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8~ギルドマスター~

「時に佑兄、奥に精霊さんの気配を感じるのですが。」

「精霊の気配……?え、なにそれ俺なんも感じないよ?」

《ニーナのスキルですね。

 マスター程ではありませんがニーナもレアスキルやユニークスキルをいくつか所持しています。

 その中に『精霊の申し子』『精霊の加護』『精霊の寵児』などの精霊に纏わるスキルがあります。

 主な能力は魔法に関するブーストで、精霊系のスキルには副次的効果として精霊と親しくなれたり、精霊の居場所が分かったりします。》

 

 つまりニーナがいなければ、精霊の涙を最終手段として考えていた強奪するという結果になっていたかもしれない、という訳である。

 その気配がするという方へ行ってしまったので、レイも取り敢えずベリトを放置して追いかける。

 そこにはドールハウスの様なものがあり、そこに三人の精霊がいた。

 精霊のサイズは大きな者で人間と同じぐらいか少し大きいぐらいで、小さな者は今目の前にいるドールハウスで生活出来る程度、つまり10センチ前後のサイズである。

 

「◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇、◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇。」

 

 どうやら会話をしている様なのだとは分かるのだが、何を話しているのかはレイには全く分からなかった。

 

(ニーナさん共通語で話せたって言ったじゃないですか……)

 

 恐らく精霊系のスキルの能力を把握しておらず、かつ『言語理解』が所謂自動翻訳だった為に勘違いしたのだと思われる。

 レイが考えていた通りに『言語理解』が通用しなく、独自の言語を有していたという訳だ。

 

(捕まったって感じでは無いからベリトも精霊系のスキルを持ってるんだろうな……あれ、疎外感)

 

 精霊と会話出来なくても生きていける、と頭を振って気持ちを切り替える。

 会話をする事が出来ない為、精霊の相手をニーナに任せその間にこの部屋の中を見て回る事にした。

 見て回る、とは言ったが眼に付いた物は片っ端から『異次元収納』に飲み込まれていってるが。

 戦利品は根こそぎ奪っていくのがレイの主義である。

 暫く歩き回って戦利品の回収が終わり、後この部屋に残っているのは精霊のいるドールハウスと精霊、そして要らないがベリトだけである。

 因みにベリトは部屋の中にあったロープっぽいものでぐるぐる巻きにして、口を塞いでから回復して放置されている。

 荷物にはなるが、流石に殺して『異次元収納』に仕舞うと言う訳にはいかない。

 

「連れ帰って欲しいとの事なのでそろそろ帰りましょうか。」

 

 戦利品回収が終わって少しするとニーナが三人の精霊を胸元に抱いて駆け寄って来る。

 根こそぎ、なので勿論ドールハウスもきっちりと回収した。

 

「それじゃ世界樹のとこに帰るか、しかしイベントボス此奴だったのかなぁ……」

 

 ベリトの足を持って引き摺りながら階段を上り考える。

 そもそも人であるベリトとは対話が可能だし、精霊の扱いを見る限り悪人だった訳では無い。

 

《素材が向こうからやって来ましたよマスター》

 

 階段を上り切る直前ルナが伝えてくる。

 精霊の涙はこの精霊たちを連れ帰れば手に入る。

 世界樹の葉も同様に戻れば簡単に手に入れられる。

 やって来た、つまり最後の素材である上竜核が態々来てくれたらしい。

 それで漸く気付いた。

 ルナは今回の素材集め、全てがこの森で手に入ると言った。

 だが上竜だけは世界樹に行くまでに影も形も無く、そもそもよくよく考えれば何か理由が無い限り竜種が森の中にどんといる訳が無い。

 それなのに上竜核が手に入ると言っていた理由――

 

「そうか、お前がこのイベントのボスか。」

 

 階段を上り切り、建物を出ると目の前には漆黒の鱗を持った10メートル程のサイズの竜がいた。

 単に一言で竜と言ってもその種類は意外と多い、その中で上竜と言われるのは所謂ブレス、竜魔法という種族固有魔法が使える竜を上竜と呼ぶ、例えばファイアドラゴン等の属性竜がそれにあたる。

 現在目の前にいるのは恐らくダークドラゴン、闇属性を使う上竜だ。

 竜はこの世界の魔物の中でもかなりの上位者で――

 

「悪いな、時間が無いんだ。」

 

