6~世界樹~
ニーナと色々話し、様々な考察を立てながらではあるがレイの走る足は、(レイにとっての)雑魚を切る腕は勿論止まってはいない。
ルナのナビ通りに進んでいるので自分の向いている方向に世界樹があるのだとは思うが、偶にある木々の隙間から前方を確認してもそれらしき物は見えてこない。
森に入る前に跳んで見た時は確かに広大だとは思った、未開の地という事で道らしい道もなく平地を走る時よりは遅くなってはいる、がそれでもレイの足である、既に森を一時間近く走っているのに目標物らしき物がまるっきり見えてこないのは流石に腑に落ちなかった。
「おかしいですね。
佑兄がこんだけ走って目的地に着かないなんて、迷ってるんですか?」
《私のナビゲーションは完璧です。
既に世界樹が見えているのですが、ニーナには見えないのですか?》
残念ながら俺にも見えてないです、とは言えないレイ
ルナには見えててレイやニーナには見えていない、そもそもスキルから発生した疑似人格であるルナがどの様に周囲を見ているのか、普通に考えるならばスキルの持ち主であるレイの眼を通して見てるのでは、と考えて思い出す。
ルナはレイに見えてないものが見える、だからこそ大量の依頼を一時間程度で片付けられたのだから
明らかに情報量が多そうでルナに任せきりだった『森羅万象』のスキルへと一瞬だけ意識を向けると、途端膨大な情報が頭に入ってくる。
あまりの情報量に頭痛がする、という事は無いが一瞬意識を向けただけで膨大な情報が流れ込ん出来たのだ。
一瞬でそうなる『森羅万象』を常時使用して流れ続けてくる膨大な情報を精査してピンポイントで必要となる情報を取り出すのは自分には無理だと判断する。
とは言えそれでも今の一瞬で分かった事はある。
確かにルナの言う通り『森羅万象』では世界樹が見えていた。
恐らく後十分もかからず到着するだろう、肉眼で確認出来ないのは変わりないが。
「ルナ、あまりニーナをいじめてくれるな。
俺にも肉眼じゃ見えていない。」
《申し訳ありませんマスター、少々悪戯が過ぎました。》
「別に怒ってる訳じゃないさ、人の様に思考するルナだから俺はルナが気に入っている。
ただ俺の可愛いニーナをいじめるのは程々にしてくれと言うだけだ。」
「佑兄サラッと言われるのは割と本気で照れるので止めて下さい!」
そんな会話をしながらも走り続けると漸く目的地、鬱蒼とした森の中でポツンとある何も無い空間に到着した。
相変わらず世界樹らしき物は見えないが、ナビはここが目的地なのだと伝えている。
『森羅万象』で見る事が出来るのはこの世界の全て、つまり見えるのは『この世界に存在するモノ』なので、肉眼で見えなかろうが目の前に存在するのは間違い無い。
そしてそんな『森羅万象』で見えるのだからズレた位置、つまり別の次元にある訳ではないし、『森羅万象』では目の前に見えるので天空や地下にある訳でもない。
そうなると結界の類で確定なのだが問題はそれをどうやって解除するのか、或いはどうやってその中へと入るかである。
ぶっちゃけ『世界樹のイベント』は自分には関係無いのだからさっさと取るもん取って道中では見かけなかったファンタジーの定番であり生物として最強格のドラゴンを探しに行きたい、と言うのがレイの本音だった。
つまり折角ならばイベント的に正規の方法で世界樹に辿り着きたいが、気持ちがドラゴンに傾いているので結界をぶち壊してやろうか、と考え始めていた。
そもそもこれが勇者の為のイベントならレイやニーナに正規の方法で入る手段が無い可能性もあるのだが。
「チートキャラっぽく結界を壊します。」
結局出した結論はそれだった。
考える事を放棄したとも言う。
「壊すってどうするんです?」
「殴る。」
「佑兄……」
「ほら、力ずくってある意味チートキャラの特権じゃないですか。」
何故かニーナに頭を撫でられる、嬉しくない訳じゃないがこの状況では解せない。
とにかく殴る、というのは決定事項である。
問題はどの程度の力を込めるか、全力でというのは世界樹にも影響ありそうなので選択肢から消える。
そうなると頼るべきは我らがルナさんである、恐らくルナならばレイの力の調節も出来る。
むしろ『導キシ者』なんて名称のスキルがその程度の事出来ないとは思っていない。
「ルナ、任せたぞ」
言いながら腕を引き
《イエスマスター》
目の前の何も無い様に見える空間を思い切り殴る。
途中で何かに触れ、森中にまるでガラスが割れた時の様な音が響き渡る。
見事、レイ自身は本気で殴ったつもりだがルナの調節により周りに被害を出す事無く結界の破壊に成功する。
結界が無くなった事により目の前に現れたのは正しく世界樹と言うべき巨大な木、歩いて一周するだけで十分や二十分はかかるのではないか、そう感じる程の巨大さ、そしてルナの言っていた精霊、と言うより妖精と言った方がしっくりくる見た目をした者たちがレイとニーナを遠巻きに見ている。
