第51話 シュン、シュエリーに呼び出される。後編
俺とシュエリーのテーブルに香ばしい湯気が舞い上がる皿が到着した。
「うわぁ、本当にハンバーグ!? やったぁ」
料理が運ばれてきて、シュエリーは満面の笑みでナイフとフォークをとる。
ハンバーグといっても実は牛肉を使っているわけではない。
この国の財政的に、そんないいもの安い店にあるわけないのだ。
「ん~美味しい! 妹たちも今度連れてこようかしら」
あはは、この人おからを肉だと勘違いしてらぁ。
まったく大人ぶってるくせにこういう所は...。
「そんなにジロジロ見ても上げないわよ?」
シュエリーはリスのように頬袋に食べ物をため込みながら、そう口にする。
俺はというと、節約してドリンクだけを頂いていた。
ゴブリン討伐で報酬は貰ったけど、こんなところで一気に使うわけにはいけない。
彼女は3人で生活費を消費しているんだから、俺よりもこんな散財してはいけないと思うんだがなぁ。
__数分後__
「で、話ってのをそろそろ」
少し膨れた腹をポンポンと叩くシュエリーは、水を少し飲んだ後口を開いた。
「シュン、このスプーンをよく見なさい」
そういうと、彼女はマジシャンのように曲げるふりをして見せる。
実際はなんも変化は起きていなく、何がしたいのかわからなかった。
しかし、スプーン越しに写る俺の後ろの席に座る男の視線に気づく。
「あれってもしかして…」
俺がそう口にしかけると、彼女はスプーンをひしゃげて見せた。
「どうかしら私のマジックは? すごい? すごいわよね!」
圧を感じるその一挙手一投足に、やんわりと意図を理解する。
多分、後ろの男はイヴァンの使者で俺たちを監視しているのだろう。
それからの会話は、シュエリーが持参したメモ帳によって行われた。
「シュン、絵しりとりでもしましょうか! 負けた方がここを奢るってことで」
あからさまに声を大きくして、彼女は文字を見せる。
紙には、現在の俺たちの立場について書かれている。
どうやらシュエリーの推察では、俺たちが誰かに情報を漏らさないか監視しているのではないかという。
あっちからすればカリナの生死が不明だし、暗殺を誰が差し向けたか、漏れられるわけにはいかないからだ。
でも、それならば何故俺たちを殺さないのか?
その疑問を投げかけてみると、またしてもびっしりとメッセージが書かれた紙を見せられる。
なるほど、数千のゴブリンを退治した俺たちに迂闊に手が出せないってわけか。
イヴァンは彼女のいうとおり、かなり慎重な性格らしい。
こうなることがわかってシュエリーは、カリナさんをミリアさんに預けたんだろうな。
でも、それならなおさら2人でこうして行動しているのは怪しく見えないだろうか?
「馬鹿ね。このままずっと監視されてるわけにはいけないでしょ」
疑問を書いた紙を俺が出す暇を与えず、続け様にそう書かれた文字を読ませてきた。
しりとりで相手の順番奪うなよ、シュエリーさん。
そう思いつつ、煽りフレーズが入ったそれを読むと、むせ返るような文面が記されていた。
なんと、ギルドが主催する冒険者同士のバトル大会に参加しようというのだ。
急展開すぎるだろと思わず口走ると、彼女は口を開いた俺に罰を与えるようにニッコリとこちらにスマイルを送った。
「はい私の勝ち! シュン、ここの勘定済ませてね。先に出てるから、あーはっは!」
そういうと、彼女は紙を全て燃やして勝ち誇った顔で店を後にした。
「お客様、お支払いを」
俺はというと、理解が追いつかぬまま払い済ませてただ飯女の後を追った。
イヴァンに対抗するためにギルドが主催の大会に出るなんて、自分から敵陣に乗り込むようなものなのに。
一体何を考えているのかあの人は。
ていうか、飯奢らせたの絶対仕組んだとしか思えないクソっ。




