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5~大阪へ~

 梨衣を見送ると、覗き見していた十一へ声を掛ける。


「いい趣味してんな、俺は先戻るけどどうする?」

「え、あー、僕は別に四葉さんに着いてく必要無いんでツーリングがてら乗って帰ります。」

「おけ、じゃあ藍には俺から伝えておくよ。」


 僅かにしどろもどろな返答をする十一がバイクに跨ったのを見て、開けっ放しにしている『門』を潜りギルドへと戻る。


「あのレイ、非常に申し訳ありませんが、梨衣さんに渡し損ねた物がありまして……」


 戻ったレイにしょんぼりしたクロが言い難そうに伝えてくる。

 その手に握られているのはペン、の形をした簡易転送装置

 それが何なのか瞬時に理解は出来なかったが、梨衣に渡し損ねた物と聞いてその用途は理解出来た。

 そんな物を用意しているとは聞いていなかったが、あの見た目で意外とサプライズ好きなオッサンの事だから秘密裏に用意したのだと分かった。

 クロから受け取りどうしたものかと考える。

『召喚』するのは流石に運転中なのは分かり切っている事なので選択肢から消した。

 正確な現在地は分からないが別れてからの時間を考えればまだ家には着いていないはず。

 そう思い、あんなやり取りをした直後に会いに行かなければならないと考え溜息を吐いた。

 溜息に反応してクロの肩がビクリと震える。

 恐らく勘違いしたのだろうと気付いて努めて優しくクロの頭を撫でた。


「早めに渡した方がいい物だしもっかい行ってくるわ。

 ごめんね四葉ちゃん直ぐ戻る。」


 例え対象が動いていても正確に構造を把握出来れば移動は出来ると思い、梨衣の車の内部を出来るだけ正確に思い出す為に目を閉じる。


「『転移(トランスファー)』」


 その呟きと共にレイの姿が消え、目を開けると思い描いた通り梨衣の車の後部座席へ『転移』する事が出来た。

 梨衣と目が合った、どうやらコンビニに寄っていて運転中では無かったらしい。


「何してんの」

「いや、忘れ……渡し忘れ物?があって……」

「あのさ、気不味いとか思わなかった?」

「思ったけどコレを渡さない事と天秤にかけたら気不味さよりも渡す事が勝ったから……」


 大きな溜息を吐かれた。

 最後は努めて明るく振舞って笑顔で見送ったが、確かに気不味いのは気不味い。

 それでもいつでも来ていいよという証でもある簡易転送装置を渡さないという選択肢は無かった。


「コレ、簡易転送装置、使い方は……えっと、ちょっと待って」


 渡そうとして自分はコレの使い方を知らない事に気付く

 慌ててスマホを取り出し履歴からクロへとかける。


「クロ使い方」


 その一言だけで理解したのかクロはきっちりと簡易転送装置の使い方を教えてくれた。


「一週半捻ればいいらしい、多分一週半ってのは誤作動を起こさない為の措置だと思う。

 それと使った時に使った場所に一回こっきりのマーカーを設置して使った場所を思いながら捻れば戻ってこれるって……相変わらずの理解不能な謎技術だけど出来るって言うなら出来るんだろう。」


