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4~冒険者ギルド~

「ところで俺身分を証明出来るもの何も持ってないけど街に入れる?」

「それはまぁお金を払えば……立て替えときます。」

 

 元の世界ではそれなりの稼ぎがあったが、この世界では無一文のレイは女子高生に借金をするのだった。

 

「という訳で、ここが私たちが拠点にしてるブレンです。」

 

 街並みはよくある中世ヨーロッパ風の作りで、街を分断するように東西南北に馬車が通るための二車線程の大きな道があった。

 レイたちが入ったのは東門で、この付近に冒険者ギルドや商業施設等が密集しているらしい。

 この街を治める貴族は言ってしまえば腰の低い人物で、その屋敷は一応高級住宅地と呼べる区画にあるがその真ん中、では無く街をぐるりと囲む防壁の傍にあった。

 防壁の高さは10メートル以上あり、その貴族の邸宅は日中の半分程は日が当たらない。

 このブレンの街は王都から数えて四番目の規模を誇り、位置関係的には王都と隣国の関所の間にあり、商業や交通の要衝となっている。

 とはいえ現在は王都が人の住める場所では無くなっている為、全盛期に比べれば人の出入りは少なくなっていた。

 

「とりあえず冒険者ギルドに行こう、女子高生に借金してるのは精神的によろしくない。」

「さらば私の最速記録……」

 

 アンとリーチェの案内で冒険者ギルドへと向かう。

 ニーナはレイの背中にくっ付いて嘘泣きしている。

 冒険者ギルド関係のテンプレを期待して入るものの時間で言えば午後三時を過ぎたあたり、そもそもこんな時間にいる冒険者は少なかった。

 

「因みに私は見事にテンプレに遭遇しました!」

 

 レイの背中にくっ付いたまま自慢げに言うニーナにはデコピンを食らわせる。

 

「登録をしたいんだが。」

「畏まりました。代筆は必要ですか?」

「いや、大丈夫」

 

 渡された紙、製紙技術が確立されているのか地球程ではないが綺麗な白い紙だった。

 そこには名前、職業、そしてレベルとスキルを書く欄があった。

 

「レベルとスキル……ステータスステータス」

 

 ステータスウィンドウを開いて確認する。

 レベルの欄は『???』となっていて、スキルはほぼ統合され明らかに全てがユニーク級、職業も武神とか大魔道士とか統合スキルと同じ名前が並んでいる。

 そもそも職業は一つでないのかと言いたいが。

 

「ニーナ今レベルいくつ?」

 

 いまだに背中にくっ付いてるニーナに聞くが返事が無い。

 どうしたのかと振り向くと白目を向いていた。

 どうやら先程のデコピンがかなり効いたらしい。

 

「あー、アンとリーチェってレベルいくつだ?」

「ん?私は36でリーチェは32だけど、それがどうした?」

「なんでもないよありがとう。」

 

 改めてステータスウィンドウを見る。

 スキル欄に書き込むものは既に決めているので職業もボロが出ないようにこの中から選ぼうとしてるのだが、如何せん明らかにやばそうなものばかり

 その中の一つに目が止まる。

 

「はい、書けましたお願いします。」

 

 書き終えて受付嬢へと渡す。

 その紙を見て少し驚いた表情をしたけど何も言わないのは流石にプロである。

 渡した用紙を持ってササッとギルドカードを作り戻って来た。

 

「では、ギルドカードに一滴でいいので血を垂らしてください。」

 

 これに関してはテンプレ通りのロストテクノロジーやらオーバーテクノロジーの産物なのだろう。

 受付にはこの登録の際の血を垂らす為に針が置いてある。

 その針に軽く指を押し当て、ギルドカードに血を垂らした。

 

「はい、これで登録は完了しました。ギルドについての説明は必要ですか?」

「冒険者の先輩が身近にいるんで大丈夫です。」

「分かりました、依頼を受ける際はあそこの掲示板に貼られた依頼書を剥がしてギルドカードと一緒に提出してください。」

 

 無事登録が完了し、ギルドカードを見る。

 ギルドカードに記載された情報は今のランクであるH、名前(ユウ)、仮に50としたレベル、自分の職業欄にはあったがそもそも他に銃があるのかも分からないがガンナーなんて職業、そして唯一『導キシ者』をスキルとした、となっている。

