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第16話 シュン、決断する。視点、シュン

「そんないきなりパーティーに戻れって、どういう風の吹き回しだよ。

お前が抜けろって言ったんだろ?」


 俺がそういうと、カリブは悪びれることもなく口を開く。


「あぁ、あの時はお前が入らなかった。

だがな、今はお前が必要なんだ」


 訳がわからない。

人のことを無能とか言ってた草に、虫がよすぎだろ。

それに、俺はシュエリーさんとパーティーを組まなければいけない理由がある。


「なんだ? 不満でもあるのかぁ? このガキとクエスト受けるよりA Aランクの勇者パーティーに入った方がいいと思うけどなぁ。

そうすりゃまた貧乏暮らしからおさらばだぜ? 流石にそれがわからない馬鹿ではあるまい?」


「それは、確かにそうだけど。あっ」


 思わず口にした瞬間、シュエリーさんの顔を見てしまった。

言葉を発してすぐ、彼女は暴れていた手足を落ち着かせて静かになる。

もしかして、傷つけた?

しかし、俺はシュエリーさんに借金の1000万ジェニーがある。

カリブと組めばそんな借金一月で返せるだろう。

でも、まだ役立たずって言われるんだろうか?

いや、それはシュエリーさんと居たって変わらないんじゃないか?

性別は違えど、シュエリーさんもマイペースな所がある。

ある日突然、カリブと同じように扱われるようになるかもしれない。


「カリブ、俺は...」


 俺が言いかけたそのすぐ後であった。

カタリナさんに口を塞がれていた彼女が魔法でそれを解き、杖でカリブの頬を叩いたのだ。

叩いたといって強い音ではない。

しかし、軽くもなく威圧的なものだ。


「いい加減にしなさい。

あなたたちが勇者パーティーの人ってのはわかったわ。

で、シュンを連れ戻しにきたことも」


 こめかみに青筋を浮かべたカリブは剣を抜こうと手をかけるが、カタリナさんに制止させられる。


「カリブ様、流石にそれは。

ここは集会所です」


「わかってるわブス! 馬鹿扱いするな!」


 カリブはカタリナさんを叩こうと手を伸ばす。


「やめなさい! あなたさっきから女の子に暴力ばかり振るうわね。

そんなことしてたらいくら名声があってもモテないわよ?」


「俺がモテない、だとぅ? 貴族の俺様になんて口だ雑魚ガキ」


「ふん、その証拠に弓使いのミリアの姿がないようだけど? ひょっとして逃げられたんじゃない?」


「うるせぇ! 黙れ!」


「あらあらキレやすいこと。

そんなにキレていたらその凛々しい女の子もすぐに離れちゃうんじゃない?」


「いえ、私はカリブさんの許嫁なので離れることはありません」


「そ、そうなの。

それならいいけど、うーんでもぉ」


 シュエリーさん、完全に煽りモードの顔してる。

俺を勇者パーティーに入れたくないからなのだろうか?

本当にそこまで俺にこだわる真意が知りたい。


「決めるのはシュンじゃなくて? カリブさん」


「うぜぇガキだが一理ある。

で、どっちにするんだシュン」


「俺は...」


 正直どっちも気が進まないとは言えない。

しばらく黙り込む俺に腹が立ったのか、彼女は話しかける。


「はっきりしなさいあなた男でしょ?」


「無駄無駄、そいつはただの無能だからなぁ。

そんな早く答えられなぁってさ」


 そこまでいうなら、はっきり言ってやる。


「シュエリーさんはなんで、俺をそこまでパーティに入れたいんだ? その理由が知りたい」


「それはだから借金があるからでしょ? もう、忘れたの」


「それは理由じゃないでしょ! 本当のこと言ってよ」


 問い詰める俺にシュエリーさんは何故か、フードで顔を隠した。

なんだ? 後ろめたい何かがあるのか?

困惑する俺にカリブが言い放つ。


「どうせ俺と同じMP回復とか雑用で使おうと思ったんだろ?

それで曲がりなりにも貴族のお前が、村人冒険者の自分に感謝するっていう優越感を感じたいとか。

どっちみち役立たずのてめぇをパーティーに入れるのは下心がなきゃ嫌に決まってんだろ?」


 彼女は沈黙を続けた。

喋らないということが、耳に入れたくもないカリブのセリフに否応なしに真実味が増していく。

シュエリーさん、君もやっぱり俺のこと…。


「違う、わよ」


 彼女は震えながらそう答えた。

その震えに言葉とは違う本音が混じっていると感じてしまう。


「じゃあなんで?」


 そう話すとシュエリーさんはフードを取り、顔を真っ赤にしてぼそぼそと声を漏らした。


「シュ、シュンは私のこと馬鹿にしなかったでしょ? む、村人冒険者だからとか」


「え?」


「だ、だからぁ! 最初は利用してやろうと思ったけど今は違う! 

普通に接してくれるあなたとなら、パーティー組みたいと思っただけ! 

私ずっとソロで組んでくれる人もいなかったし!

も、文句ある?」


「え、いやないですはい」


 つい彼女の気迫に押され、また口を滑らせてしまった。

これはまた演技なのだろうか?

わからない、けど彼女も俺よりは酷くないかもしれないが周りから何か言われ続けたのか?

だから、俺にシンパシーというか何か感じて仲間になりたいと思ったとか?

もし本当にそうなら、役立たずと言われるよりかはまだ居心地が悪くない。


「はぁ!? ふざけるなよシュン! てめぇ誰のおかげで今までいい生活できたと思ってんだぁ!?」


 もっともな言葉だ。

カリブは嫌いではあるが、勇者パーティーにいた恩恵は俺だけでは受けられなかった。

シュエリーさんに答えたものの、まだ頭に天秤が残っていた。

しかし、その天秤を押し倒すように彼女は俺の手を握り走り出した。

遠くでカリブが文句を言う声が聞こえる。


「ははーんざまぁ! 私の勝ちね勇者カリブ!」


 シュエリーさんは舌を出し、とても女子とは思えない煽り顔をしてカリブを挑発した。


「さ、クエストを選ぶわよシュン」


「ねぇ、さっきのもしかしたら演技?」


「さぁね、知らないわ」


 その適当なセリフと無邪気な笑顔に、俺は騙されているんじゃないかとまたよぎる。

しかし、もうシュエリーさんには勝てないと思い知らされた。

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