プロローグ② 理不尽な死と新たな始まり
プロローグ③です。よろしくお願いします。
ゲホッゲホッ、ガハッッッ‼︎!
トイレの洗面台の前で、拓真は激しく咳をしていた。
咳を受け止めた手を見ると、大量の血がついている。
「どうなっちまったんだ、俺の体は...。」
苦笑しつつ、鏡を見ると、トイレの入り口に黒い影が立っていた。
「!?」
ギョッとして後ろを振り向くと、そこにはニコニコと笑みを浮かべる小鳥遊が立っていた。
ホッと息を吐くと、拓真は喋り掛けた。
「すまん。皆には調子が悪いから戻れそうにないって...。」
言っといて、と言いかけたその瞬間、小鳥遊が拓真に向かって走り出した。何かが腹に当たる感触がする。鈍い痛みが走り、思わず、ギュッと目を閉じた。
目を開けると、包丁が腹に刺さっていた。
「つッッッ‼︎」
ドン、と小鳥遊を押し返す。刃先が体から離れた。
「痛いじゃないかぁ。」
小鳥遊はさらにニンマリと笑った。
「鏡くん♪」
もはや不気味なまでに、口の端を上げながら、小鳥遊は自分の服をパンパンと払った。
「な、何で...。」
いや、それよりも...。
「誰か...助けてくれ...誰か...。」
拓真は助けを求める声を上げるが、先程の体の異変や、今の包丁に刺された激痛のせいで、それはとてつもなく、か細い声となった。
「もう助けを呼ぶことさえ出来ないんだねぇ。可哀想に。」
ニヤニヤ笑いながら、小鳥遊が言う。
「君は、何のために、僕がここまでしたのか、分かるかい?」
「さぁな、今日初めて喋ったような仲だぜ?」
はぁはぁ息をしながら、拓真は何とか答える。
「僕はね、前に隣のクラスの森田さんに告白したんだけどね、振られちゃったんだ。」
「それで?それが俺に何の関係があるんだ?」
「何の...だと?」
小鳥遊は突然拓真の首を掴むと、床に押し付けた。
「グァッ!」
「彼女、僕を振る時、何て言ったと思う?私、A組の鏡くんが好きなの〜、だってさ!信じられる?
僕の方が君の何倍も、賢くて!運動が出来て!何でもできるのにさぁ!あのバカ女は僕じゃなくて、君を選んだ!
僕はね、許せないんだよ、それが!お前みたいな能天気なアホが僕に勝つなんてさ‼︎そんなことはあり得ないんだよ、鏡ぃ‼︎!」
そして小鳥遊はスウッと息をするとこう言った。
「だから君を殺すんだ、鏡くん。」
それは、理不尽すぎる理由だった。拓真には、何の非もなかった。しかし、小鳥遊にとっては十分だったのだ。自分が拓真よりも下だということが耐えられなかったのだ。
「分かったから...もう、やめ....ろ.....。」
拓真は息も絶え絶えになっていた。涙に濡れ、鼻水と涎を垂らし、目を充血させたその姿は、非常に惨めだった。
そんな拓真を見た小鳥遊は、さらにニンマリと口角を上げ、顔を熱らせた。
「あぁ、君は、その顔を僕に見せてくれる為に生まれてきたんだね。」
話を続ける小鳥遊の顔が、ボンヤリとしか見えなくなっていく。拓真は静かに目を閉じた。
そして、小鳥遊はこう言った。
「ありがとう。」
そのまま、小鳥遊は包丁を拓真に振り下ろした。
拓真の意識は、そこで途切れた。
...どこだ、ここは....。
拓真は、ネッチョリとした、泥の中で、沈んでいくような感じがした。
「だから...イツは...べきだよ....。」
「それは...いんじゃない?」
男たちの喋り声が聞こえてくる。
(お前らは誰だ...。)
ここで拓真は、声を発さないことに気がついた。
思い切って目を開けようとするが、それも出来なかった。
(ク...ソ...何なんだよ、一体...)
そして、再び拓真の意識は落ちていった。
ガヤガヤ ワーワー
人々の話し声や騒ぎ声が聞こえる。
うるさいな、もっと寝させてくれよ。
拓真は目を閉じたまま、心の中で文句を言う。
....今日って何曜日だっけ?
日曜だったらいいなー、なんて考えているうちに少しずつ脳みそが覚醒してくる。
「そうだ!俺は刺されたんだ!じゃあ、ここは病
院か?」
カッと目を見開き、体を起こす。
眼前には...見たこともない景色が広がっていた。いや、全く見たこともない景色ではないのだが。拓真はこれと似たようなものを何度か見たことがあった。
ただし、アニメやゲームの世界でだが。
そこは...そう、まるでゲームでいう「最初の町」のような場所だった。
ウサギの耳のようなものを生やした少女が、母親だろうか?これまた、うさ耳を生やした女性と手を繋いで、棚に並んだ品物を物色している。店の前で、剣を手に取り、眺めている青年の耳は、ピンっと尖っていた。そして、何よりも皆、カラフルな髪の色をしていた。赤に青、黄色に緑、紫色なんかもいる。
道の真ん中で口を開けて、ポカンとしている拓真を町の人々は銀やら、水色やらの目で、不審そうにチラチラと見ていた。
やっと、頭に情報が流れ込んだ拓真は、大声を上げる。
「もしかして俺、異世界転生しちゃったのぉぉ‼︎?」
周りの人々はビクリとすると、そそくさと通り過ぎていった。
どうでしょうか?
プロローグはこれにてお終い、次話からが本番です。自分でもペースクソ遅いなと思いますが、書きたいことを書いてると、どんどん増えていっちゃうんですよね(笑)。
これからも頑張って行こうと思います。