 これを見て何も言わない受付嬢さんマジでプロである。

 若干引き攣った顔をしていたが。

 討伐依頼に関してはギルドカードに自動で記入されるのでよくある討伐証明などを提出する必要は無いが、冒険者の稼ぎの殆どは獲物を狩ってそれをギルドに売って稼ぐというのはどの(創作物の)世界でも変わらない。

 名前、レベル、職業、スキルは自己申告制で、例えばレベルはパーティー、野良パーティーを組む時に自分を売り込む時に指標としてもらえる。

 自己申告制なので嘘も書ける訳だが見栄を張って高いレベルを書いたとしてもあっさり死ぬか嘘がバレて真面な活動が出来なくなるので基本的には自分のステータスそのままにちゃんと記載する。

 ランクは下からH、G、F、E、D、C、B、A、S、SSの全十段階だがSSランクはこの世界全体でたった九人しかいない。

 ランクアップは基本的にはコツコツ上げていくしかないが、希に大業を成すと一気に上がる事もあるとか。

 冒険者の活動サイクルとしては朝イチに貼り出される依頼から自分に合った、或いは自分のやりたい依頼を選んで受付をしてギルドを出て行く

 なので遅くとも昼前にはうまみのある依頼はあらかた無くなってしまい、この時間あるのはその残されたもの、ようは売れ残りである。

 しかしレイのランクは最下位のHである、Hの依頼なら残っているだろうと考えて掲示板に目を通す。

 

「薬草採取とか木の実集めとか、後はこの世界の住人からしても雑魚魔物狩りか、Hランクだとやっぱこの程度か。」

《マスター、受けられる数に限りは無いので出来そうなもの全て受けてはどうでしょうか、期日が決まっていたりと失敗すれば報酬の三割の違約金を払わなければいけませんが、マスターならば何も問題も無く終えられるはずですので》

「となると街の外と中の依頼があるから今は外の依頼全部受けるか。」

 

 ルナとの話し合いの結果受けられる物は全部受けると決め街の外で達成出来るHランクの依頼を全て剥がす。

 ざっと三十枚程もある束を受付嬢に渡すと受注数に限りは無いものの流石に待ったをかけられる。

 

「あのですね……」

「佑兄なら大丈夫ですよニアさん!」

「え?いや、ニーナちゃんが言うなら信用しますが、これ即日の依頼も何枚か有りますよ?」

「即日ってのは何時までに持ってくればいいの?」

「日が沈む頃鐘が鳴るのでそれまでです。」

 

 会話しながらニーナの援護もあり、なんだかんだ手続きをしてくれるニアと呼ばれるボーイッシュな紫の髪で身長はニーナより少し低め、恐らく150半ばぐらいの受付嬢

 日が沈む頃となると恐らく三時間近くある筈である。

 

「んー、間に合うとは思うけど出来るだけ急ぐか。」

《マスターは『現象地図』と言いましが、現在はそれよりも更にパワーアップして『森羅万象(エンタイアビュー)』というスキルになっています。

 ですので依頼のモノを見付けるのは簡単ですよ。》

 

 本当に頼もしい、最高の相棒を手に入れたと感じる。

 

《時間に限りがあるのでルートもマスター様に最高効率化します。》

 

 まるでARの様に視界にルートが表示される。

 流石に依頼で出る以上街は正規の手続きで出る必要がある為屋根を伝ったりの非常識さはあるが門までの人を気にする必要の無い最短ルートになっている。

 

「行ってらっしゃい佑兄」

 

 ギルドを飛び出し先ずは目の前の家の屋根に上がる。

 この程度の高さなら王都でも散々跳んだ、一足飛びで屋根に伸び乗ると表示されたルートに従って、最初入ってきたのとは真逆、西門に二分程で到着する。

 手続きをして街を出る、最初のターゲットは西門から程近くにある森、普通に歩けば一時間はかかる距離、街中程気を使わなくて済むのでこの距離は約五分で走破

 この森で達成出来る七つの採取依頼を十五分程度でクリア、途中で出てきたゴブリンやフォレストウルフと呼ばれる森に住む緑っぽい毛並の狼等の雑魚も片手間に狩りながら、『異次元収納』があるので荷物になる事は無い為出てきた魔物は片っ端から狩っていく

