2~至る道~
話は十二月二十五日、レイ覚醒の日まで遡る。
「と言う訳で此処が日本政府直属対超常異常組織、通称ギルドだ!」
「何がと言う訳だよ!まだ何の説明もされてねぇよ!
いや大体大筋は分かったけど、説明が名前だけって大雑把とかのレベルじゃねぇから!」
レイ、正確にはこの時はまだレイではないが、何の説明もされぬまま虎徹にギルドの出入口の一つ、転送室に連れて来られていた。
あまりの騒がしさに守衛室から出て来たガンマは、そこにいた人物に僅かな驚きを見せる。
「あれ、虎徹さんさっき帰ったばかりじゃありませんでした?」
「おうガンマよ!活きのいい新人連れてきたぞ!」
「あ、初めまして俺は……」
「今は名前はいいですよ、連れて来られたばかりだからまだ名前無いでしょ?」
ガンマに名前が無いと言われレイは首を傾げる。
当然だが名前はある。
そうでなければこの三十年の自分はなんだったのかという話である。
「あー、虎徹さんまた何も説明しないで連れてきたんでしょ!
俺は転送室の守衛であって新人の教育係じゃ無いんですからね!」
「じゃが、説明してくれるんじゃろ!」
虎徹の言い様にガンマは溜息を吐き、わしゃわしゃと頭を搔いた。
そして虎徹に変わり此処、ギルドについて色々と教えてくれる。
「流石に此処の名前ぐらいは聞いたよね?
てか、あの人それぐらいしか言わないからなぁ……」
このガンマと呼ばれる人物は中々の苦労人らしく、そう言って遠い目をした。
ガンマの説明を物凄く簡潔に纏めるなら此処はレイが襲われたあの化け物の様な物、超常的な能力に目覚めた人間、そして時には外部からの侵略の様な物に対抗、対応する為の組織らしい。
虎徹がレイを連れて来た様に所謂スカウトの様な事や能力などを使って悪さをする者への対処、外部、時には異世界やら外宇宙からの侵略行為の阻止など、その活動は多岐に渡る。
そしてその活動の殆どが秘密裏に行わなければならない。
「これがメインの活動だよ、後は内部でのあれやこれやがあるんだけど、それは追々、一気に説明されてもこんがらがるだろうし」
「ふむ、ありがとうございますガンマさん。
あのオッサン本当に何も説明してくれなくて……」
「あはは……まぁ何か分からない事があったら俺のとこに来てくれ、虎徹さんが連れて来たって事は多分ランク戦まで他のメンバーに合わせて貰えないだろうから、それと俺の事はガンマでいいし敬語も要らないよ。」
「ランク戦……?
いやまぁ取り敢えずそれはまた後でいいや、ありがとうガンマ」
ガンマの説明を聞き終え、握手をしてから暇そうにしている虎徹と合流する。
「そんな暇そうにしてるなら説明してくれてもいいんじゃねぇかな。」
何をするでも無く、ただ話が終わるのを待っていた虎徹に胡乱な瞳を向ける。
「ランク戦の説明はしてやる!取り敢えず来い!」
うるせぇオッサンだなと思いつつどんどん先を歩いて行く虎徹に渋々着いて行く
暫く歩くと、とある部屋の前で立ち止まった。
その扉には個人修練室と書かれたプレートが貼られていた。
「よし、入れ!」
言われるまま足を踏み入れると、それなりの広さの空間とよく分からない機械、そして扉が一つあるだけの、言ってしまえば殺風景な部屋だった。
「此処は個人修練室、個人修行を積む為の場所で、外と内は時間の流れ方が違う!
大体外の一日がこの部屋では三日と言ったとこだな!
此処ギルドでは毎月月末にランク戦という物がある!
ランクと言うのは一位から百位まであり、それ以外はランク外となる!
取り敢えずお前には今月のランク戦までにそれなりに戦える様になって貰う!