 ――普通の人なら出会えば死を覚悟しなければならない相手なのだが、あっさりレイの白黒により首を刎ねられてその命を散らした。

 

《称号『ドラゴンスレイヤー』を入手しました。》

 

 ルナの声で事務的な内容が頭に響く、普段だったら手に入れた称号に対してニーナとあれこれ話をしたいところなのだが、段々とこの時間に追われる今の状況に嫌気がさしてきたので、ベリトを倒した辺りでガッツリ巻きで行く事に決めていた。

 必要があればまた来ればいいだけの話である。

 『異次元収納』へダークドラゴンの死体を仕舞ってからニーナを片腕で抱え、反対の手でベリトの首根を鷲掴み、そして飛び上がる。

 飛行して僅か数秒で世界樹へと戻るとニーナを降ろし、ベリトを投げ捨て自分はそのまま世界樹の葉を手に入れる為に垂直に上がって行く

 レイの飛行速度は音速を超えるというのに葉に着くまでに二十分もかかってしまう。

 元の世界で言うならほぼ衛星軌道である。

 

《ここまで来るのはマスターでなくては無理ですね。》

《ほんとにな、でも希少とは言え世に出回る素材なんだろ?

 その出回った葉ってどうやって手に入れてんの?》

《何年かに一度程度の頻度で大気圏よりも下の位置に小さい枝が生え、そこから落ちてきた葉を拾うようです。》

《成る程、そりゃ希少だわな……折角こんな場所まで来たんだしある程度の数確保してから戻るか》

 

 ある程度、と言っておきながら視界に入っている部分の全ての葉を回収する。

 恐らく数十万から数百万は回収したのではないだろうか、しかし世界樹はあまりにも巨大な為、それだけの量を採っても世界樹からすればほんの一部でしかない。

 葉を回収していると流石に肌寒くなってきたので戻る為にレイは自由落下して行く

 上がる時と同程度の時間で地上へと到着する。

 本来ならば上がる時と下りる時の時間に差が無い訳は無いのだが、物理法則?質量保存の法則?そんなん知らんわと諸々否定してくる魔法なんて存在がある世界である。

 

「佑兄おかえりなさい、かなり時間がかかりましたね。」

 

 ニーナが迎えてくれる。

 ニーナの横にはよく見かけるワインが入ってる様なサイズの樽が五つも置かれていた。

 どうやら報酬の世界樹の精霊が作る酒、精霊の涙らしい。

 これで素材が全て揃った。

 そして気付いた事がある。

 このクエストの報酬、恐らくベリトだ。

 ナターシャから直接頼まれた依頼だったならそれはそれで何か報酬があったのかもしれないが、それでも一番の報酬はベリトの存在だろう。

 ベリトは世界の最高戦力の一人のSSランク冒険者で、恐らくベリト以上はそうそう存在しないだろうと思われる最高峰の錬金術師、の筈である。

 材料さえあればエリクサーや他にも伝説級の薬を作ってくれるだろうし、今回手に入る素材で複数のエリクサーが作れるはずで、つまり複数のエリクサーとそれを作れる錬金術師が仲間になる、というイベントだったのだろう。

 レイはベリトを拉致ってきた訳だが。

 とにかく後は帰ってベリトにエリクサーを作らせればクエストクリアである。

 

「それじゃブレンに戻るとしますか。」

 

 精霊の涙が入った樽を『異次元収納』に仕舞いながらニーナに声を掛ける。

 

「めっちゃくちゃ濃い一日でしたね……」

 

 ニーナが遠い目をしている。

 この世界に来て正確な時間を計る手段を入手出来ていないので目算だが、現在の時間は午前三時頃、レイがギルドに登録してから半日しか経っていない。

 レイも別行動していた僅かな間に濃いな、と考えていたが、やはりニーナも同じ事を考えていたらしい。

 

「よし、じゃあ合体」

「はい!」

 

 ニーナを背負ってベリトの首根っこを掴む、そのまま空中へと舞い上がり、ブレンを目指して飛び立った。

 因みに世界樹の結界はニーナが聞いてくれたとこによると時間で復活するらしい。

 ぶっ壊すだけぶっ壊して後の事を考えていなかったのでそれを聞いてレイは心底安堵した。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