 次に向かうのはこの森からブレンの街の北門に向かう途中にある草原、ここでは初心者でも狩れる魔物の討伐依頼が三つあったので移動しながらそれらを完了する。

 その次が少し北門寄りにある先程の森より少し小さめの森、しかし最初の森よりも小さいながらもなんと十三もの依頼が達成出来る。

 数が少し多かったので二十五分近くかかったがここも問題無くクリア、勿論魔物もそれなりに狩っている。

 次に向かうは東門の方にある森、途中の荒地では四種の魔物、その先の草原で二種の魔物の討伐があるのでそれも移動しながらサクッと

 最後のこの東門寄りの森ではたった二つの依頼、だがこの最後の依頼がちょっと大変という事で念の為に最後に回してくれていた、ルナさんが。

 というのも希少な薬草で森中駆け回ってギリギリ足りるかなぐらいの数しかないらしい、ルナにかかれば見付けるのは簡単だが数が足りなければ依頼達成にはならない、稀少故依頼期間はそれなりに長いので今日揃わなかったらまた後日別の場所にいけばいいとの判断だ。

 今日のところは時間が無いから出来るだけ近場で揃えようとしただけの話である。

 結果を言えば無事集まった。

 しかしレイからすれば誤差だが、ルナ曰く明らかにここにいるはずのない強い魔物がいたらしい、どれだろ。

 兎にも角にも無事受けた依頼は達成する事が出来た。

 後は戻るだけ、と帰ろうとしたレイに殺気が向けられる。

 

「ルナ、あれなに?」

《オークキングですね、マスターからすれば雑魚です。

 しかし王種は予想外でした。

 探索範囲を拡げます……オーク種の集落を発見しました。

 放って置いたら街へと向かう可能性があります。

 如何致しますか?》

「分かってて聞いてるでしょ……勿論皆殺し確定」

 

 取り敢えず、とばかりに目の前のオークキングの首を『異次元収納』に仕舞ってあった白黒を『召喚』して即座に刎ねる。

 『異次元収納』に仕舞ったまま『召喚』出来るのでとても便利である。

 首を刎ねたオークキングの死体を『異次元収納』に仕舞い、ルナのナビでオークの集落へと向かう。

 

「オークってどういう魔物?

 俺の知識通りでおっけ?」

《はい、差異はありますが基本的にはマスターの知識の中のオークと同程度の物です。

 ランクDの魔物でその肉はそれなりの高級品なので残さず綺麗に狩りましょうマスター》

 

 元々ルナが設定していた探索範囲の外にあった集落なので到着するのに二十分もかかってしまう。

 しかしランクDの魔物とてレイにとってはランクHの魔物と誤差程度の雑魚でしかない。

 蹂躙劇である、基本的には白黒で一体一体首を刎ね、距離があり逃げられそうな時は黒天、白鴉の魔力弾で極力最低限の傷で倒す様心がける。

 ブレンの街の四分の一程の大きい集落であったが移動時間よりも短い、十五分程度で殲滅が完了した。

 ルナの助言により何とか家の体を守ってる程度の家々を一軒一軒確認する。

 幸いな事に何も無かった。

 確認作業を終えると次は家の解体である。

 とは言えそれも黒天、白鴉に魔力を込めて引鉄を引くだけの簡単な作業ではある。

 大量のオークは大収穫ではあったが、レイにとっての一番の収穫は今回の蹂躙劇で黒天、白鴉もそれなりに使用していた為、込める魔力の調整がある程度上手く出来るようたなった事だろう。

 

「それじゃ帰ろうかルナ」

《そうですね、念の為もう少しだけ探索範囲を拡げて見ましたがこれ以外の脅威は確認出来ませんでした。

 大手を振って帰りましょう。

 ですが少々時間が押してしまったので帰りも急いだ方がいいですよ。》

 

 確かに予定外の時間を食ってしまい、三時間近くと見積もっていたが徐々に日が傾き始めていた。

 来た時より少し速度を上げて街へと帰るのだった。

 

「ただいまニーナ、いい子にしてたか?」

「佑兄子供扱いしないでください、ちゃんと終わったんですか?