住んでいるとルナは言っていたので家の様な物があると思っていたのだが幹をくり抜いて思い思いに生活しているだけの様だった。
「精霊……妖精なのでは?」
「それは俺も思ったけど口には出さなかったのに……」
精霊でも妖精でも何方でも良いが結界を割ってまで来た目的は精霊の涙、そして世界樹の葉を手に入れる為である。
世界樹の葉は雲よりも高い位置にあるのか上を向いても見えないが飛べるレイにとっては特に問題では無い。
問題は精霊の涙、文字通りの涙なのかそう呼ばれる何かなのか、現状ではそれすら分かってない(ルナと答え合わせをしていない)。
「とりあえず何人かボコればいいんです?」
「まだ文字通りの涙なのか分からないのにニーナ恐ろしい子……」
「世界樹なんて巨大な物を覆い隠す結界を殴って壊そうなんて発想に至る人に言われたくないです。」
《このままでは精霊の危機なので正解発表です。
エリクサー作製に必要となる精霊の涙は世界樹に住む精霊が造るお酒の事です。》
「本当にボコろうなんて考えてないですよ!?」
多分ニーナが本当に精霊に手を出すとは思ってはいないだろうが、お茶目な正解発表をするルナ、レイやニーナとの会話やレイとニーナの会話を聞いているのも関係しているだろうが、時間が経てば経つ程人間味が増すルナである。
とにかく精霊の涙の正体が判明した、そうなると問題は闖入者にそれを譲ってくれるのかと言う話である。
普通に考えれば譲ってくれる訳が無い、レイも自分がその立場なら絶対に譲らないだろうと考える。
ならばどうするか、人命が懸かっているのだから最終手段としては強奪も考えるが、最終手段であり流石に初手でやる事では無い。
詰んでいるのではないか、結界を壊して侵入した事に後悔はしていないが、その結界の先の住人と交渉しなければならないのなら、後悔はしていないが状況は最悪だった。
「とりあえず挨拶でもしてみます?
ロシア語で」
何故ロシア語、と思わないでも無いがロシア人であるニーナがロシア語を話すのは普通の事と言えば普通の事だ。
そんな事を考えてると少し精霊たちと物理的に距離を詰め本当にロシア語で挨拶や自己紹介をするニーナ
因みにレイはロシア語の勉強をした事が無いので何を言っているのかは分からない、本来であれば
特に触れられる事はなかったが異世界転移の基本とも呼べ、元の世界へ持ち帰れたのならばそれだけで十分に無双出来るある意味チートスキル、この世界では『言語理解』と言う名称のスキルだ。
そしてこの『言語理解』レベル制のスキルではない、なのでこのスキルが生えた瞬間に言葉の壁をいとも簡単に打ち破る。
しかし例に漏れずと言うか、魔物や動物だって独自の言語を有しているはずなのに『言語理解』のスキルではそれらと会話する事は出来ない。
単に『言語理解』という名称にも関わらず言葉が通じるのは人種だけなのである。
そう『言語理解』ついて思いを馳せているとふと疑問が湧く
(精霊って『言語理解』の範疇なのだろうか。)
これが精霊では無く見た目のイメージ通りの妖精なのならば解釈などにもよるが人種と言える。
しかし目の前にいるのはどんなに一般的なイメージの妖精にしか見えなくても精霊である、人と同じ言語を使っている可能性もあるが、そもそも言葉を発しない可能性だってある。
会話が成立しなければ流石に本格的に詰みである。
「佑兄、お願いを聞いてくれれば精霊の涙を譲るのも吝かでは無い、そうですよ。」
色々と考え事をしてる間に交渉出来たらしい。
「まさかロシア語が通じたのか……?」
「何言ってんですかそんな訳ないですよ。
普通にこの世界の共通語でお話出来ました。」
冗談で言ったのに真面目に返されてしまう、レイとて本気でロシア語が通じたとは思ってはいない。
しかし闖入者である自分たちの話をまさか聞いてくれるとは思っていなかったので交換条件があるとは言え嬉しい誤算である。
「で、そのお願いとは?」
レイとしてはある程度の無茶振りをされたところでどうとでも出来るとは思っているが、何より先ずその願いがどんな物なのかを聞かない事には進まない。
どうとでも出来る自信はあるが、レイはナターシャの病気を治すのは勇者の為にあるイベントだと考えているので、その一環である精霊のお願いが職業の『勇者』や称号の『異世界の勇者』等が必須の可能性もある。
しかしレイならこのイベントをクリア出来るとルナに言われて此処まで来ているので勇者が必須だとしても何も問題は無い、のだがゲーマーとしてはバグを駆使して進むのだって嫌いでは無いが、やはり初回は正規の手順でクリアしたかった、と言うだけの事である。
「お願いというのは迷子の捜索みたいですね。
数日前に素材採取に出掛けた内の何人かが戻って来てないらしいです。」
「その数人が向かった方面に遺跡とかそれっぽいなんかあるみたいな事言われなかったか?」
「おー?なんで分かったんですか?