 それから約三時間、ニーナとついでにベリトに気を使って飛んだので行きよりは断然早かったものの、ブレンの冒険者ギルドへ着いたのは僅かに日が昇り始めた頃だった。

 冒険者の、と言うよりこの世界の住人の朝は早い、基本時計なんかがある訳では無いので人の活動時間は基本的には日が昇ってから沈むまでである。

 だからブレンの冒険者ギルドはそれなりの賑わいを見せていた。

 因みにギルドに入る前に解体倉庫をチラッと覗いたらまだまだ山はそのままだった、それでも目に見える程度には減っていたので全員遅くまで、或いはほんの少し前まで働いててくれたらしい、後で菓子折りでも持ってお礼をしようと決めるのだった。

 

「ニーナちゃん!ユウさん!それと……え?ベリト、さん?」

 

 それなりに賑わってはいるがまだまだ余裕があるのか、偶々手が空いたのかニアが受付から出てくる。

 隈がある訳でもないのでニアは普通に定時で上がった様だ。

 ニアがベリトの名前を出した事で注目を集めているがレイは気にしない、ニーナは少し居心地が悪そうにしていたが。

 

「やぁニア、ギルドマスターと話がしたいんだけどいいか?」

「え?あ、はい、確認して来ます。」

 

 レイに言われ駆けて行き、一分もかからないうちに戻ってくる。

 

「あの、会うそうなので此方へ来てください。」

 

 ニアの案内でギルドマスター室と書かれた部屋へと通される。

 勿論ニーナは着いて来ているし、ベリトも確り引き摺って来ている。

 因みに扱いが雑だがベリトは気を失ってる訳でも何でもなく、縛られてる事により動けなく、口を塞がれてる為に喋れないのでいい様にされているだけである。

 

「ああ、ユウさんおはようございます。

 此方へどうぞ」

 

 ギルドマスター室に入るとソファに座る様促され、ナターシャ直々にお茶を容れてくれる。

 ニアは受付業務もあるので案内だけしてさっさと戻って行った。

 レイ、ニーナそしてベリトの分までお茶を容れたナターシャは反対側のソファへと腰を下ろす。

 

「それで、お話とは?」

「エリクサーの素材を集めて来た。」

 

 言われ眼を見開くナターシャ、ベリトも似た様な反応をしていたがベリトは素材を手に入れてる所を見ている筈である。

 

「あの、どうしてその話を私に?」

 

 ナターシャは心底分からないと言った表情をしながら言う。

 確かに今回レイはナターシャに何を聞くでも無く行動を起こしている。

 だから、本来ならナターシャの病気については何も知らないはずのレイからエリクサーの話をされて本当に困惑しているのだろう。

 

「救う、と言ったはずですよギルドマスター」

「え?あの、ユウさん?」

「詳しい説明は出来ませんが、俺は貴方がエリクサーを欲している事を知っています。

 そしてこの場には素材と人材がある。」

 

 言いながら上竜核、世界樹の葉、小分けした精霊の涙を取り出してテーブルに置き、ベリトを指差す。

 上竜核や小分けにされた精霊の涙が出てきた理由は、ニーナが原型も残らない程ぐちゃぐちゃにした魔物を『異次元収納』に仕舞う時に――

 

「問題無いのは分かってるけど気持ち的に仕舞いたくない……」

《全く別系統の能力なのでこれまでは干渉出来ていませんでしたが、マスターの許可を頂ければ『異次元収納』と『導キシ者』をリンクさせ『異次元収納』内部で解体や仕分けなど今まで『異次元収納』単体では出来無かった事を私の方で行える様になりますよ。》

「え?マジで?許可する許可する。」

 

 ――という会話があり、ダークドラゴン含めデドアラ大森林で狩った魔物や動物は解体されて素材毎にきちんと管理されている。

 今までは取り出す時に取り出したい物をイメージする必要があったのだが、視界にメニュー画面の様な物が出る様になり、何が入ってるかを簡単に見れるようになって、取り出すのもそこから選ぶだけで取り出せる様になっている。

 今のところこれ以上のスキルの統合は発生していないはずだがルナはどんどんと進化していき、今のレイの視界はまるでゲーム画面上のUIの様になっていた。

 

「つまり俺にエリクサーを作れって言いたい訳だな。」

 

 相変わらずぐるぐる巻き状態だが、状況を把握したベリトはそう言葉を発する。

 口を塞いでいたもの、ガムテープっぽい何かはどうしたのかと思ったらベリトの横でニーナがそれをヒラヒラさせていた。

 状況を見てベリトが口をきけるようにしてくれたらしい。

 ニーナちゃんマジ良妻

 

「エリクサーどころか馬車馬の如く働いてもらうつもりなんだが……」

「は?お前人の研究の邪魔してまだ何かさせるつもりかよ悪魔かお前は!」

「この世に存在するならどんな素材でも取ってくる、と言っても口答えするか?」

「お前に何の得があんだよそれ、確かに俺レベルの錬金術師は希少だけど他にいない訳じゃないぜ?