ランク戦はランク外の者、ランク下位の者が上位に挑戦する方式だ、此処で約二週間!励め!以上!」
それだけ言うと虎徹は部屋から出て行ってしまった。
虎徹が出た瞬間ガチャンという音が聞こえてきたので、恐らくそのランク戦とやらまで出る事は出来ないのであろう。
ガンマが他のメンバーに会わせないと言ってたが、この状況ではガンマにすら会えやしない。
だがレイはそんな些細な事よりも、その心境はワクワクで満たされていた。
あの機械の説明が無かったがこの部屋とランク戦の説明をしたのにしなかったという事はチュートリアル的な物があると思っていいのだろう。
そう思い閉じ込められた以上確認するべきは謎の扉、部屋の特性上休む為の部屋と考えて間違いは無いだろうが確認しない訳にはいかない。
「まぁ案の定簡易的なベッドにシャワーとトイレ、それと券売機……?」
見た目は正しく飲食店でよく見かける券売機その物であったが、パッと見はそれだけ、閉じ込められたという事を考えるとあの扉が開くのはランク戦当日、そうなると券売機だけあっても飲食はどうするのか、考えていても仕方が無いと思い、取り敢えずコーラと書かれたボタンを押す。
「おお……マジか……」
券売機のボタンを押した瞬間横の壁だと思っていた部分が開き、そこにはたった今押したばかりだと言うのに、コーラらしき物が存在していた。
「ほぼラグ無しだったけどこれ本当にコーラなのか?」
すんすんと匂いを嗅ぎ、恐る恐るそのコーラらしき飲み物を口に含む。
するとそれは紛う事無きコーラであった。
「ふむ、コーラだわ。
となると他のボタンも書かれてる物が出てくるんだろうな。
仕組みは全く分からんけど、俺みたいに超常的能力を持ってるのがわんさかいるんだろうし、これぐらいで驚いてたら駄目なんだろうな……」
部屋の確認を終えたレイは一度部屋を出て一番の謎である機械に触れてみる事にする。
正直この部屋の使用法と先程の券売機を見る限りこの機械の使い道も検討は着いていた。
「訓練用の相手を出せるって事だろうな。
チュートリアル戦闘でVR的機械を使って戦闘をするって設定のゲームあったなぁ。
つまりそれのリアル版だわな、仕組みとかは考えるだけ無駄だろうし」
少し触れてみるとレイの思った通りの機械である事が分かった。
想像していた通りチュートリアルが存在し、軽い気持ちで触れたそれは気付いたら扉が開くまでやっていた。
トイレや空腹を満たす為に部屋には何度か行ったものの、ほぼほぼ休む事無くそれをプレイしていた。
扉が開いた事に気付き、流石にやばいと思い急ぎシャワーを浴びて添え付けの服を適当に着る。
レイからしたら約二週間振りに虎徹と再会する事となる。
「やり込んだみたいじゃないか!
行けるな!」
「基本は事前申請らしいけどその場で挑戦も出来るんだろ?