 レイの説明を聞きながら受け取った簡易転移装置をくるくると回して手遊びする。

 転移してきた時に目が合って以降此方を向いてくれさえしない。


「そんな物を態々作ったって事はいつでも来ていいって事だから、それじゃ帰――」

「佑」


 帰る、と言おうとして遮られる。

 気不味さ故に自らも目線を外していたが、言葉を遮られた事により梨衣を見る。

 この場に来た時同様、目が合った。

 じーっと見られ、気不味くて目線を外したい気持ちと、梨衣を見ていたい気持ちが鬩ぎ合う。

 己の中で葛藤していると不意に梨衣の顔が視界いっぱいに広がり、一瞬だけ唇に柔らかさと熱を感じた。


「帰れ」


 直後の梨衣の視線は冷たく鋭く、正面を向いてそれだけ言ってくる。

 そんな様子にああ梨衣だな、なんて感じて笑みが零れそうになったが、ここで笑ったら間違いなく怒られる。

 その頭を撫でたい衝動に駆られるが我慢して『転移』を使いギルドへ戻る。


「はぁ……」


 レイが消えたのをルームミラーで確認して大きく溜息を吐く

 後ろを向いてレイのいた場所に視線を向けて再び大きな溜息を吐いた。


「ただいま。」

「おかえりなさい。」

「レイちゃんおかえりー」


 戻ったレイを迎えてくれたのはクロ、シロの二人だけだった。

 周りを見渡すと四葉の姿は見えなかったが、他のオペレーターと話している藍を見つける事は出来た。


「らーん。」


 少し離れた位置にいた藍を呼ぶ

 レイに呼ばれた事に気付いた藍は話していたオペレーターに一言言って小走りで近付いてきた。


「レイさんどうしました?あれ?十一さんは?」

「その十一の事で伝える事があってさ、てか大した用事でも無いし別に珊瑚(さんご)が一緒でも良かったんだけど」


 珊瑚とは先程まで藍が会話していた相手であり専属に着いてないオペレーターの一人である。

 盲目のイタコであり藍と同じ高校に通っている、と聞いた記憶があった。


「まぁ、それなら折角なら四葉さんが戻ってくるまでお話しましょう。

 珊瑚ちゃーん。」


 言うが早いか言葉と同じぐらいの速さで珊瑚の元へ駆けて行く

 距離にして10メートルあるかないかなのであっという間だが。


「よう珊瑚、久し振り……でも無いか。」

「ええレイ様ご機嫌よう、一昨日お話したばかりですわ。」


 スカートを指先で摘みお辞儀をする。

 所謂カーテシーの様に珊瑚は挨拶をした。

 珊瑚はレイのファン、と言うより信奉者だったりする。

 盲目ではあるが周りにいる霊の視界を通じて色々視えるらしい。

『門』を見れば分かる通り、黒を好み禍々しさ全開のレイだが、霊を通して見るレイの姿は清浄な(オーラ)に包まれていて、近くにいるだけで居心地が良いのだとかで、珊瑚から神聖視されてる。

 当人の口から直接聞いた訳では無いが、その所作を見れば間違いないだろう。


「ところで十一さんの事で伝えたい事ってなんですか?」


 思い出した様に聞かれ、レイも半ば忘れかけていた事を思い出す。


「ああ、そうだった。

 本当に大した事じゃなくて、バイクで帰って来るって事を一応専属の藍に伝えておこうと思ってさ」

「成る程、了解しました。

 最悪また何かあれば転送で戻って来てもらうんで大丈夫です。」


 そんなやり取りをした後珊瑚を交え三人で話す事十分程、オペレーションルームの扉が開き四葉が戻って来る。

 シロとクロの二人は、レイが他の者と会話をている時は基本的にそれをただ見ているだけで、会話に参加して来ない。


「あ、四葉さんが戻って来ましたね。

 それではまた。」

「レイ様、お話出来てとても楽しかったわ、またの機会があればその時はお茶でもしながらゆっくりとお話致しましょう。」


 四葉の姿を見た藍と珊瑚は挨拶をしてレイから離れて行く


「相変わらずのモテモテやなレイは」

「そんな事ないよ、四葉ちゃんが戻って来るまでの暇潰しに付き合ってくれてただけださ

 んで、直ぐ行くのか?」


 先程までののんびりした空気を切り替え少し真剣な表情で聞く

 レイとしては特に準備する事も無いし、もし何かあれば直ぐに戻ってこれる。


「一応フランベルジェのオッチャン(見た目は確かにオッチャンだが実年齢は四葉より年下)には話して来たからいつ行ってもええって、灰人とは連絡取って焦る程では無いってのは確認してあるけど、急ぎたいんは急ぎたいからレイがよければ直ぐにでも行こか。」


 見た目は幼女だが流石千年の時を生きる座敷童子である。

 段取りは確りとしている。


「今失礼な事考えへんかった?」

「別に何も?それより急ごう。」


 誤魔化し四葉を抱き上げる。

 サイズ的に歩幅に差があるのはもちろんだが、単純に抱いてたいという気持ちが無い訳では無い。

 そんな若干邪な考えをも見抜いているだろうが、特に何を言うでも無く大人しく抱き上げられる。


「おっと、そうだその前に、クロ!」

「はい、ここにおります。」

「バックアップの準備をしてくれ」

「畏まりました。」


 言いながらバッグから通信装置を取り出し、耳に嵌めると肩からバッグを外し虚空へと投げる。

 すると、本来ならばそのまま床へと落ちるはずのバッグが中空で突如として姿を消した。

 一般人から見れば有り得ない光景だが、この場にいる者で何かを言う者は一人もいない。

 これは『門』や『転移』同様レイの使える能力の一つである四次元ポケ……『異次元収納(ストレージ)』である。

 液体から気体までなんでも、ある種の例に漏れず生きた物以外ならなんでも収納する事が出来、中身が干渉する事も無く、内部の時間の進みも止まるか進むかだけではなくその進み方、早くしたりゆっくりにしたりまで、しかもなんと入れた物一つ一つ個別に設定出来る、が特に必要が無ければ全体の時間を止めてある。