 それに俺が欲しい素材はある、とは言えその殆どが伝説級の素材だ。」

 

 得、得ねぇ、と考えるが特に何も浮かばない。

 レイとしてはベリトは戦利品、つまり既にレイのモノだという認識である。

 レイは自分のモノを無下に扱うつもりは無い、と言うだけであり、それプラスでベリトがあんなところに引き籠って何がしたかったのか単純に興味もあった。

 だから欲しい物があるなら持ってきてやるけどその分ちゃんと働けよな、という事である。

 

「ベリトさんはSSランクの冒険者……SSランクは世界に九人……九――はっ!閃いた!」

「ニーナちゃん、一応言っとくけど集めても何も出てこないと思うぞ?

 まぁでも根無し草どもを集めんのもコレクション要素としては面白いな……戻るまでにやりたい事リストに加えるか。」

《了解しました。現在『戻るまでにやりたい事リスト』の総数は十二で、四つ完了しています。》

「え、待って四つ完了してるってなんだっけ?そもそも十二個もあったっけ、それ以前になんでルナが把握してるんだよ!」

《ニーナに聞かれてもいいのならやりたい事リスト発表しますけど……》

「待って、最低でも四つのうちの二つは分かった!待って言わないで!」

「なんですか佑兄、私に隠し事ですか?」

 

 ベリトとナターシャを放置してわいわいしだす三人(傍目には二人)

 レイとしては素材集めが終わって作れる人まで連れて来たのだから既に終わった話になっていた。

 ナターシャから何か報酬が貰える可能性もあるが、金ならデドアラ大森林で狩った素材だったり、ルナの目利きで集めていた植物なんかを売れば恐らく数十年は豪遊して暮らせるし、魔道具の類なら言っては悪いがギルドマスター程度ではベリトからかっぱらった物よりも良い物を出せるとも思えない。

 だからこのクエストは素材と返してもらうがベリトを渡せば完了で、もう興味の対象では無くなったのである。

 とは言え流石にギルドマスター室でギルドマスター放置はやり過ぎたかなと思ったので向き直る。

 

「とりあえずベリトは俺のコレクションだから俺が手伝うのに理由を考えんな。

 それでナターシャ、あんたはこれを受け取ってさっさと病気を治せばいい。」

「コレク……え?本当に俺の扱いそんな感じなの?俺世界に九人しかいないSSランクの一人だぜ?」

「ユウさん……本当にありがとうございます、こんなにも希少な素材を集めてきてくださってどう報いればいいのやら……」

「礼なんて要らない、これは俺が勝手にやっただけの事だからな。

 どうしても礼がしたいなら、暫くはこの街を拠点に活動するから病気が治ったらまたお茶でもご馳走してくれればいい、それじゃベリトは置いて行く、俺は適当に依頼でもやらせてもらうさ」

 

 そう言ってレイはギルドマスター室を出て依頼の貼ってある掲示板に行こう、として混雑していたので暫くはそれをぼーっと見ている事にした。

 それから三十分程だろうか、目に見えて人が減り、掲示板の前もかなり空いてきたので依頼を見に行く

 三十分と言うとそれなりの時間だが、冒険者は千差万別あって意外と観察しているだけで面白かった。

 掲示板に目をやってはたと気付く

 

「ニーナちゃん大変、俺ギルドカード預けっぱなしだわ。」

「依頼を厳選する前にニアさんのとこでしたね。」

 

 ニアを見ると受付の途中だったのでそれが終わってから近付く、レイたちの前にいたのは女性の兎の獣人だった。

 この世界の獣人は人に獣耳と尻尾が生えてるだけの獣人では無く、二足歩行の獣といった出で立ちの獣人である。

 レイとしてはどちらも好きではあるが、異性として見れるのは獣耳尻尾の獣人で、この世界の様な獣人はモフる対象としか見れなかった。

 だが獣人と言う括りならどちらも好きである、好きなのである。

 因みに獣人のハーフは人の骨格に獣っぽさが付いた感じで獣耳尻尾獣人に近い姿をしている。

 ニアは名前のイメージで猫獣人っぽさがあるけど純人間です。

 