確かにそんな感じの物があるって言ってました。」
『森羅万象』等で常に周りの状況を把握してるルナならばその遺跡のような物に気付いている筈だが、レイの性格をよく理解しているルナは基本的にネタバレをしない。
基本的にはネタバレはしないが、もしもその先でレイやレイの大切な者が不愉快な目に遭ったり、危険や危害が及ぶような事があるとすればルナは注意を促すだろう。
レイが遺跡等の存在があると考えたのは今の状況をゲームや物語のイベントの様なものだと考えてるからである。
勿論ここは現実でありゲームや物語では無いが、レイは世界の或いは神の意志によりある程度の『流れ』が存在していると考えている。
それがレイの考える『ゲーム的、物語的イベント』から大きく外れてはいないだろうと言う仮説からその考えに至っている。
ただその自分の考えを覆す事になる一番の可能性を上げるなら、それら『ゲーム的、物語的イベント』を根本から破綻させかねない自分自身やニーナの様な所謂チートキャラの存在だ、というのはあまりにも皮肉だろう。
「うーん、このイベント俺とニーナの二人で進めちゃ駄目なやつだと思う。」
「それは此処に来るまでに話してくれた『この世界が勇者の成長物語』的な考えからですか?」
「正確には『物語の様な流れに沿った世界』だと仮説してるけど、まぁその考えからだな。」
「つまり佑兄は、人探しを頼まれてなんだかんだで遺跡へ、それで多分隠し扉或いは開かずの扉みたいのがあって、その先で何かしらの勇者に関係するイベントがあるって考えてるって事ですか。」
レイはやはりニーナは自分に似ているのだと感じる。
ニーナの語ったこの後起こるであろう流れ、はレイが考えてる流れとほぼ同じ物だった。
強いて言うならばニーナの考えにプラスでレイは所謂『イベント戦闘』が発生すると考えているという事だろうか。
しかしその戦闘どうせワンパンである。
「だから本当は『勇者』を連れて来た方がいいんだろうけど、人命がかかってるし始めたイベントだから一応は進めようとは思ってる。
せめてその遺跡のイベントがスルー出来るならスルーしたいんだけど、自分の仮説を信じるならスルー出来る様なものじゃなくて、そこまで行ったら『入る、入らない』じゃなくて『入らなきゃいけない』んだと思うんだよね……」
「取り敢えず行ってみましょうか、佑兄の言う通り人命が懸かってますし、それに百聞は一見に如かずですよ!……う?案ずるより産むが易し……?」
言わんとしている事は分かるが何方も違う、恐らく『論より証拠』や『見る事は信ずる事なり』を言いたかったのだろうか。
しかしこのロシア人日本の諺や格言が大好きである。
ニーナの言う通り行ってみない事には色々と進まないし、人命が懸かっているので無為に時間を過ごす訳にもいかない。
因みに行く前に自分も精霊と会話したいと考えたレイだが、結果から言えば無理だった。
一歩近付けば一歩後退りされ、まさかの近付く事すら出来無かったのである。
ただずっと興味深げに見られてはいたので嫌われてる訳では無い、と思いたいレイであった。
捜索に向かう際に、行動範囲はそんなに広くいので恐らくそこまで極端に遠くまでは行っていないはずだと(ニーナが)聞いたので、いなくなった精霊が向かった方向へ二人で歩いて向かっていた。
ニーナを背負って走っていた時は白黒で一刀に伏せていたが、今は黒天と白鴉が大活躍である。
視界内であれば何処でも開ける『異次元収納』と相まって、立ち止まる事無く出てきた獲物を撃ち抜き『異次元収納』で回収を繰り返す、正しく散歩気分であった。
「高難易度エリアの面目丸潰れですね……」
「ただでさえ『異次元収納』と中遠距離武器って相性良いのにその武器すら敵を一撃で屠れるチートだから
それと多分『血の盟約』でかなり強化されたみたいだからニーナも余裕で狩れるんじゃないかな?」
