かくれんぼ その3
部室棟から出ると、不条さんの後ろに付いて校門の方に歩いていく。
歩いている最中はお互い無言で、校門までたどり着く頃にはこの空気に耐えられずに口を開いた。
「あの......なんで弟の小学校が分かったのでしょうか?」
「あぁ、何も説明してなかったね。時間も惜しいし小学校に向かいながら話そうか。」
不条さんは足を止めてこちらを振り返りながらそう言った。
私が彼の隣に並んだところで一緒に歩き始める。
「さて、どこから話そうかな......あの小学校では丁度10年前にも小学生の行方不明者が出ている。残念ながら見つかってはいない。近い場所の事件だから僕も調べていて、嫌な言い方だがあまり進展はなかった。」
「そう......なんですか......。」
私はその言葉に落胆を隠せなかった。
だが、そんな私に彼は続ける。
「その時はね。」
「...!その時はという事は何か進展があったという事ですか!?」
「とりあえず落ち着いてくれ。そもそもあの学校はできてから30年ほどの学校で、その前は公園だったらしい。山にも面しているから結構広い公園だったようだよ。ここからが重要なんだが、公園時代にも小学生の行方不明者がでている。」
「じゃあ、まさか同じ犯人が弟を......。」
「その可能性は高いと僕は踏んでいる。」
そんな連続誘拐犯がこの町にいるだなんて警察は何も話してくれなかった。
「公園の事件時に行方不明になったのは、かくれんぼをしている最中だったそうだ。その子は隠れる側だったんだが、鬼の子が他の全員を見つけて他の子に聞いても。どのあたりに隠れたか見当もつかない。見つかった子も総出で探したが......いよいよ見つからずに日が落ちてしまった。もしかしたら帰ってしまったのではないかと考え始める子も居たので、その子の家の近くに住んでいる子が確認しに行くことになった。その子の家のチャイムを鳴らすと、お母さんが出てきたので事情を説明するが帰ってきていない。その後は大勢の大人や、警察が捜索をしたものの残念ながら見つからなかったそうだ。」
そんな事件があったとは知らなかった。
両親や警察は知っていたのだろうか。
思案しているうちに不条さんは足を止めて口を開く。
「さて、そんな曰く付きの場所でまた事件が起こってしまったという事だ。さあ、着いたね。」
いつもはただの活気ある場所にしか見えないのに、そんな話を聞いた後だからか......以前見た時より学校が暗く感じる。
校門を超えて帰ろうとする女の子に彼は話しかける。
「そこの君、少し聞きたいことがあるんだが良いだろうか。」
「え、えっと......なんですか?」
応えながらもランドセルにつけられた防犯ブザーに手をかけている。
弟が行方不明なのもあるが、大人に急に話しかけられればその反応も正しい。
「おっと、怪しいけど不審者じゃない。僕は行方不明になったこの学校の子を探していてね。彼女はその子のお姉さんなんだ。その為に聞きたいことがあるんだけど協力してくれないかな?もちろんこの場所でこの距離を保ったままでいいからさ。」
そう言うと納得してくれたのか、彼女は少し警戒を解いて口を開いてくれた。
「それで、聞きたいことってなんですかお兄さん。」
「さっきも言った行方不明の子について、学校ではどんな噂が流れているか教えてくれないかな?」
「一応、同じ学年だけど他のクラスの神原君の噂が今は多いです。」
そこで女の子は私の方をチラリと見ると少し戸惑う様子を見せている。
やはり姉である私が居ると話しずらい内容なのだろうか。
「私のことは気にしなくていいから、どんな話でも教えてくれるかな?」
「わかりました......誘拐されたとか、山の怪物に食べられたとか、異世界に転生したとか色々あります。だけど一番話題になってるのは図工室の幽霊に連れ去られたっていう噂です。」
「図工室の幽霊?それは少し気になる話だな。詳しく聞かせてもらえるかい?」
「まず、学校には七不思議があるんです。13階段、地獄の教室、トイレの花子さん、4時44分の鏡、黒マントの男、そして図工室の幽霊です。」
ここで私は疑問に思ったことがあり、口を開いた。
「七不思議だと一つ足りなくない?」
「それは僕が説明しよう。七不思議というのは諸説あってね、最後の一つを知れば死んでしまうとか、最後の一つは自分自身が体験してしまうとかね。」
「だから6つしかないんですね。それで弟は図工室の幽霊に連れ去られたって噂が多いと......」
弟を連れ去った犯人は幽霊だった。なんて小学生らしい話だなと思う。
それにしっかり付き合う不条さんは子供好きなのだろうか?
犯人らしい人の話も聞けなさそうだし、そろそろ本格的に探し始めるだろうかと不条さんの方を見ると。
「......。」
口元を押さえて何かを考え込んでいる様子だった。
「あの?もう行ってもいいですか?」
女の子に話しかけられた不条さんは口元から手を離す。
「あぁ、ごめんね。最後に一つだけ教えてもらえるかい?その図工室の幽霊の噂というのを聞かせてもらいたい。」
「いいですよ。」
そして、その女の子はこんな話を語りだした。
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旧校舎を主に使っていた時代に、かくれんぼをしていた子たちが居ました。
1階にある図工室に隠れようと思ったA君は、さらに見つかりにくそうな場所を探しているところに声が聞こえ、とっさに掃除用具用のロッカーの中に隠れます。
隠れている間も声は聞こえてくるので、息をひそめているとガラっという扉の開く音が聞こえてきました。
鬼であるB君が探しに来たのかと思い、息をひそめながらロッカーの扉の隙間から図工室の中の様子を覗きます。
すると、B君がA君たちを探している様子が見えました。
隠れながら見つからないかとドキドキしていると......「おーい!」という、明らかにB君とは違う声が聞こえてきます。
他に誰かいるのかと図工室の中を見回そうとするも、ロッカーの穴からではなかなか見えない。
仕方なくA君はB君を見ていると、B君も声が聞こえたのかあたりを見回している様子でした。
「こっちこっち!」
更に声が聞こえます。
A君には声がどこから聞こえているのかはやはり分からないのですが、B君は違かったようで窓の方を見つめていました。
(窓に誰かいるのかな?)
B君が窓の方に近づくと、開いた窓から風が入ってきたのかカーテンが揺れてB君の姿を隠してしまう。
「みーつけた。」と、いう声と共にB君の姿がふっと消えてしまった。
さすがに驚いたA君はロッカーから飛び出て窓まで駆け寄ります。
でもそこにはB君はおろか声の主の姿も無く、窓を超えたとしてもベランダはありません。
下に落ちた様子もなく、まるで煙のように消えてしまったようだった。
その後、他の隠れていた子もB君を探したが見つからず、次の日に担任の先生がB君は転校しましたと告げるだけで何も分からなかった。
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「ありがとう。とてもいい話を聞けたよ。」
「じゃあ、そろそろ習い事のピアノの時間もあるので帰りますね。」
私と不条さんは手を振って女の子を見送り、姿が見えなくなったあたりで不条さんは私に向いて言う。
「それじゃあ、中に入ろうか。」
私は頷いて不条さんと一緒に学校の敷地内に入った。
結局、小学生相手では学校の怖い噂を聞いただけで特に進展は無く、時間の無駄だったように思える。
ただ、私の気のせいだろうか。
不条さんが口元を押さえている時に笑っているように見えたのは......。