 私が口添えしたんで終わらなかったなんて言ったらパンチですよパンチ」

「終わった終わった、でも予定外に多くの獲物が取れちゃってそのままギルドに引き渡していいのか若干の不安はある。」

 

 不安があるとは言ってもこのままぐだぐだして時間切れになったら元も子も無い。

 諦めて受付、ニアの所が空いていたのでそこでギルドカードを提出する。

 

「おかえりなさい、即日依頼の物だけでも確保して頂けましたか?」

 

 どうやらニアは受けた依頼全てを終わらせたとは思っていないらしい。

 それも当然と言えば当然であり、全ての依頼をこなそうとすればその移動時間だけで鐘が鳴る前には帰って来れないのだから、普通は

 ギルドカードを渡したのでルナと確認しながらいそいそと『異次元収納』から依頼の品を取り出す。

 しかし薬草とかだけならまだしも依頼にあった魔物をそのまま取り出すので直ぐに置けなくなってしまう。

 

「ニアさん、もういっぱいいっぱいなんだけどどうすればいい?」

「は……い?」

 

 討伐依頼の証明にはギルドカードの確認が必須の為レイに背を向け、受付の後ろにあるギルドカードの情報を読み取って討伐の確認をするための道具を操作していたのだが、レイに声をかけられ振り返る。

 そこには明らかにさっき出かけて取ってきたとは思えない量の素材、この道のプロで基本的に感情を表に出さないように心がけているニアだったが、流石にその光景には唖然とするしか無かった。

 植物系の採取依頼であれば事前に取ってきていて、後から依頼に受けてそのまま報告するもいう形を取る者も多い、それは植物程度なら道すがら取れるからだ。

 だが魔物の討伐に関してはギルドカードに記録される、つまりいつ狩ったかの明確な証明が出来ないので依頼を受けてから討伐しに行くしかない、それでも堂々とこの場で魔物素材を取り出すという事は狩って来たという事なのだろう。

 だから次々取り出される魔物に目を見開いてしまった。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!ギルドに隣接してる解体倉庫があるのでそちらまで来てください。」

 

 ちょっと面倒臭いと思ったが確かに自分が狩った魔物全てをここで出せるとは思えない、と言うか確実に全ては出せない、なので素直にニアに着いていく

 出した素材は再び『異次元収納』へとしまう、取り出した時は確認しながらだったので一つ一つ取り出したが、仕舞うのは一瞬で出来る。

 

「やっぱり私の記録は一瞬で抜かされる運命なんですね……」

 

 当たり前の様にニーナがレイの後に着いて来てぶつぶつと何か言っていたがそれを気にするでも無くニアの後を追った。

 

「それではここに魔物素材を全て出してください。」

「え?全部?本当に全部出していいんですか?」

「?はい、勿論構いません。」

 

 ここで『異次元収納』の本領を発揮する。

 『異次元収納』が他の、所謂アイテムボックス系の能力や魔法と違う点は何処でも、何処にでも出し入れ可能で、その口も一つでは無く複数出せる点だった。

 

「じゃあ出しますよ。」

 

 天井付近で『異次元収納』を開く、そこから大量の魔物の死体、依頼で狩った魔物から集落を殲滅して大量に狩ったオークまで全てが一気に吐き出される。

 解体倉庫のサイズは高校の体育館程である。

 魔物を出せと言われた部分のスペースはその半分程、バレーコート程度のサイズがあった。

 それでも、一気に取り出した魔物は山となりそのほぼ全てのスペースを埋め尽くす。

 一応サイズの大きい順に取り出したので大量のオーク種の山の上にちょこんと小さな魔物がまばらに乗っている感じになった。

 

「全部です。」

「は?はああぁぁぁあぁ!なんですかコレは!」

「いやだって全部出せって」

「そりゃこんなものが出てくるとは思ってませんからね!」

「討伐記録確認してませんでした?」

「…………直ぐ戻ります。」

 

