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第16話 意味なんてないから!

 桜はレイクの反応を受け、慌てて弁明をした。

「別にレイクのこと知りたかったとかじゃなくて、流れでそんな話になって、偶々聞いたって言うか。ローザちゃんにはあたしが無理矢理きいたって言うか…」

「いや、別に隠しているわけではないから良い。俺の名前を聞いて気付かないのはお前のようにこの国について無知な人間くらいだからな。」

「…あっそ。」


 桜はレイクの態度に慌てて損した気持ちになった。


「で、読み上げてあげるってことでOK?」

「いや、それは断る。」

「は?なんでよ。」

「アストリア王を差し置いて俺が先に内容を全て知るなど出来ない。」

「チェックしてもらう時に先に見てんじゃん。」

「それは間違った伝え方がないかの確認のため致し方ないからだ。確認後すぐに内容をお渡ししている。俺に許可が出ているのはそこまでだ。先に内容を知るなど、処罰に値する行為だ。」

「…だってレイクはこの中にアリアって国について何か書かれてないか知りたいんでしょ?先に書いてあるかどうか知るくらいいーじゃん。」

「書いてなかったらどうする?」

「え?」


 レイクの問いに桜は戸惑った。俯いていてよく顔は見えないが、その声はとても哀しい声だったのだ。


「…俺の曽祖父の時代にアリアは消滅した。その際に曽祖母、第一皇子である祖父は共に命を落としたそうだが、当時身籠もっていた祖母はアシスタの王に助けられ、この地に移住。そして母を産んだんだ。

 母はもちろん、俺もアリアという名を持つだけで、母国については見たこともない。だが、母は祖母から託されたアリアの復興を願っていた。」

「レイクのお母さんもお城に住んでるの?」

「5年前に死んだ。王族だったと言ってもそれは過去の話だからな。

 アストリア国民の一人として、暮らしていたが…祖母は王族の名残が消えなかったんだろう。市民の暮らしが合わずに早くに死んだそうだ。母は祖母から受けた影響のせいか、市民にしては気品のある人だった。」

「そうなんだ…お父さんは?」

「親父はアストリアの騎士だったんだ。騎士と言っても門番だがな、母さんに一目惚れしたそうだよ。」

「仲良かったんだね。」

「ああ。親父が流行病に罹って、その後母さんも同じ病気で死んだ。多分介護していたからだろうな。俺は親父が倒れた時に騎士寮に入れてもらって、父さんと母さんとも、それきり。死んだってのも人伝に聞いたんだ。」

「…大変だったんだね。」


 桜はそれ以上何も言うことが出来なかった。自分のいた地球で、特に日本という国で暮らしていた桜にとって、レイクの辛さを想像することは容易ではなかった。

 レイクはそんな桜の様子を見てか、いつもより明るい口調で話を続けた。


「だから最初に言った、先代の聖女様の、異世界の医学の知識が残されていないかを知りたいという気持ちも本当だ。だが、母国について知りたいという気持ちもある。俺が調べられる範囲で調べても、大した情報は得られなかったからな。

 俺は別に祖母や母のようにアリアの復興をしようとは思っていないが、それでも二度と国が滅びるという結末を辿らないよう、王族の末裔として、アリアに何が起こったのか、知る必要があると思っている。」

「じゃあ尚更!」

「俺は王に恩がある。不敬になるようなことはしたくない。それに…」


 レイクは一呼吸置いて続けた。


「アリアの情報が残されているとすれば、もうその本だけだ。その本に何も残っていなければこれ以上俺が探る術はない。笑いたければ笑え。俺はただ…怖いんだ。」

「笑わないよ!!」

 

 桜は背を向けたレイクを後ろから抱きしめた。レイクが泣いているように感じ、居ても立ってもいられなかったのだ。


「あたしは頑張ってる人のことを絶対笑ったりしない!そう決めてるの!だから、レイクのことも絶対笑わない!王様の決まり事、守らなきゃなのに無理言ってごめんね!あたし、翻訳頑張るから!楽しみに待っててよ!」


 レイクは何の返事もしなかったが、抱きついている桜の腕を振り払おうともしなかった。


 しばらくの間、桜の耳元にはレイクの鼓動だけが聞こえ、静かな時が流れた。

 そしてローザスが桜を探している声が聞こえると、急に我に帰り、

「じゃ、じゃあ話それだけだからあたし帰るわ!急に来てごめんね!」

と真っ赤な顔でバタバタと退出したのだった。


 桜はレイクの顔を見なかったが、レイクもまた、桜と同じような表情をしていた。



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