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第71話 シュンVSカリブ、譲れない戦い。前編

 入場口前、通り抜ける風に若干背筋が震える。

パーティーを辞めさせられたあの日は、まさかこんなことになるとは思わなかった。

シュンが、カリブとバトル大会で戦うことになるなんて。


「シュン、やっぱりエレファントさんたちがどこにもいないわ」


 後ろから現れたシュエリーは、目を足元に落とした。

昼休憩が終わり、俺の試合が近づくまでずっと見つからない。

3人とも、いったいどうしたっていうのか。


「3人とも強いし、大丈夫だよ」


 気休めとわかっていながらも、俺は彼女にそう話す。


「そうね、ごめんなさい。シュンは試合が始まるのに、こんなこといってちゃダメよね」


 まったく、こういう時だけ気を回すんだから。


「いや、逆に気が抜けて落ち着いたよ。じゃ、行ってくる」


 階段を一段一段上がるたび、あの日のことや勇者パーティーでの生活を思い出した。

あの頃は、本当に雑用しかさせてもらえなくて辛かった。

自分の目的も忘れてしまうほど、男のくせに枕を濡らす毎日だ。

だけど今は違う。

シュエリーさんと出会って、一歩一歩自分が力をつけていることがわかる。

俺を役立たずといって見放したカリブに、今の自分の全てをぶつけてやりたい。


「さぁ、みんなの待ちわびたシュンの登場だぁ! ここまで対戦相手を気絶させて完封してきた、予想外のダークホース! かつての仲間とのこの試合、はたしてどうなるぅ!」


 マナフェスの掛け声、なんか最初の方より良くなっている気がする。

まぁFランクがここまで勝ち上がること自体、滅多にありえないことだし当然か。


「頑張れーシュン!」


「お前以外とすげぇじゃん!」


 いや、マナフェスだけじゃない。

観客の反応も俺に好意的になってる。

そうか、やっと俺たちの頑張りが認められてきているんだ。

少し頬が緩んだのに気づき、頬をパチンと叩いた。

いけない、これからあいつと戦うのに舞い上がってる場合じゃない。


「かつてはカエサルの再来と、町行くすべての人は称えた。勇者カリブの登場だ! 奈落に落ちた評判を取り戻せるかぁ?」


 カリブ、お前は昔の俺なのかもしれないな。

フィールドに現れた彼は、ブーイングの嵐を苛立ちながらも耐えていた。


「カリブ! お前シュンに勝てんのかよ!」


 いや、俺よりも挽回が難しいだろう。

彼は評判が落ちたとはいえ、実力は誰もが認めている。

それゆえに、彼は途中経過でなにをしても意味はない。

優勝するしか、彼が名誉を挽回することはできないだろう。

自分勝手でこき使ってきた奴だけど、少し同情するよ。


 だが、お前相手に手加減できるほど俺も余裕はない。

悪いけど、この試合も全力でやらせてもらうぞ。

ゴングが鳴り、俺はファイティングポーズをとる。


「試合開始してもうるせえハエどもだぜ。しかしまぁ、久しぶりだなぁシュン」


 カリブは頭をボリボリと欠きながら、特段構えてこない。

俺は話しかけてくる彼に無言を決め込んだ。


「思えば、お前を抜けさせたことが俺様の汚点にして最大の過ちだったぜ」


 なんだ? もしかして、今までのことを反省しているのか?

あの横柄で自分第一のカリブが?


「俺はあん時から、抜け殻のような生活を強いられてきた。てめぇが、全て狂わせたんだ」


 違う、殺気を押し殺しているんだ。

殺し合いではないから、力を開放しすぎないように抑え込んでいる。

そのただならぬオーラに、俺は危険を感じて地上から離れ距離をとった。

しかし飛び去った直後、斬撃が放たれた。

遠くにいて正解だった。

向かってくるそれは、速くて威力がありそうだけど、回避可能なものだ。


「おっと! シュンの右肩の風船が破損したぁ! 開始早々、カリブが有利に立った!」


 なんだ、今の突風!?

俺はたしかに脚の魔闘器を使って移動したはず。

なのに、いきなり強烈な風に身体を持ってかれた。

剣術は一流だけど、カリブは魔法は使えるわけではない。

魔法のような感じがしたけど、自然のものなのか?


「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」


 考えを巡らしていると、再び斬撃が飛んでくる。

今度は先ほどよりも、魔力の噴出量を上げて回避を試みる。

しかしやはり何か魔法のような風に当たる。

今回は噴出の量を上げたから、風の壁を強引にブチ破れた。

けど、頬に斬撃をかすめ、後方にいた鳥はスパっと真っ二つにされる。

あれがもし、俺に直撃していたらと思うと......。


「安心しろ、殺しはしねぇよ。半殺しだ」


 鬼のような形相でこちらを睨むカリブに、俺は生唾を飲んだ。

どうみても半殺しではない、全殺しの火力。

やはり彼と戦うには、余力を気にしている暇はない。

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