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第105話 シュン、ご馳走を頂く。視点、シュン

「じゃあ俺たちは戻るので」


 俺は2人に目配せし、船から飛び立とうとした。

転覆しないように水面ヘ撃とうと身を乗り出すが、ゴツゴツとした手に掴まれる。


「シュンとか言ったな。せっかくだ、獲れたての刺身でも食ってけ!」


 おじさんは鼻っ柱をこすりながらそう言った。

俺はというと、作戦会議を先送りしていいものかと悩む。


「と、獲れたて!? シュンさん、食べましょうよ!」


 気分の悪そうだったミリアさんだが、食べ物と聞いて目を光らせる。


「ミリアさん、酔いは治ったの?」


「あ、そうでした。もー思い出させな……オロロ」


 せっかく回復したのに、悪いことしちゃったなこりゃ。

刺身というのは都心で口にすることは滅多にないけど、どんな味なんだろうか。

昨日から粗末なものしか口にしてないし、俺も本当はお腹が鳴りそうなほどには食べたい。

「カ、カリナさんは?」


 俺たちの最後の砦、カリナさんが堕ちたなら仕方ないと言わざるを得ないよな。

さ、どうだろうか?


「私は別にどちらでも問題ありません。シュンさんに任せます」


 おぉー、流石The•クールビューティー。

いつもは表情がかたいと思ってたけど、今はそれが逆にカッコよく見える。

と……思ったがなんかよだれが垂れてる!?

自分では気づいていないのだろうか?

カリナさんも、食べ物に関心があるのか。

そういえば、前にクッキー食べて反応してたな。


「どうしたのです? シュンさん」


 首を傾げて冷静な顔やめてくれ!

そんな感じでよだれ垂れてるの笑ってしまう。


「い、いや別に。じゃあ、お言葉に甘えのうか」


「そうですか、わかりました」


 ふぅ、何とかバレずに済んだ。

可哀想なのと、クールな感じの彼女だからつい教えるのためらってしまった。


「やったー! お刺身、お刺身! あー! むっふっふー。カリナお義姉ちゃんよだれ垂れてますよ! フキフキしましょうねー」


 ミ、ミリアさんやめてあげて!


「あ、ありがとうございます。でも、拭くのは自分で出来ますから」


 口調は変わらないけど、耳が激しくピコピコしてる。

顔もとんでもなく赤くなって、ダメだもう耐えられない。

笑いが関を決壊させるが如く、勢いよく出た。

手で塞いでも、それはもう止まることを知らない。


「あ!? シュンさん、うぅ」


「ご、ごめんカリナさん。つ、つい面白くって」


 さらに紅潮する彼女は、堪らなくなったのか小刀を取り出した。

やべ、笑いすぎて怒った?

