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6~謎の敵~

「せやな、現状を詳しく知りたいしオペレーションルームに向かってもらおか。」


 レイが大阪支部に来るのは初めてではないし、そもそも全ての支部は本部を模して作られている為迷う事無くオペレーションルームへと辿り着く


灰人(はいと)!灰人!」


 オペレーションルームに着くとぴょこんとレイから飛び降り、自身の専属オペレーターである灰人を探す。


「ああ、姐さん漸く戻って来てくれましたか、レイも一緒か、だったら都合良い、現状の報告をするから一緒に聞いてくれ」


 四葉を迎えた灰色のウルフヘアに金色の瞳、身長は180センチ程だが猫背の為実際の身長より若干低く見える。

 戦闘部隊からオペレーターになった為、やや筋肉質の身体の灰人はレイを一瞥して手元の紙束へと視線を落とす。

 四葉とレイで明らかに態度が違うが別にレイの事を嫌っている訳では無い。

 人狼である灰人は五十年程前まではバリバリの戦闘部隊であり、順位は低かったがNumbersの一人だった。

 ある超常能力者を追っている時に片足を切断され引退を余儀なくされた。

 当時はまだシロが入る前で欠損を治せる程の治癒術師もおらず、ギルドで作られた義足も人狼の素早い動きの戦闘に耐えうる物は無かったのだとか。

 そして片足を失っただけで済んだのは、当時も今と変わらずNo.4であった四葉に助けられたからだった。

 そんな四葉の姿に元々上位者として憧れを抱いていた存在だったが惚れ込み姐さんと慕い、今まで使ってこなかった頭を使って十年の勉強の末四葉の専属オペレーターになった。

 だからレイに対して冷たいのでは無く、逆で四葉に対して熱いのである。


「先ず姐さんが本部へ向かってからの足取りを報告する。

 姐さんとの戦闘後自分の格好があからさまに怪しのを理解しているのか、基本的には人目を避けるようにして逃走している。

 人目を避けてくれるのは此方としても助かるのだが問題として敵の逃走ルートは必然カメラの数もかなり少なく、殆ど追跡班からの報告便りになってしまいオペレーターのバックアップは正直ほぼ機能していない。

 幸い敵の速度もそれ程では無く、十人程度の速度と五感に自信のある人員で追跡していて見失う心配は無いのだが、如何せん僅か十五分とは言え姐さんと互角に戦った相手である為に手を出す事も出来ていない。」


 そこで一旦話を止め、先程の一瞥と違い今度は確りとレイと目が合う。

 それだけで言わんとする事は理解出来るし、そもそも自分がここに来たのはその為である。


「クロ、視えてるな?」

《もちろん問題ありません、支援します。》

「ウチも行くで!舐められっぱなしは癪に障るわ!

 灰人!クロの支援があるとは言えアンタも気張りいよ!」


 ぴょんとジャンプして自分からレイに抱えられる。

 向かうは転送室、では無くその場での『転移』

 梨衣としたようにクロとも『血の盟約』を結んでおり、その際クロは『同調(シンクロ)』の能力が開花している、その能力の一端としてクロの視える、クロの思い描く場所へと寸分違わぬ『転移』を可能とする。

 オペレーションルームから景色が変わる。

 目の前には四葉から聞いていたローブを身に纏った敵の姿があった。


「やあ初めまして、俺の名はレイ、四葉と互角に戦ったアナタは何者かな。」


 芝居がかった大袈裟な動作をして問う。

 真意はうちの四葉ちゃんに喧嘩売るとは何様じゃゴラァといったところだが。


「ケヒヒヒヒヒ」


 聞こえたのは不気味な笑い声

 その声は嗄れていて、その笑い声で判断する限り恐らく老人、男の老人の声だった。

 止まる事なく男は笑い続ける、あまりにも不気味だ。

 暫くして異常に気付いた。

 目の前の男は笑い続け、明らかに呼吸をしている形跡が無い。


「チッ……クロ全開で視ろ!