「おや、ユウさんどうしました?ギルドマスターとのお話は終わりましたか?」

「俺のギルドカード知らない?」

「…………………………少々お待ちください。」

 

 どうやらニアがレイから預かったはずなのに完全に忘れていたらしく、答えるまでにかなりの間があった。

 そして慌ただしく戻って来る。

 

「ちょちょちょっ!ユウさんあの討伐記録なんですか!」

「討伐記録……?俺昨日からギルドカード預けっぱなしだけど」

「距離は関係ありません!この世界のどこにあっても登録した方の討伐記録が反映されるんです!」

 

 安定の謎技術である。

 とは言えデドアラ大森林でかなりの数の魔物を狩ったので、目に見える記録として残らないのは勿体無いな、と思っていたので謎技術に感謝だ。

 

「昨日のオークや依頼の討伐記録は終わってたんですが、最終確認として読み取ったら一番最初にダークドラゴンの名前が載ってて心臓が飛び出るかと思いましたよ!

 で、勿論素材は当ギルドに売って頂けるのですよね?」

 

 ニアの目がとても怖い。

 冒険者はギルドに素材を買い取って貰って金を稼ぐ、ではギルドはどうやって稼ぐのか、場合によってはスポンサーがついていたりもするが基本的には冒険者から買い取った素材を売って資金を稼ぐのだ。

 これだけだと知識の浅い者が勘違いしそうだが、これは商売であり転売では無い、意味としては転売でも合ってないとは言わないが現代では転売という言葉は悪い意味となっている為に念を押しておく

 ギルドは適正な価格で買い取り、方方へと売り込み交渉をして、その適正価格よりも少しでもより高く買ってもらう、これが商売だ。

 不当な価格で、或いは偽って、騙して売るのが転売だ。

 閑話休題

 

「今手が空いてる職員に討伐記録を洗ってもらってるので、良い素材があれば資金の許す限り買いますよ。

 いやぁ、まさか属性竜やデドアラ大森林の素材をうちで扱えるなんて……」

「一応言っておきますけどうちのギルドにそんな潤沢な資金はありませんよ。」

 

 ニアが若干トリップしていると、現実に引き戻すようにナターシャの言葉がかかる。

 ブレンの街の周辺は稀にBランクの依頼が発生する程度で基本的には平和な方なので、確かにそんなSランクパーティーが全滅する様な場所の素材をいくらでも買い取れる、という程には資金に余裕は無いだろう。

 

「あれ?どうしたんだギルドマスター」

「例の薬を作る為に色々足りないのでそれがあるか確認しに来たのですよ。」

 

 エリクサーを作る素材として確かに必須で希少なのは上竜核、世界樹の葉、精霊の涙の三つだが、それだけでは薬を作る事なんて出来ない。

 当然の事だが器材やその他諸々細かい素材等が必要になる。

 

「あーそりゃそうだよな……ニア!ギルドマスターと相談して買取りたい素材を確認してくれ、ニーナはもし俺が戻って来る前に素材を出して欲しいって言われたらルナがアクセス出来るから出してやってくれ!」

 

 それだけ指示をして急いでギルドマスター室へと戻る。

 そこにはナターシャにロープっぽいものを外してもらったのか、ソファでお茶を飲んでいるベリトの姿があった。

 

「おお、どうした……えー、佑だっけか?ギルドマスターならいないぞ、俺が必要だと言った物があるか確認に行ってもらってる。」

「その必要な物を出しに来たんだよ。お前が研究してた場所の物は全部持ってきてるからな、あの中にその三つ以外なら必要な物が揃ってるんじゃないか?」

「ん?ああ、そう言えばあの空間をよくもまぁ空っぽにしてくれて、一体お前の『アイテムボックス』はどうなってんだよ……それはまぁいいか。

 確かにあそこになら今必要としてる物は全てあった、名前を言えば取り出してくれるか?」

 

 ルナさんマジ神、ルナが『異次元収納』とリンクする前だったならよく分からない名前を言われたところで首を傾げただろうが、今の『異次元収納』ならば全てのアイテムの名前が載ってるし検索も出来る。

 逆に言えばルナによって『異次元収納』の機能が拡張されたからこそ全てを回収してきてベリトを拉致ってきた訳だが。

 

