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第15話 ローザちゃん

 桜が倒れてからと言うもの、ローザスとの距離はグッと縮まった。


「全くもう!メイドのお仕事以外に仕事を持ってるなら先に相談しなきゃダメでしょ!」

「ご、ごめんなさい。でもローザちゃんだけで騎士寮の仕事全部やるとか無理ゲーじゃん。」

「体調第一!それに元々聖女様の巡礼のために集まった騎士の分のメイド募集だったのよ。今はその騎士達は聖女様と一緒に出発したし、気にすることないのよ。」


 ローザスはこれまで誰にも言えずに抑え込んでいていた反動のように、すっかり見た目も話し方も変わっていた。嫌悪されると思っていた秘密が、桜もレイクも気にしなかったことや桜が誰に何を言われようと短いスカートの“自分らしい姿“を突き通す姿勢に感銘を受けたのだった。

 そして今では堂々と騎士達に対しても「ローザちゃんと呼んで」と公表している。もちろんそんな名前で呼んでいるのは桜くらいで、中には嫌悪感を露わにする者もいたが、ローザスはそれらに反応することもなく生き生きとしていた。


「えっじゃああたしって要らないの?」

「んー、本当は短期の募集だったけど、桜ちゃん一生懸命働いてくれるし、他に行くあてもないなら、私としてはここに残って欲しいわ。オジスタンも桜ちゃんのレシピ、もっと知りたいって言ってるしね。

 大した賃金は払えないけど、それでよければここにいなさい。」

 桜は騎士寮のメイドとして、王城の料理人であるオジスタンの元へも度々足を運んでいた。本来騎士寮で使用する分の材料を貰いに行くだけではあったが、いつも虚しそうに一人で食事していたオジスタンのために昼食を一緒に取ったり、地球のレシピを覚えているだけ伝えているのだ。


「お金なんていいよ!ご飯とか部屋とか用意してもらって助かってるし。」

「ダメよ。桜ちゃんはきちんと働いているんだから。お金はあって困るものではないからね。

 ただ…そうね、メイドの仕事の翻訳の仕事を半々にして、1日はきちんとお休みする、と言うのでどうかしら?」

「えっ、いやマジであたし体動かしてる方が好きだから、翻訳の仕事ばっかやってるとしんどいって言うか…。もう少し少なくてもいいかな…。」

「でもそれもやらないといけないんでしょう?レイクも桜ちゃんが翻訳頑張ってくれたの、喜んでたわよ。」

「あいつが?マジ?」

「マジのマジよ。あの子分かりづらいけど、きっと母国のことが何か知りたいんだわ。」

「母国?」


 ローザスはしまっという顔をしてはぐらかそうとしたが、桜はローザスを捕まえて離さなかった。


「…別に隠してるわけじゃないけどね、あの子の名前、レイク・アリアでしょ?アリアって言うのは今はもうない国。アストリアになる前にあった国ね。」

「あーそれはなんか聞いたかも。」

「レイクはアリア国の王族だったのよ。王族と言ってもあの子が生まれる前に無くなった国だけどね。

 ほら、あの子の髪、この国では珍しい真っ黒でしょ?アリア国にも随分と前に聖女様がいらっしゃって、その方の血筋から、あの子のように黒系の髪色が多かったみたいなの。」

「そうなんだ。」

 この国では珍しい、と言われても城内から出たことがないため気が付かなかった。だが言われてみれば騎士達もレイクのような真っ黒という髪の者はおらず、いても茶色だ。


「アリアの民は穢れで溢れた魔物に襲われ、今はその血筋もごく僅かしか残っていないみたいだし、随分と前のことだからアリア国を知る人はもう残っていないでしょうね。

 桜ちゃんの持ってる先代の聖女様の頃にはもうアリアは無くなっていたから、何か残っているかは分からないけれど、レイクはきっとアリア国の王族として、母国がどんな国だったのか知りたいんだと思うわ。」

「そっか…。」

「とりあえず、日中は騎士寮のお仕事、その後は翻訳のお仕事。週に一度は必ず何もしないでゆっくり休む日を設けること。これで良いかしら?」


 桜はローザスの言葉に首を縦に振った。


 誰からも後回しにして良いと言われた翻訳の仕事。レイクだけはその中に自分が探し求めているものがあるかも知れないと待ち侘びている。自分の存在意義がそこにあるように感じた。



 ♢


 騎士寮の一番奥の部屋を桜はスクールバッグを手に訪ねた。

「レイク、いる?入っても良い?」

「…勝手にしろ。」


 小さな1室の中で、レイクは読んでいた本を閉じた。桜は深く考えず思い立ったままにレイクの元を尋ねたが、レイクの顔を見るとなんと切り出せばよいか分からなくなってしまった。


「翻訳が進んだのか?」

「あ、いや、ごめん。それはまだなんだけど。ワンく…カイルが護衛担当のときは、一緒に翻訳がてら勉強することになったから、あたしじゃ教えることは出来ないし、一緒に見てもらえる?」

「ああ。カイルからも聞いた。読み書きの練習に適してそうな本を渡しておいたから、翻訳したものと合わせて俺が進捗を確認する。」

「あ、そ、そうなんだ…。」

「用はそれだけか?」


 桜はスクールバッグの中から聖女の日記を取り出し、ぎゅっと抱きしめてレイクを見つめ、

「あのさ!レイクは日記の中身が知りたいんだよね?あたしが翻訳してたらきっと時間めっちゃかかるし、読む分にはすぐにできるから、あたしが読み上げてあげようか?そしたらレイクの知りたいことが書いてあるかどうかも分かるし!」

と一息で思いをぶつけた。



 桜が息を整えながらレイクを見つめると、レイクは

「ローザスさんに聞いたんだな。」

とだけため息混じりに呟いた。


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