 恐らく逃げられた!」


 その言葉に驚くのは四葉、そしてより広い視界を確保していた見失わない程度の距離から観察していた追跡班の十人

 追跡班はもちろん警戒していたし、四葉はここに着いて直ぐに効かないのを分かってて尚運を吸っている。

 レイだって逃げられたと自分で口にしたが、逃げた敵を自らの視界で捉えていた訳では無い。

 あくまで状況証拠から判断した結果だった。


《レイ……私が視た限りでは敵は逃げていません、私の眼では目の前の存在以外の敵を感知出来ません……》


 クロの報告に眼を開く、横にいる四葉もクロと繋がっているためレイと同様の反応を見せる。

 目の前の男は尚も笑い続ける。

 どんなに注意深く聞いても呼吸をしている様には感じられない。

 既に五分以上笑い続けている。

 人の身から外れていると自覚しているレイの肺活量は明確に測ってはいないが元の数十倍からもしかしたら数百倍であり、恐らく似た様な事は出来る。

 だが息を止めろと言うならまだしも常に息を吐く笑うという行為、しかもそれなりの声量で一定のリズムで五分間は自分では無理だろうというのが導き出した答えだった。

 だからこそ逃げられたと判断したのだが、信頼する自分の専属であるクロから返ってきた答えは目の前の男が追っていた敵そのものであるという事実

 ならばこの存在に対して攻撃するべきかと考えた時に自身の直感がそれは否と答える。

 直感というのはただの人からしても意外と馬鹿に出来るものではなく、レイの直感は一種の未来予知の次元に足を踏み入れているレベルである。


「レイどうすんねん、確かにウチもアレに手を出したらアカンとは思ってるけど、このままじゃ埒が明かへんで」

「こうなったらアレをやるしか無いか……」

「なんやなんか奥の手でもあるんかいな!」

「エターナルフォースブリザード!相手は死ぬ!」

「アホか!死んだのは相手やのうて空気やこんのボケナス!」


 そんな漫才の様なやり取りをしているといつの間にか笑い声が止んでいる。

 ボケたんだからむしろ笑えよと思わないでもないが、状況が進展したと前向きに考える事にした。


「つまらぬ」


 笑うだけだった男が発した言葉、確かに空気は死んでいる。

 レイとしてもボケのつもりではあったが別段自分自身面白いとは思っていない為つまらないと言われ納得して頷きを見せる。


「何故攻撃してこない、態々無防備を晒しているというのに」

「いや、あんな一定のリズムで笑い続ける薄気味悪い奴あまりにも怪し過ぎてむしろ攻撃しようと思わねぇよ。」


 男はレイの言葉の意味が心底分からないとでも言いたげに首を傾げた。

 正確には深くフードを被ってるのでそのフードの僅かな動きで恐らく傾げたのだろうと判断したのだが、そこで違和感に気付いた。

 目の前の男との距離は目算で20メートル程、レイや聴覚に優れた者ならばその程度の距離なら聞こえる筈の音、衣擦れの音が聞こえなかった。

 その違和感で目の前の存在が何なのか検討が着いた。

 フードが動いた以上そこに頭部、或いはそれに準ずるものがあるのは間違い無い。

 だが衣擦れの音が聞こえなかったが故にそんな謎の現象が起こる生物、生物と言っていいのかは甚だ疑問ではあるが、それが何なのかむしろ何故それに思い至らなかったのか自分自身に呆れる。


「成る程、お前リッチか。」


 リッチ、怨念などの負の感情を抱いて死んだ魔術師などがその強い負の感情によりアンデッドとして復活した姿であり、主に土葬の諸外国で見られるアンデッド

 現代日本では基本的には死者は火葬され、そもそもソンビやグール、マミーやスケルトンなどの死者の肉体が動き出すタイプのアンデッドは殆どいないし、過去土葬だった時代も戦乱の世だった為か死者の復活よりも怨念の塊というタイプのアンデッドが多かった。