「大丈夫だ、ここで作れるのか?」

「エリクサーは素材の入手難易度が高いだけで作製自体はそれ程難しい工程は無い、伝説級アイテムとしては必要な素材も多くは無いからな、物さえあればサクッと作れるさ」

 

 自信満々に言うのでこの場で言われた物を取り出していく、確かに思ってたよりも必要器材などは少なく、お茶を出してもらってたテーブルに乗り切る程度だった。

 全ての器材が揃うとベリトは真剣な表情になって作製を始める。

 レイはまるっきりの門外漢なので邪魔をしないようにギルドマスター室を後にした。

 ギルドマスター室から出て受付の方を見ると、そこには血走った眼をしたニアを何人かの職員が押さえ付けている光景が眼に入った。

 レイは何も見なかった事にしてそっとギルドマスター室へ戻って行った。

 

(流石に自分で言うだけあるな……)

 

 何も見ていないと自分に言い聞かせギルドマスター室に戻りベリトがエリクサーを作製する姿を見て感心する。

 正直何をしているのかは分からないが、その動き一つ一つが無駄の無い洗練された物だと言う事だけはハッキリと見て取れた。

 目測りで取り出した物や指で摘んで分けた物などその後キチンと測るが、一度たりとも減らしたり足したりといった作業をしていない。

 

「ふぅ……」

 

 十分程が経過しただろうか、ベリトは動き止めて大きく息を吐いた。

 どうやら完成したらしい。

 

「うわっ!佑いたのかよ……作業始めて直ぐに出て行かなかったか?」

「ん?ああ……見ちゃいけないものがあったと言うか何も見ていないと言うか……」

「うん?よく分からんが完成したぞ、早速ギルドマスターに飲んでもらおうか。」

「なら俺が呼んでくる、疲れただろ休んどけ」

 

 よくよくベリトを見ると、かなり体力を消耗したのか汗ばんでいて若干呼吸が荒かった。

 だから少しでも休ませてやろうと、レイはギルドマスター室を出てギルドマスターに声を掛けに行く

 ニアが泣きながら床を叩いている姿が眼に入る。

 何も見ていない何も見ていない。

 

「ギルドマスター」

「あら、ユウさんどうしました?」

「完成したんで呼びに」

 

 レイの言葉を聞くとばたばたと駆け足でギルドマスター室へ戻って行った。

 本当に今日死ぬ可能性があった人間なのだろうか。

 レイもギルドマスターの後を追ってギルドマスター室へ向かう。

 その途中チラリとニーナを確認すると今にも泣きそうな眼をしたニーナと眼が合った。

 すまん頑張ってくれと念を送って視線を逸らし、そのままギルドマスター室へと入る。

 

「おお、凄いですね……まるで身体が新しい物に変わった様な感覚です。」

 

 僅かに遅れて入ると既にエリクサーを飲んだ後だったらしい。

 ナターシャの言う通り身体を作り替えているのかの如く全身が光り輝いている。

 ルナに確認したら完全な健康体になり寿命も本来の倍近く延びて若干だが老化も緩やかになっているらしい。

 先程までいつ死んでもおかしくない程の大病を抱えてた人間が結果200ぐらいまで生きる程になった、流石に伝説級の回復アイテムである、その効果は半端ない。

 因みにルナが言うにはナターシャの寿命が倍近く延びたのは大病を回復した残りの力らしく、健康体の人間がエリクサーを服用すると三倍から五倍程も寿命が延びる、かもしれないとの事、元気になったナターシャを見ながらベリトへ声を掛ける。

 

「無理矢理連れて来たのにありがとうな。」

「エリクサーなんてそうそう作れる物じゃないしむしろ感謝するべきはこっちだ。」

「じゃあその感謝は受け取っとく、ところであんなところに籠ってなんの研究をしてたんだ?」

「あ?俺は錬金術師だぞ?決まってんだろ、不老不死薬だよ。」

 

 自動翻訳で当て嵌めているだけだと思っていたが、やはり錬金術師は錬金術師らしい。

 とは言え万病を治し、寿命を延ばす様な薬があるこの世界なら本当に不老不死薬が作れるのかもしれないが。

 そう思いながらレイは元の世界のガチの不死者の事を思い出していた。

 元の世界に帰ったら彼奴にも会いに行こうか、なんて帰ったらやろうと思っている事リストもどんどん増えていくのだった。

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