 恐らくその容量も無限だと思われ、一度深夜の人目の無いタイミングを見計らって琵琶湖の水全てを収納した事がある。

 その時は入れた本人が一番驚いていた。

 生きた物を入れられないので湖の中にいた生き物がその場に残り、慌てて戻してそれなりの津波が発生したのもいい思い出である。

 後日ちょっとしたニュースになっていたが。


「ところで、その取り逃した奴ってどんな奴だったんだ?」


 転送室に向かいながら四葉に質問する。

 取り逃した話は聞いたが相手の特徴は特に聞いていなかったからである。


「んー、正直よう分からんってのが素直な感想なんよね。

 運操作が効いてなかったっぽいけど、それだったらたった十五分程度の戦闘で逃げるのも意味分からんし、見た目は大きめのローブを羽織って顔も確りと隠れてて男なんか女なんかも分からん、喧嘩売られたんわ確かやけど喋りはせえへんかったし」


 よく分からない相手、という事だけは分かった。

 四葉に、NumbersNo.4に喧嘩を売ったという事は確固たる目的があったのは確かだろう。

 だが目的があるのは分かるが、それが何なのかは四葉の話を聞いた限りヒントになる様な物すらなかった。

 考える、唯一ヒントになりそうな物は十五分程度の戦闘(・・・・・・・・)という部分だろうか。


「だー分からん、捕まえりゃ済む話なんだろうけど、こうも何も分かんねえと薄気味悪い。

 間違い無く何か目的があっての行動だとは思うけどそれが何なのかさっぱど分かんね。」

「直接相対したウチにも分からへんねんから、そら分からへんやろ。」


 二人して頭を悩ませるものの答えは全く出ない。

 そうこうしているうちに転送室、施設間転送室と書かれたプレートの貼られた扉の前に到着してしまった。


「そういやベータに会うの久しぶりだな。」

「普段他所行かへんもんなレイは」


 認証装置にカードを翳して扉を潜る。

 見た目の部屋の作りはガンマのいる転送室となんら変わらない。

 しかし守衛室と書かれた部屋から出てきたのはガンマでは無くベータと呼ばれる人物だった。


「おうレイ久しぶりだな、ちゃんと飯は食ってるか?もっと食わんと俺みたいになれんぞ」


 ベータの見た目は正にガチムチという言葉が似合うもの、身長はレイが見上げる程で2メートル以上あり青色のソフトモヒカンに青い目、一見世紀末でヒャッハーしていそうな外見であるが、ガンマと比べて確かに守衛には向いてそうな容姿はしている。


「お前の様な見た目になってたまるか、それより急いでるからさっさと使わせてもらうぞ」

「んだよ連れねえな。

 四葉が一緒って事は大阪支部だろ、設定は変えてないからそのまま飛べるぞ」

「ああ、ありがとう。

 用事が済んだら美味い酒でも差し入れてやるよ。」


 設定がそのままという事もあり特に操作するでもなく機会群の中央に立つ

 数秒後転送が開始されレイと四葉の姿はその場から消えた。


「おうレイ、こっちにも美味い酒差し入れろよな。」


 転送先で守衛室から顔を出したベータに言われる。

 転送に失敗した訳では無い。

 本部や全ての支部の施設間転送室を管理しているのはベータなのだ。

 同様に全ての転送室にはガンマが存在する。

 ガンマやベータ、そして本部に一人だけ存在するアルファはホムンクルス、つまりは人造人間である。

 ガンマやベータは個にして全、全にして個であり全てのガンマ、ベータはある種のネットワークの様なもので繋がっており全ての情報を共有している。

 だから本部のベータに言ったレイの科白を大阪支部のベータも知っていた訳である。

 ホムンクルスたちは転送室から出られないという制約があるが、その分転送室内では最低でもNumbersNo.1を凌駕する、らしい。

 レイは聞いただけの話であり、そもそも出入口の一つである転送室を守るホムンクルスたちが戦う様な場面になればそれはギルドの崩壊を意味しているのだから

 因みにアルファがいるのは異世界転送室と呼ばれる部屋で、本部にだけ存在する。

 レイがアルファと会話したのは挨拶回りで話した時の一度切りである。


「とりあえずどうすればいい?オペレーションルームにでも行きゃいいか?」


 施設間転送室を出たレイは四葉に聞く

 レイ自身は既にクロのバックアップを受けられる状態であるし、急いだ方がいいのであれば直ぐにでも追跡している戦闘部隊と合流しようかと考えていた為である。

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