 故に目の前の存在の正体に行き着くのに時間がかかってしまった、という訳である。

 元々が強力な魔術師であり、死んで尚豊富な知識で頭を使って(骨なので脳は存在しないが)戦う為非常に厄介な相手であるリッチだが、死んだ所為なのか、その強烈なまでの負の感情の所為なのか、将又生来の性格なのかは分からないが何処か人とはズレている事が多い。

 笑って攻撃を誘うなんて考えに至ったのもそこら辺が理由であろう。

 しかし目の前の存在がアンデッドであるリッチだと言うのならば四葉の運操作が効いてなかったのも頷ける。

 ゲーム的なステータスに当て嵌めるならばアンデッドに(LUK)のステータスは存在していない。

 存在しないものは操れない、という訳だ。


「正解だ、我は偉大なるリッチ、名をスプラヌス・デミドーンという。

 我の正体に気付いたのは賞賛するが、一つまだ解決していない事があるのではないのかね?」

「なんも、言い当てられてスッキリしてるところだ。」


 強気に言い返すが確かに一点釈然としない、疑問が残っていた。

 それは十五分程度の互角(・・)の戦闘という部分、リッチと四葉では相性が悪すぎる。

 運操作は効かないし他のアンデッドならまだしもリッチなら四葉の最も苦手とする広範囲無差別波状攻撃が使えなかった、なんて楽観視が出来る相手ではない。

 そうなってくると戦闘時間自体は深い意味があるとは思えなくなってくる。

 最初から適度に戦って適当なタイミングで逃げようと考えていた、と考えるのが妥当だろう。


「あーアンデッドでしかもリッチかー、最初から誤情報を掴まされてたって事やんけ、てか間違いなくこの場でウチが一番の足手纏いや……」


 苦虫を百匹噛み潰したような渋い表情を見せる。

 運操作が全くの無意味な相手であれば今この場にいる面子の中で肉体強度が一番低い四葉は本人が言うように確かに足手纏いだろう。

 だがしかし、この場にいるのは他の誰でもないレイである。


「四葉ちゃん四葉ちゃん、今四葉ちゃんの隣にいるのは誰でしょう。」

「あん?そんなん決まっとるやろ、レイやレイ、自分の名前も忘れ……あいや、そういう事か、堪忍な……」


 レイの質問の意図を理解して表情を和らげる。

 にっと笑いながら四葉のくしゃくしゃっと頭を撫で、殺気を孕んだ眼差しでリッチ、スプラヌス・デミドーンを睨み付ける。


「お喋りは終わったかね、では答え合わせといこう。」


 そんな視線むしろ涼しいぐらいだとばかりに飄々と言葉を続ける。


「どうやら気付いたようだが、戦闘時間に意味は無く、互角に見える様に相手をしてやっただけだ。

 理由、には至らなかったか?

 ならば教えてやる、我がNo.4を相手取った際の目的は見事に達成された。

 この先もやらねばならぬ事があるがそれは答え合わせでは無くネタバレになってしまう故発言は控えさせてもらおう。」


 四葉の相手をした目的は達成された。

 そこまで言われ現在の状況を考え、そして気付く


「俺、か。」

「そうだ!我の目的は貴様だ!

 一発で釣れてくれたのは正に僥倖!