オッサンの説明が雑な理由がまさかあの機械に色々と説明が載ってるなんてな……」
あの部屋の機械にはギルドについての諸々の説明書きも載っていた。
レイはそれをちょっとした休憩のタイミングで確りと読み込みギルドについての基本的な知識は頭に叩き込んでいた。
叩き込む、と言うよりは覚醒により脳の機能も上がっているらしく、一回見ただけで一字一句全て書き出せる様になっていたのである。
所謂瞬間記憶能力を手に入れたと思って間違い無いだろう。
「さて……百人抜きといこうか」
虎徹の後を着いて行きながら、レイは誰にも聞こえない様にそう呟いた。
その日のランク戦は殆ど戦闘が無かったものの、レイの言った通りその場での挑戦も可能であり、月に一度のランク戦には一位から百位までのメンバーは必ず集まる事になっている。
「先ずは百位!」
突如会場へと現れたレイはそう宣言する。
ランク戦は上位への挑戦式、上位者は挑戦を断る事は出来ない。
そして戦いの前に大画面に簡易的に順位、種族、職業などが映し出される。
つまり相手の得意な事がそこで分かる訳なのだ。
レイがやりたかった百人抜き、それは――
「一位まで全員得意分野でボコる。
さぁ、蹂躙の時間だ。」
その言葉通り、正しく蹂躙が始まった。
虎徹は直接その成果を見ようとレイの修練風景は一度も見ていなかった。
そして実戦を見て虎徹は震えた。
ランクは一位から百位までだが所謂戦闘班は総勢数千人規模なのだ。
その中の上位百人、ランクとしては最下位の百位だって決して弱くは無いどころか、数千分の百なのだ組織内では圧倒的強者の部類である。
それを瞬殺、しかも相手の得意分野で、である。
同じ様に九十九位、九十八位と続きあっという間に、時間にして一時間も掛からずに十位まで、全員が全員相手の得意分野で一方的な蹂躙劇を魅せた。
この一時間という時間だって殆どは移動等といった戦闘以外の時間含めての一時間だ。
だがここからは、一桁からは違う。
誰もがそう思っていた、十位と九位では圧倒的とまでは言わないでもかなりの差がある。
今の一桁台は正に化け物、歴代最強の九人なのである。
だが、結果変わらず。
「これで!終わり!」
一位、No.1壱歌までもがレイに瞬殺された。
そこで上層部によって議論される事となる、目の前でこの様な蹂躙劇を魅せられたのだ強さを疑う事は無い。
しかしあまりにも強過ぎた。
ランクは一位から百位までだ。
だがレイはどう考えてもこの枠組みに収まる器では無かった。
白熱するかと思われた上層部の議論、だが虎徹の一言により僅か数分で収まる事となる。
「一で収まらんなら零でいいじゃろ!
No.0!コイツの為だけの特別ランクじゃ!」
そして此処に、過去の枠組みを超えたNo.0、通称零が誕生した。
各々の呼び名は自分のランクを元にコードネームを考える事となる。
だからランクが上がったり下がったりすれば名前を変えるとなる訳だ。
だからレイの名は零、能力を失ったりしない限り一生この名と付き合う事となるだろう。
因みにランク外の者たちも適当にコードネームを自身に付けるので、基本的にギルドにおいて本名を名乗る者はいない。
「――とまぁそんな訳で、ギルドに入って僅か数日で最強に至った訳です。
しかもその対戦相手の得意分野で瞬殺するという蹂躙劇でALLPERFECTとか完璧超人なんて異名も付いたんですよ。」
「ALLPERFECTはまだしも完璧超人は『ぼくのかんがえたさいきょうのひーろー』みたいな感じであまり好きじゃないんだが……」
「『ぼくのかんがえたさいきょうのちーときゃら』みたいな存在が何言ってんですか。」
「レイと十一くんは仲良いんだねぇ。」
「まぁ俺もコイツも基本本部にいるからNumbersの中では一番顔合わせるからな、んでほら可愛がりがいがあるだろ。」
時は戻り現在、ザックリとしたレイの説明を終えた所に当の本人がドライのお仕置を終えて戻って来る。
そこに壱歌とドライの姿は無かった。
「お二人は帰したんですか?」
「いや、壱歌ちゃんは回復したけど北海道に送り返す訳にもいかないから取り敢えず死なない程度に見守っててって書き置きして本部に送ったわ。」
「あ、ドライさんは四肢切断のままなんですね。」
「シロのとこに送ったし、繋ぎっぱなしだからクロがちゃんと把握してくれてるから大丈夫大丈夫」
「午後のティータイムみたいなノリで会話してましたけどそう言えば仕事中なんですよね……」
レイが北海道に送り返す、と言ったのは基本的にNumbersは各地に散らばってその場その場で各々の業務を熟す事となっている。
その中で関東はレイ、北海道は壱歌とドライといった様に一桁台はより大雑把に振り分けられていた。
実はその気になればレイ一人で国内全てをカバー出来たりもするのだが。