と、思いきや自らの首元にそれを添えた。


「このような失態、恥ずかしくてもう無理です」


「え! こんなことで!? 冗談だよねカリナさん?」


「いえ、本気です」


「お嬢ちゃん、刺身出来たよ。食わねーのか?」


「……最後の晩餐を頂いてからにします」


「あ、うん」


 とんでもない態度の変わりようだ。

でもまぁ、落ち着いたならよしとするか。


「あ、その前に1つお願いがあるんですけど。浜辺で食べたいです」


 と、ミリアさんのその言葉でなんとかプチ騒動は一件落着した。


 浜辺に着くと、辺りはすでにオレンジ色となっていた。

刺身を食べる前に木々を拾い、夜に備える。


「さ、今日はマグーロの刺身てんこ盛りだ!」


 漁師のおじさんたちはえらく気前がいい。

刺身だけではなく、兜焼きという料理もご馳走してくれた。

どれも都市に運ばれてくる鮮度の落ちたものとは比べ物にならない美味しさだ。

脂はくせがなく、まるでおつまみの容量でぽいぽいと胃に入る。


「ふぅ、ご馳走さまでした! どれも絶品ですね!」


「そうだね、ミリアさん。カリナさんもそう思うでしょ?」


「は、はい。お、美味しゅうございました」


「ガハハ! お前さんら途中から遠慮せずバクバクいきよったな」


 酒瓶片手に爆笑するおじさんたちに、俺らは我に返ったように少し目を反らした。


「で、どこへ行くつもりなんだ? こんな辺鄙な場所まで来るって事は、何かわけがあるんだろう」


「それはその、あの島に行こうと思いまして......はい」


 俺は生唾を飲み、またしても視線を外す。

少し目を正対すると、おじさんたちがポカンと口を開けていた。

やっぱり、こんな危険な所で漁師をしているぐらいだから俺らより詳しいのだろう。

バハムートが棲む島に向かおうだなんて、笑われるか馬鹿にされるだろうな。


「誰かのためか? 坊主」


 その言葉は、想定の範囲外から来たものだった。

思っていたどちらでもない。

俺は何故だかわからないが、姿勢を正しおじさんの目をしっかりと見つめた。

すると、怒るでもなく笑うでもない。

ただ真剣な眼差しをしていた。


「はい、一様仲間のために」


 この眼、最近見覚えがあった。

そうだ、親父とお袋も屋敷を飛び出す前こんな感じだった。

今までこんな感覚になったことなかったけど、なんだろう。

汚い大人に出会ってきたからか、こういう眼を向けられる大人に自然と心を開いてしまう。

ゆえに、ありのままの言葉を漏らしてしまった。


「一様か、お前さんらギルドの冒険者だろう。腕に自信があって、何でも力ありゃ解決すると思うな」


「え? 俺は別に、強くなんか」


 ぼそっとそう声を出した俺に、おじさんは呆れたのかやれやれという素ぶりをした。

心が開いたというより、美味しいものを食べて舞い上がっただけかもしれない。

ついうっかり口にした発言から、そう推測されたのだろうけど。

バスターなんて、やっとここのところ使えるかどうかの段階。

俺は自信なんてそんなの大して持ち合わせていない。

おじさんは悪い人ではないだろうけど、戦いとかそういうのは疎いからわからないんだ。

ここは軽く受け流して終わらせよう。


「あはは、やっぱり嘘です! 最近強くなってきて自分でも調子乗ってたって思ってたんですよねー」


「いいか坊主、力ってのは2つある。よく聞けよ」


 て、スルーかよ!

酔ってるからか、目力はすごいけど声聞こえてないのかなもしかして。


「相手を倒す力と誰かを守る力だ。お前さんらはどっちが手に入れるの大変だと思う?」


「倒す力です!」


 ミリアさんはそう勢いよくいう。


「私も前者で!」


 カリナさんもそれに続いた。


「坊主は?」


「俺も、2人と同じ......です」


「ふっ、違うな。お前さんら、よく考えな。モンスターを倒せるほどの力を持っているくせに、なんでこんな場所に来ているんだ?」


「それは事情があって」


「どうだろうと関係ないが、その力で仲間を守れないからだろ? 違うか?」


「た、確かにそうですけど。でも、それはたまたま俺たちにすごい治癒魔法がないだけで」


「すごい治癒魔法ねぇ。そんなのあったところで、グサっとすぐ殺しちゃえば無理だろうけどねぇ」


 その言葉を聞いて、俺は大会での光景がフラッシュバックした。

あの時も、シュエリーさんがボロボロになっても自分では助けられなかった。


「じゃあ、どうすればいいんですか!」


 自分でも気づかないほどの瞬間で、そう言い放っていた。

でも、聞きたい。


「そんなの知らないよ。けど、俺は結婚して30年ずっと家族を守ってきたんさ。この船と共にずっとな」


「かーっ、痺れるねえ!」


 漁師仲間の一人がそう言いながらおじさんの肩を小突いた。


「うるせいやい! ま、とにかくそういうこった。さ、暗くなったしもう寝るぞ! お前らも来い!」


「「「はい!」」」


 おじさんの浜辺の近くにある家へ着くと、俺たちはそうそうに寝室へ招かれた。

色々あったこともあり、作戦会議は明日行うことになった。


「ちょっ、ミリアさん! シュンさんも見ているかもしれないんですから、ここでは抱き着いて寝ないでください!」


「ん~いいじゃないですかぁ」


 とまぁ、俺の背後で何やら行われているが無視だ。

あぁ、それよりも適当に酔って言ったのかもしれないけど。

でも、魔力があるでもないあのおじさんがここでずっと家族のために漁をしてきたのは事実だ。

守る力......それが30年も誰かを守ってきたんだ。

俺もずっと、誰かを守れるほどの力があれば。

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