 最悪上位三人を相手にする心積りだったのだからな。

 No.3、No.1はまだしも我としてはNo.2は少々相性が悪いので本当に良かったと思っている、No.4には感謝の意を贈ろう。」


 スプラヌスの言葉に奥歯を噛み締める。

 四葉に手を出したのは上位者の中で自分にとって最も相性が良いからだろう。

 外国のアンデッドであるスプラヌスが大阪に、つまりは四葉のところに来たのは偶然でも何でもなく、最初から狙い撃ちされてた訳だ。

 一般人にはともかくこちら側の存在にはギルドの戦力の情報は別段秘匿されている訳でもなく、むしろ一種の防波堤として強者の存在はギルドから情報を撒いてる程だ。

 だから四葉の事を知ってる事も、相性が良いから狙い撃ちする事も別に問題は無い。

 そういう世界に身を置いているのだから相性を、弱点を突かれる事に文句を言う訳は無い。

 だが、だがしかし――


「俺を誘い出すために四葉を狙ったのは許せねぇ!」


 空気が震える、普段目に見えず触れられず感じる事すら出来ない筈の魔力が吹き荒れる。

 態々そんな回りくどい事をしてレイ(最強)を誘い出したのだ。

 レイに対する秘策があるのかもしれない。


「秘策があろうが関係ねぇ!この手でてめぇは殺す!」


 拳を握り締める、魔力を感知する事が出来ない者にも膨大な魔力がその拳に集まるのが目に見える。

 時に、レイの『異次元収納』には多種多様な武器が入っている。

 だがしかし本気を出す時はそれらの武器を使う事は無い。

 それは本気のレイの負荷に耐えられる武器がこの世界には存在していないから

 四葉とて仮にも戦闘部隊の上位者、眼はいい方だが、その四葉からしてもまるで消えた様にしか見えなかった。

 辛うじて飛び出したのだと理解は出来たが、あくまでそれは理解出来ただけ、その姿を捉える事は出来ない。

 次の瞬間にはその拳はスプラヌスの顔面を捉えて、いない。


「ケヒヒヒヒ!勝った!勝ったぞ!」


 あまりの力の奔流に耐えかね腰が抜けたのか、偶々その一発は避けられてしまう。

 だがそれは偶然の産物、その一発を避けたとて目の前にあるのは絶対的な死の象徴とも呼べる程の力、それでも尚スプラヌスは己の勝ちを確信する。

 レイは焦らない、今のは偶然、今度こそこの拳を当てる。

 だからこそゆっくりと動き出す。

 いくら高位アンデッドとて、この一撃を食らえば無事では済まないどころかその一撃で勝負は決まるだろう。

 無様な格好で後退るスプラヌス、再び距離が離れるもそれは僅か5メートル程、十分射程圏内

 何かを取り出す、それが何なのかは分からないし、何であってもどうでもいいと考え気にする事無く一歩を踏み出す。


「ケヒヒ、消え去れ!」


 取り出した物を投げる、見た目は黒い握り込める程度のサイズの石の様な物、内心で溜息を吐く、こんな物で自分をどうにか出来ると本気で思っているのか、哀れとすら感じる。

 投げられた物は速度は無い、受け止めるなり弾くなりすればいい、そう思い手を振る。

 後僅かで手が触れる、そう考え間もなく触れるであろう直前その石が砕けた。

 何が起きたのか理解するまで数瞬の時を要してしまった。

 それは時空の歪み、話には聞いていたNumbersNo.5ファイスとその専属オペレーターのプラチナの二人がこの世界へとやって来た原因

 ファイスとプラチナはギルドに所属する異世界人(・・・・)だった、だからオタクとしてレイはその二人とは何度も言葉を交わした。

 その二人から聞いた時空の歪み、知識としては知っているし、これよりもっと大掛かりで安定したものだったが本部の異世界転送室で一度だけ見せて貰った事もある。

 だから気付けた、だが同時に抗う事が出来ないという事実にも気付く、呑み込まれる。

 完全に身体が時空の歪みに吸い込まれ、歪みが徐々に閉じて行く、恐らく亜空間に閉じ込める算段なのだろう。


「レイぃぃいい!」


 四葉が呼ぶ声が聞こえる。

 スプラヌスが笑っているのが見える。

 もう僅かで完全に閉じるだろう。

 完全に閉じ切る瞬間自分とスプラヌスの間にもう一つの歪みが発生した様に見えた、気がした。

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