第49話 シュン、シュエリーに呼び出される。前編
俺はあのゴブリン討伐クエストを終えて2日後、シュエリーに手紙をもらった。
街に戻った俺たちは、彼女の推察通り何も危害は加えられなかった。
カリナさんとミリアさんと別れた後、普通にクエスト報酬を受け取り家に帰れたのは今でも信じられない。
ていうか、こんな掘っ立て小屋によくもまぁ配達員も届けに来るもんだ。
おっと、手紙読むんだった。
何だろうな、もしかして借金の返済要求だったり?
そういえば利息付けてやるとか言われたような、開けるの怖くなってきちゃったな。
「拝啓、負債者シュンへ。明日の昼、噴水広場の前に来なさい。こなければ利息を付けます。敬具、美少女シュエリーちゃんより」
やっぱり来たぁぁ!? あの洞窟でかなり煽ってしまったからな俺!
やばいぃ、生活が苦しくてパーティー組んだのにこのままじゃミイラ取りじゃないか。
頭を抱えて地面をのたうちまわっていると、不意に空を見上げた。
はっ!
ここ街から外れてるから配達物一日遅れてくるじゃんそういえば!
ていうことはもしかして、今日が明日なんじゃないか?
急いで支度しないと待ち合わせに遅れる!
◆◇◆◇◆
寝ぐせや外着のしわを整える間もなく、待ち合い場所へ来てしまった。
俺は急ぎすぎてシュエリーより先に来てしまったようだ。
ただ待っているのもなんだし、寝ぐせだけでも直すか。
噴水の受け皿に貯まる水を鏡代わりにし、俺はうんちのような髪型に手を入れる。
今日の寝ぐせはやけに酷く、噴水の水を少し付けたぐらいじゃ治らない。
「あー、私のスライムちゃんが! うぇーん」
苦戦していると、木の下で小さな子どもが泣いている声が聞こえる。
どうやらペットのスライムが木の上に登って、降りられないらしい。
「どれどれ、お兄ちゃんが登って助けてあげるよ」
そういうと子どもは涙を拭き、俺の登る様を見届けていた。
よーし、ここはかっこよくスライムを救出して、金運を呼び寄せるぞ。
「さぁおいでー、怖くないよスライムちゃん」
俺が手を伸ばしたその瞬間、掴んでいた木の枝が「バキっ」とひびが入る。
聞こえた時にはすでに体重のほとんどがその枝に乗っており、身体は地面に落下した。
いててと強い衝撃を受けた腰をさすりながら起きると、子どもの喜ぶ声がした。
「ありがとう金髪のお姉ちゃん!」
顔を上げると、まるで絵画の肖像画に描かれるような綺麗な人がそこにいた。
麦わら帽子と白いワンピース、それに陽の光によって時より輝いて見える金髪は感銘すら受けるほどのコントラストだ。
画家の気持ちとはこういうものなのだろうな。
今すぐにでも、この感動を紙に残したいと思える。
「ばいばいお姉ちゃん!」
「はい、ばいば~いっと。水の魔法解除!」
麦わら帽子の美少女が手を振り終わると、もう片方の手にある何かを縦に降ろした。
その何かとは杖で、振り終わると同時ぐらいに俺の頭に水がかかる。
なんで木の上からこんな水たまりがふってくるのかと疑問が消えない。
だが、前髪をかきわけて瞼を開くとそれはすぐに合点がいった。
「ぷぷぅ。かっこつけて落ちてやんの笑 シュンのば~か笑」
あぁ、またしても画家の気持ちを理解してしまったよ。
描き上げた傑作をくしゃくしゃにして捨てたくなる理由が今までわからなかったけど、たぶんこんな感じなんだろうな。
「はぁ、儚く消えてしまったあの美少女を返してよ。シュエリーさん」
「はぁ!? 私だってかわいいでしょ? ねぇ、言いなさいほらぁ! いえ!」
シュエリーさんに詰め寄られながらも、俺はくしゃくしゃにしたあの子を数分噛み締めた。




