようだった。

 そして魔法が使えるようになり巡礼が開始されると、穢れを祓うと同時に各地の悲惨な状況を嘆き、呼びかける声が増えていった。


「…衛生管理とか、英語でなんて言うか全然分からん。抗菌薬が必要って、んーこんな難しい単語、日本語でも分かんないのに英語なんてマジ無理!」

「急に大声出すなよな。」

「ごめんごめん。知らない言葉ばっかで分からなくてさ。ワンくんは勉強進んだ?」

「まあな。大分書けるようになってきたぜ!」

「偉いじゃ〜ん!よしよし!」

「や、やめろ!子供扱いすんなよ!」

 カイルは桜の部屋でレイクから貰った本とノートを毎回嬉しそうに見つめ、励んでいた。この世界において紙というのはそれなりに値のするものだそうだ。


(ワンくんってなんか、犬獣人だからかもだけど、マジ可愛い。)


 カイルはスキンシップの多い桜を煙たがっているようだったが、桜が頭を撫でればその尻尾はパタパタと揺れていた。


「今月分終わったらレイクさんに見てもらうんだから、サクラも頑張れよ。」

「そうなんだけど…。」


 3人の騎士は桜の身の安全を王から命じられているが、信用のあるローザスと共に行動していることから、レイクとラングレーにおいては常に桜のそばにいることはなく、遠くから視線を感じるような警護となっていた。

 そして今回の聖女召喚の責任者でもあり、先代聖女の日記翻訳についても許可を出しているウィリアム王子が美香と共に巡礼に出かけたことから、桜が翻訳した分は月に一度まとめてレイクが確認し、その後王室に献上するという流れが出来ていた。

 カイルの勉強についても、レイクが出した課題に対しレポートを作成し、桜と併せてレイクに提出する、という流れになっている。


(あれ以来レイクとはなんか気まずいんだよね。向こうは変わらないけど…)



「はーーー!仕方ない!分からんし、スマホ使うか!」

「すまほ?」

 桜はスクールバッグの中から大切に仕舞っておいたスマートフォンを取り出し、電源を点けた。聖女召喚のタイミングが早朝だったため、フル充電された状態だったスマートフォンも、電源を点けているとネットが繋がっていなくとも無意識に触ってしまうため、オフにした状態で仕舞っておいたのだ。


「英単語のアプリ、オフラインでも使えるやつ入れてたはずだから…うん、使えるわ。」

「それはなんだ?魔道具か??」

「まどーぐ?これはスマホだけど、同じのあるの?」

 興味津々に覗き込んでくるカイルの問いに対し桜も揃って首を傾げた。


「…お前は本当何も知らないんだな。ほら、前のお前の部屋でも、ボタンを押すだけで灯がついたり、捻るだけでお湯が出ただろ!あれは全部魔法石が使われている魔道具だよ。」

「へー!めっちゃファンタジーじゃん!すごっ!」

「魔法石自体高価なものだから俺達が使うことはあんまりないけどな。それは魔道具じゃないのか?」

「あたしもよく分かんないけど、電池?電気?で動いてんのよ。魔法ってのがあたしのいたとこじゃなかったからさ、全然違うものだよ。

 あたしの世界だとさ、ボタン押したら部屋は明るくなるし、お風呂に入るのだって別に王様じゃなくても普通に出来て当たり前だったし、これだってみんな持ってたし。」

「へー。魔法じゃないのにそんな風に明るくなったり絵が見れるのか。サクラがいた世界はすごいんだな!」


 カイルが瞳をキラキラさせ、尻尾をぶんぶんと振っていると、自分が作ったものでもないのに、桜は無性に嬉しい気持ちでたまらなくなった。


「…でしょ!?あたしの世界に来たら、色々見せたげるよ。ほら見て!これこないだのバレンタインデーにあたしと友達で作ったガトーショコラ。これクッキーにチョコで顔描いたの。可愛いっしょ。」

「すごいな、サクラの世界ではみんな菓子を食べてるんだな。」

「え?あーそういやあんまりみんなお菓子食べないよね?お城だと出てきてたけど、男の人って甘い物好きじゃないから?ワンくんも嫌いなの?」

「俺は食べたことない。」

「マ!?なんで!?」

「なんでって、菓子は高級品だぞ。俺みたいな獣人が食べられるわけないだろ。」


 カイルは事ある毎に『獣人だから』と言う。桜はそれがいつも気になっていた。

「別に獣人の何が悪いの?ワンくん食べたいんでしょ?食べてみたらいーじゃん。お給料貰ってんでしょ?」

「…無理だよ。」

「もう!あたしそういうウジウジしてんの嫌いなんだよね!

 よし、決めた。ローザちゃんにお金もらってからずっと色々買いたい物あって考えてたんだよね!街行こう!」

「街?おい、城から出るのか?なら許可取らないと。それに俺は街の案内なんて出来ないぞ!」

「大丈夫でしょ、すぐ帰って来るし。街の案内なら多分出来そうな人知ってるから〜!じゃ、早速行こーぜい!」

「おい、引っ張るなよ!」


 桜はニヤニヤとしながらスクールバッグを背負い、カイルの腕を引っ張ったのだった。

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