第32話 カリナ、作戦を実行する。視点、カリナ
私と暗殺対象2人は、落とし穴のある道を進んでいた。
「変ね、奥に進んでいるのにゴブリンが全く見当たらないわ」
恐らく、この道に湧くゴブリンをイヴァンの使者が駆除しているのだろう。
でなければ仕掛けを置けないからな。
私は仕掛けらしき形跡を発見するため足元に注意を向けた。
「カリナさん、もしこのクエストクリアしたら…3人でパーティー組まない?」
「いいわねそれ! カリナさんなら私も大歓迎よ!」
「え!? わ、私がですか?」
不意打ちすぎる言葉に面を食らわずにはいられなかった。
その直後、一瞬振り向きながら足を進めてしまった私は地面が崩れるのに気づかなかった。
視線が落ちていく中、仕掛けに嵌ってしまったと理解した。
しかし、背中に強い衝撃を感じると同時に私は数歩奥へと飛ばされる。
「シュエリーさん!」
シュンの掛け声と振り返った状況から、何が起きたかはすぐに認識できた。
シュエリーが私を押し飛ばし、代わりに穴に落ちたのだ。
「だ、大丈夫よ! でも杖が下に…」
いや、どうやら落ちたのではなくギリギリで縁を掴んでいるようだ。
シュンもすぐ駆け寄り彼女を持ち上げようとしている。
「カリナさん、ゴブリンが来ないか様子見てて!」
私はシュンの真剣な声を無視し、2人の方へ距離を縮めていく。
小刀を持ち、ゆっくりと進む。
あぁ、どうしてこいつらは私にこんな優しくしてくれたんだろう。
いや、考えるのはやそう。
「すまないシュン」
シュン、お前は私のことを信頼しすぎだ。
この振り上げた刃をどうして見向きもしない。
風切り音とともに小刀はシュンの首に迫った。
「シュンさん!!!」
肉を絶つ感触が来ると思っていた私だが、数秒思考停止してしまうほどの不測の事態に直面した。
金属がぶつかり合うような金切音と共に私の手は痺れた。
小刀が矢と共に地面に刺さっている。
ありえない、この場には3人しか…。
「ミリアさん! なんでこんな所にいるの!?」
反射的に顔を見上げると、元勇者パーティーのミリアがいた。
ありえない、こんなことが。
「シュンさん、そんなことより早くその子を助けてください。
その間、私がこの人と戦います!」
ミリアは短い紅髪を靡かせながら、鬼気迫る顔でこちらに対峙してきた。
弓を構えて臨戦態勢の彼女に対し、私は小刀を弾かれ身動きを取れないでいる。
その間にシュンはシュエリーを穴から引き上げた。
「カリナさん、どういうことなのか事情を聞かせてもらいましょうか?」
困惑するシュンに対し、シュエリーは鋭い目でこちらを睨んだ。
その顔に私は、不思議と涙が溢れた。
何故だろうか?
裏切ったのは私なのに、なんで悲しくなっているのだろう。
殺せなかったから悲しいわけではない。
「説明する気はない。貴様らを殺す」
私は素手のまま彼らに迫った。
人を殺してでも生きたいと思ってここまで来たが、どうして今は…心の底から死にたいのだろうか?