 ニアはダッシュでギルドへ戻って行く

 その間も今はそこまで忙しく無いのだろう、解体倉庫の人たち総出で一生懸命素材、主にオークを運んでくれていたが、数体運んだ程度では全く減った様には見えない。

 そんな解体作業員たちの様子を眺め、恐らく十分程が経過してニアが戻ってくる。

 思ったよりも戻って来るのが早かったので向こうも向こうで総出でやってくれたのかもしれない、空いてる時間でよかったと小学生並みの感想を思うレイである。

 

「ユウさん、オークジェネラルやオークコマンダー等のオークの上位種どころか最上位種で王種のオークキングなんて討伐記録があったんですが、しかもこの数を見る限りオークキングの集落を丸々壊滅させてきた様な量なんですが。」

「ああ、キングなら多分この山の真ん中の一番下だな。

 一番大きかったから一番最初に出した。」

「そういう事を言ってるのでは無く!オークキングの集落でしかもこの規模なんて普通ならいくつかの街のギルドの合同で、かつSランクを態々招集して大討伐が行われる規模ですよ!?」

「あー成る程、そりゃ十五分も掛かる訳だ。」

「じゅうご……はあ?!」

 

 ニアは有り得ないものを見るようにレイを見る。

 自分が登録受付したのだ、ほんの二時間程前に登録したのはまず間違いない。

 そしてこの討伐記録、信じられない事ではあったがギルドカードの討伐記録を偽る事は出来ない、だから言ってる事は正気を疑う様な内容のものだが、それが紛れも無い事実なのだと討伐記録が証明している。

 ニーナはそんな何がなにやらという状態のニアの肩をぽんぽんと叩いて佑兄は理不尽な存在ですからとか言っている。

 これは後で御仕置きかな、と思いながらニーナを見ているとある事を思い出す。

 

「ところでさ、オークキングと魔族ってどっちが強いの?」

「なんですか藪から棒に、魔族は最弱と言われる奴等でもAランク冒険者とほぼ同程度の力量があると言われています。

 オークキングはSランクの魔物なので一部の魔族よりは強いですよ。

 でも本当になんで突然魔族の話を?」

 

 見てもらった方が早いかと『異次元収納』から魔族、ソフィーヤの死体を取り出す。

 ソフィーヤの、と言うか魔族の死体を見たニアの悲鳴が解体倉庫中に轟いた。

 流石は全人類の敵である、とは言えここまでの反応をされるとは思っていなかったからひょいと取り出したのだが。

 

「おや佑兄、あの魔族の死体じゃないですか、結局殺したんですか?」

「人聞き悪い事を言うなよ、多分王都に撒かれた毒ガスってコイツの口封じの為だぞ」

 

 ニーナとそんな話をしていると復活したニアは慌ててギルドへ駆けて行く

 今度は先程とは違い一分足らずで戻って来た。

 その手には手配書、の様な物が握られており、そこに書かれているものと目の前の死体を何度も何度も確認していた。

 暫くして溜息を吐いて天を仰ぐニアさん。

 建物内なので見えるのは天井だが。

 

「ユウさん」

 

 視線は天に向けたままレイへと声を掛けてくる。

 

「四天王のソフィーヤですね。」

 

 そう言って手に持った手配書の様な物をレイに渡す。

 そこに書いてあるのは確かにソフィーヤであった。

 レイからしたらこの程度で四天王とかちゃんちゃらおかしいとすら思えたが、普通のこの世界の人間からしたら強者であるらしく、そこには白金貨十枚と書かれていた。

 本当に手配書だったらしい。

 因みにだがこの世界では『銅貨』『青銅貨』『銀貨』『金貨』『白金貨』の五種が全ての国で共通して使える貨幣として存在し、全てが日本の五百円玉と同程度の規格で統一されている。

 貨幣の価値は百ずつ上がっていく、つまり銅貨百枚=青銅貨一枚である。

 貨幣そのものの価値が下位の百倍では無いが、仮にも万国共通貨幣なのでその差額分はつまり各国の信頼である。

 はるか昔は国毎に貨幣があり、貨幣の価値=物の価値だった為、高価な貨幣はそれだけで大荷物だったらしい。

 現在のこの世界で万国共通貨幣の使用、貨幣の規格の統一化がされる様になったのは冒険者や商人などの国から国へ渡り歩く人が増加した為とも言われている。

 しかし今でも万国共通貨幣以外にも自国でのみ使える独自の貨幣を作っている国もあるらしい。

 閑話休題

 