《竜種を片手間で倒せる、とはいきませんが、先程から出てきている程度の魔物ならニーナにとっても雑魚だと思いますよ。》
ルナの言葉に目を瞬く、元々は二ヶ月かけてCランクになって喜んでいたニーナである。
『血の盟約』以降一度も戦闘をしていないので何となく強くなっている感覚はあるものの、その実感は出来ていなかった。
「ルナ、簡易マップ表示、距離半径1キロ、敵性モブをマーキング」
そんなニーナを見てルナに指示を出す。
簡易マップは所謂ゲームでよく見る自分を中心として一定の範囲の地形とモンスターやキャラクターが表示される平面の地図の事である。
レイの指示によりルナは周囲1キロ圏内を表示した簡易マップを視界の半分程のサイズで表示、そして敵性モブつまりレイに襲いかかってくる様な魔物や動物にマーキングする。
その簡易マップとマーキングで出来る事、それは――
「『追跡の魔弾』フルバースト」
黒天と白鴉を上空に向けて何度も何度も引鉄を引く、放たれた魔力の弾が軌道を変え木々をすり抜け眼には見えない位置にいる敵を次々と撃ち抜き、その度に簡易マップからマーキングした敵の表示が消えていく
見た目こそリボルバーで、引鉄を引く度に弾倉が回転するものの込めるのは魔力或いは魔法であり、レイ自身の魔力が無くならない限り弾切れにならず撃ち続ける事が出来る。
時間にして一分足らず、簡易マップ上の周囲1キロ圏内の敵は全て消滅していた。
因みに『異次元収納』はレイの視界内なら何処でも開けると言ったが、『森羅万象』で見える範囲でも自由に開く事が出来る為ルナによって倒した的は全て回収済みである。
「終わったです?突然どうしたんですか佑兄」
実際の銃と比べればその銃撃音は大きくは無いのだが、流石に真横で聞くには小さい音とも言えず耳を塞いでいたニーナ
撃っていた当の本人は軽くキーンとしている程度、まさかの鼓膜まで化け物の男である。
「そんなに時間が掛かる訳じゃないけどこれからやる事を邪魔されたくなくてね。
ほら、専用武具創ってやるって約束してたろ、それを今やっちゃおうと思って」
「お?おおー!私の専用武器!早く早く!」
レイの提案に今にも踊り出しそうな程のハイテンションでレイの服を引っ張るニーナ、そんなニーナを抱き締めたい衝動に駆られるが自重して『魔装武具』を使用する為に少し離れてもらう。
自分の時は明確に刀をイメージして『魔装武具』を使用したが、今回はニーナの専用武具を創る為に明確な武器のイメージはあえて持たない。
その代わり目を瞑ってニーナへの気持ちを込め、出来るだけニーナの事を考え、頭の中をニーナで埋め、ただシンプルにニーナの為に全力の魔力を全力で凝縮させる。
凝縮し続けていると目を瞑っていても分かる程の眩い光が輝いた。
数秒程光り続けそして納まったのを確認して眼を開ける。
一番最初に飛び込んで来たのは手元にある筈の武器、では無く先程の光を直視してしまったのか眼を瞑ってしゃがみこんでぷるぷるしているニーナの姿だった。
その姿があまりにも可愛くて先程は自重した抱き締めるという行為を遠慮無くする。
勿論可愛いからただ抱き締める、という訳ではなく状態異常を治す能力『治療』で確りとニーナの目を治すのも忘れない。
実はこの『治療』でナターシャの病気を治す事も可能だったりする、それでもルナが何も言わず態々エリクサーの材料を取りに来ている理由はそれがイベントの流れだからである。
暫くニーナは撫でくりまわして満足の表情で離れる。
ニーナも顔を赤くしているが嫌だった訳では無いだろう。
そして気付いた、創った筈の武器が手元に無い事に
抱き締める時に落としたのかと周囲を見回した時にチラリと視界に謎の物体が映る、自分の肩の辺りに何か浮いている。
見た目は15センチ四方の真紅の立方体、それ以上でも以下でも無い本当にただそれだけの物体、よく観察して見るが蓋がある訳でもなく本当にただの立方体である。
