第72話 シュンVSカリブ、譲れない戦い。中編
「おい雑魚! 逃げるしか能がないのかぁ!」
俺は斬撃波を毎秒に近いほど繰り返し、空中にいる奴に猛ラッシュをぶち込んだ。
なんだあいつの魔闘器、よく見りゃガキの頃に使ったやつじゃねぇか。
MPがでかいからあんな高くまで飛べるんだろうが、所詮それだけ。
俺の攻撃もよろめいてまともに避けれていない。
大腿、腕、耳と致命傷ではないが確実にダメージを刻んでいる。
やはり、俺様がこんな雑魚のせいで落ちぶれるなんて何かの間違いだ。
__入場前__
「カリブ様、入場前に話したいことがあるんですが......」
ブスめ、俺を不幸に陥れた張本人をボコボコにできるって時になんなんだ?
「あん?」
ブスを見ると、言葉を詰まらせてもじもじとしていた。
「はっきり言え!」
「シュンさんとの戦い、油断しないでください。シュンさん、今はすごく強くなっていますから」
はぁ、俺様を引き留め、言い淀んででた言葉がそれか?
まったくこいつは、物事の摂理をまるでわかっていないな。
「いいかブスよく聞けよ? 俺様は勇者族で一番才能が優れているんだぞ? に対してあいつは同じ勇者族の血筋は引いているが、所詮貧乏一家だ。
あいつがどれほど強くなろうと、持って生まれた素質そのものはどうにもできん」
「でも」
俺はそれでも引き下がらないブスの胸倉を掴んだ。
「そこまでいうなら賭けてやるよ。もし俺様が負けたらお前のいうこと1つ、なんでも聞いてやるよ」
「なんでも?」
「あぁ、その代わり。俺様が勝ったらてめぇは二度と面見せるな!」
いい加減、まとわりつくこいつに鬱陶しさの限界に来ていたところだ。
丁度いい、優勝すれば俺様は新たに強い仲間を集められる。
こんなブス、所詮身体ぐらいしか使い道がなかった。
この機に消えてもらおう。
「わかり......ました」
「ふんっ!」
俺はブスを押し飛ばし、駆け足でフィールドに登った。
見てろよブス、Fランクの雑魚を余裕でぶち殺してやる。
__現在__
さぁ、そろそろ弱りだしたかな。
斬撃の連打を終わらせ、奴の様子を伺ってみた。
空中でなんとか耐えきったようだが、傷だらけで苦悶の顔を浮かべている。
さぁ、そろそろ大詰めといきますか。
「おーっと! カリブの剣が魔力のオーラを纏って巨大化したぁ!」
シュンを応援していた観客は、俺の溜めの構えを見て落胆している。
そりゃ、ボロボロの雑魚とこの俺様の大技を見れば勝負がついたと思うものだ。
「これで......最後だぁ!!!」
地面に切れ込みを入れ、すくい上げるように振り上げた剣先から会場中に波紋のように衝撃が広がる。
紫色の半月型の斬撃が、シュン目がけて放たれた。
シュンは、第一試合でやっていた投石で斬撃を相殺しようとしている。
だが、いくら石を投げても無駄だ。
俺の意思か、対象にぶつかるまでどんな攻撃でも防ぐことはできない。
このドラゴンキラーで貴様を灰にして、俺は名誉を取り戻す!
空中でバコンと衝撃音が鳴り響き、振動がここまで伝わった。
「ねえ、もしかして死んでしまったんじゃ」
観客は騒然となり、奴のことを心配する声がやまない。
まったく、あんな雑魚1人が消えたところでそんな騒ぐな。
この俺様の華麗な技を拝見できたことに感動してもらいたいもんだ。
「シュ、シュンの身体が木っ端みじんに消滅したぁ!? これは勝負はついたが、ルール的にはいいのか?」
マナフェスがそういうと、審判員たちでの話合いが始まった。
ちっ、殺しちまうのはやはりまずかったのか?
「審判ども、強い奴を決める大会だろ? なら死人がでても仕方ねぇんじゃ......!?」
そう頬を吊り上げた瞬間、何かが両肩をかすめた。
目線をやると、紙風船がどちらも破裂している。
これは......なんだ?
まさか、まだあいつが生きてる!?
だが見上げるとやはり何もいない。
いや、太陽になにか人型の黒い影がある。
「シュンが生きてたぞ! どういうことだ?」
観客が困惑する中、俺は唇を噛み一筋の血を垂らした。
「あの大技を耐えきったのか? シュンはカリブの風船を2つ割り、一気に形成逆転したぁ!」
マナフェスがそう叫ぶと観客は沸き立ち、少し地鳴りが起きる。
この俺が、いや天才がFランクの底辺に逆転されたというのか?
これは現実か?
ふざけるなよ、力で押し負けたわけでもないのにこんなことあっていいはずがない。
そうだ、今の不意打ちは奴の苦し紛れの奇跡に近いもの。
もうここからは同じ手も通用しないし、奴がズタボロになるまで攻撃を止めなきゃいい話だ。
俺は再び、剣に魔力を注ぎ込んだ。