「四天王……佑兄ワンパンしてたよね?」

「パンチじゃない、キックだ。

 多分『奴は四天王の中でも最弱』とか言う立ち位置なんだろ。」

 

 レイとニーナがいつも通りのそんなやり取りをしている中、ニアはその場からそっと立ち去って行った。

 面倒事の気配を感じたものの、自分が不愉快に感じる物では無ければ何でも来いのレイはチラリとその姿を認識しつつも特に声を掛けたりはしなかった。

 それから数分後、『日本対ロシア世紀の大あっち向いてホイ大会』とかいう阿呆な事をニーナと二人で敢行しているとニアが戻ってくる、多分ギルドマスターだろうと思われる人物を連れて

 多分、と言うのはニアが連れてきたのが女性だったから、という訳では無い。

 別に女性のギルドマスターが珍しいとは言わないが、目の前の女性の見た目はあまりに病的で冒険者たちを束ねられる様には見えなかった。

 因みにあっち向いてホイ大会はレイが完全勝利した。

 

「初めまして、私はブレン冒険者ギルドのギルドマスターを務めさせていただいてるナターシャと申します。

 あなたがオークキングの集落を壊滅させ魔族の四天王の一人を討伐してくださったユウさんですね。」

 

 喋り方もどこか弱々しい。

 自らギルドマスターと名乗ったナターシャだがやはりレイのイメージするギルドマスターからは遠くかけ離れた存在だった。

 とりあえず挨拶をと立ち上がろうとした時ルナからある報告をされる。

 

《目の前の方もって数日、もしかしたら明日にでも亡くなってしまうかもしれません。》

 

 危うく声が出そうになったのを抑え脳内でルナと会話をする。

 

《ちょっと待って、それマジ?》

《私がマスターに嘘を吐く事はありません。

『回復魔法』による一時的延命も出来ますが、それでも間違い無く一ヶ月以内でしょう。》

 

 目の前のギルドマスターナターシャを観察する。

 確かに病的だとは感じたがそれでも今日明日でどうにかなってしまう様には見えない。

 だがルナがレイに嘘を言う必要も無ければ、そもそもただ死を待つ存在の為だけにルナが報告してくる訳は無い。

 それでも報告した理由

 

《治す方法があるのか。》

《はい、ただどうするのかはマスターの自由です。

 私は目の前に亡くなりそうな方がいて、マスターなら何とか出来ると思ったので報告したまでです。》

 

 流石はルナ、レイの事をよく分かっていた。

 状況次第ではあまり褒められたものでは無いが、こういったギリギリを楽しむ癖がレイにはあった。

 ナターシャからすれば風前の灯火の自分の命を賭けて楽しんで欲しくは無いだろうが、流石にナターシャ本人にレイの心情を伝えるような事はしない。

 流石にレイだって何も対処法が無く、本当にただ死を待つだけの存在が目の前にいるならば今の様に楽しむ、なんて気持ちにはなっていない。

 しかしルナが言うのだ、目の前に死にかけた人間がいて、それをレイならば、レイだから救う事が出来るのだと

 

《延命込みで?それとも今すぐ動けば問題無い?》

《今すぐ動けば延命の必要はありません。》

《えと……ニーナ連れてっても平気か?》

《ハンデにもなりませんよマスター》

 

 ニヤリと笑う。

 それならばニーナと遠足気分で人命をサクッと救ってやろうと

 

「ニーナ!」

「はい!」

 

 突如呼ばれまるで軍人の如く勢いよく返事をするニーナ

 

「人の命救いに行くぞ」

「はい?」

「いいからほら合体」

「はい。」

 

 言われるままにレイの背中にくっ付く、つまり背負われる。

 そんな二人の様子に何がなんなのか分からないニアとナターシャ、実はニーナもよく分かってないのだが。

 出る直前にレイはナターシャを見、目が合う。

 そして救う、とだけ言って解体倉庫を飛び出した。

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