浮いてる事からもしかして操作出来るのではと試してみる、分かった事は周囲5メートル程なら自由自在に動かす事が出来る、5メートル以上先へはそもそも飛ばせない。
そして最後に手に取ってみる、重さは恐らく50キロ前後、レイからすれば大した重さでは無いが、この程度の重さがあり自由自在に動かせるなら十分な凶器、鈍器となるだろう。
色々と試してみて、現実に目を向ける。
創った武器どこ行ったんだろうなぁ、なんて考えながらこの立方体で色々とやってた訳だが、間違い無くこの立方体がレイが『魔装武具』で創り出した武器である。
先程からこの立方体が視界に入る度にチラチラと自分では使用してない筈なのに鑑定結果がチラついている、ルナさんが早くしろと言っているのだろう。
と言う訳で『鑑定』を使用する。
《魔捧・魔女の接吻
『不壊』『自動修復』『魔力貯蔵』『魔力回収』『魔力増大』『魔力消費軽減』『魔法強化』『連続魔法』『並列魔法』『仲間保護』『拒絶』『生死』『魂魄』『零式』『所有共有』『召喚』》
前半はいい、いや、やっぱりチート武器だなとは思うがそれでも前半の能力はチート武器としては割とよく見る普通の能力である。
問題は後半、『アナタシリーズ』とでも呼べばいいのかルビも怖いが字も暗いイメージの物、そして問題は字を見てもルビを見ても効果が分からない。
《『拒絶』どんな被害も一度だけ必ず無効化する。
『生死』マスターの死を肩代わりする。
『魂魄』生命力、魔力をマスターへ送る。
『零式』マスターとの距離が近ければ近い程能力が上昇する。
『所有共有』マスターと『恋人』は使用出来る。
これらの能力は『恋人』固有の能力です。》
そこは我らがルナさん、マスターであるレイの疑問には即座に答えてくれる。
『血の盟約』は異性としか交わす事が出来ない、そして『恋人』とは『血の盟約』を交わした相手側、レイと交わった女性たちを指す言葉である。
「とりあえず言えるのは『恋人』固有能力怖すぎる……俺の為に死ぬ気満々なところが特に」
「え??佑兄の為に身を削るとか命懸けるとか当たり前じゃないですか?」
「え、なにそれこわい。」
ルナが言うにはこの『アナタシリーズ』は『恋人』固有能力
との事だが、この明らかな一方的な内容の能力を平然と受け入れられるのはニーナだけでは無いか、そう考え他の『恋人』であるクロ、シロ、梨衣の事を思い浮かべる。
(あ、考えたけど間違い無く梨衣以外は受け入れるわ。
その唯一受け入れなさそうな梨衣も一般的な真面な感性を持っているかと言われれば疑問だが……)
この能力を受け入れるとか入れないを考えなかったとしても、そもそも全員真面な感性の持ち主では無かった、という結論に至り流石のレイも遠い目をするしか無かった。
しかし今回ニーナの為にと創った武器である魔女の接吻、『恋人』固有能力が付いている事からルナは言及しなかったが恐らくレイが『魔装武具』で創り出せるのは『恋人』の武具だけである。
そうなると今回が最初で最後だと思っているので、あまり深く考える必要は無いだろう。
現在『恋人』である他の三人は戦闘要員では無く、今回ニーナと『血の盟約』を交わしたが別にレイとしても無闇矢鱈に『恋人』を作ろうとは考えていない。
ルナの声云々があったとしても『血の盟約』を交わすに至ったのはニーナの事をちゃんと好きだったからで、そうでなければルナに言われたのだとしても『血の盟約』を交わしてはいない。
ルナは基本的にまるで未来を見ている様な発言をするので、『血の盟約』という単語を出した時点でレイとニーナが結ばれるのを分かっていた可能性もあるが。
「まぁ……とにかくこの武器はニーナの物だ。
俺は手を出さないから次に遭遇した敵はニーナが相手してみろよ。」
魔女の接吻をニーナに渡し迷子の精霊を探す為に歩みを再開する。
とは言え相変わらず視界にナビが映っているのでその通りに進むだけだが。
本音を言えば時間に余裕があるならば自分の勘に従って色々とウロウロしたり探索したいところだ。