第33話 パーティー、困惑しつつ撤退。視点、シュン
俺は受け止めきれない状況に、思わず瞼を擦った。
どういう訳か知らないけど、カリナさんは確実に俺たちに殺意を向けている。
信じられないが、ミリアさんが弓で防いでくれなければ俺は…。
「シュエリーさん、もしかしたらカリナさんは魔法で操られているんじゃ? でなきゃこんなこと、あるわけ…」
シュエリーさんはこちらを見向きもせず、じっと彼女を睨んでいた。
目を充血させて涙を堪えている所を見ると、ただ憎んだ感情だけがあるわけではない。
その表情をみて俺も、こちらに進んでくるカリナさんをどうにかしようとは、とても思えなかった。
「やめなさい! 今のは警告です! それより先に進んだら今度は本当に撃ちます!」
俺たちとは真逆に、ミリアさんは毅然とした態度でカリナさんに攻撃の姿勢を示した。
「ミリアさん、撃つのはやめてほしい。お願いだ」
「何を言っているんですかシュンさん! 撃たなきゃどうなるかわかっているんですか?」
あぁ、正しいのは間違いなくミリアさんの方だ。
今までのカリナさんとのことを思い返して、呆然と立ち尽くしているだけ。
それでも間違ったことを言ってるいるのだけれど、戦いたくない。
お願いだ、その矢の先には来ないでくれカリナさん。
「あ、あなた!? 話を聞いていましたか!」
心の中で願ったことなど簡単に破られる。
カリナさんはゆっくりと、でも臆することなく境界に足を踏み入れた。
彼女は弓をしならせ、狙いを定めた。
このままじゃカリナさんが危ない。
シュエリーさんなら何かしてくれるかも知れないと顔を向ける。
しかし、拳を強く握りしめてただカリナさんを見つめているだけだ。
「お願いだミリアさん! カリナさんをどうか、死なすのだけは」
この状況でミリアさんを止められるのは俺しかいない。
「ミリアさん! ミリアさん頼む聞いてくれ!」
しかし、何度声をかけても彼女は無視した。
弓を引き、狙いを定め、冷や汗をかき、確実に仕留められるタイミングを伺っている。
もうダメだ、見ていられない。
そう思い、俺は目を逸らした。
次の瞬間、矢の飛ぶ音が耳に入る。
あぁ、カリナさん…。
「ガルルゥガァ!!!」
矢が放たれて1秒も待たず、何か人とは思えない叫び声が洞窟に残響した。
振り返ると、カリナさんの後ろでゴブリンキングが苦悶の表情と共に叫んでいた。
ゴブリンキングをよく観察すると右腕に矢が刺さっているのがわかる。
「ミリアさん、もしかして…」
そう声をかけると、彼女は首を横に振った。
「違います。本当に殺すつもりで撃とうとしていました。
ですが直前、あの方の横道から人ではない手が見えたので咄嗟に」
「それでも、実際は撃ってない。
ありがとう、ミリアさん」
「さぁ、行きましょうお2人とも」
「え? カリナさんはゴブリンキングに…」
「シュンさん! 私はあの方を助けるためにゴブリンキングを撃ったわけではありません! 私たちが逃げるために、利用できると思った。ただそれだけです」
「うっ、そうだよ…な」
カリナさんを助けたいとも思うが、同時に殺される危険がある。
ミリアさんは最大限の譲歩をしてくれた。
彼女の能力なら、ゴブリンキングと対峙しても逃げることはできると思う。
ここはとりあえず、みんなで洞窟から脱出しないと。
「シュエリーさん、い…行くよ」
立ち尽くす彼女の手を引くが、力強く拒否される。
その場にじっと佇み、動こうとしない。
カリナさんのことを俺以上に助けたいと思っているんだろう。
でも、今は…。
「ちょっ、変態! 降ろしなさいよ!」
俺はシュエリーさんの小さな身体を無理やり抱き抱え、暴れられながらもミリアさんの後を追った。




