3~導キシ者~
「しかしほんと自分のステータスながら多過ぎて見るのも嫌になるな……せめてもう少し見易くならないものか。」
《畏まりました。》
「ふぁ?」
突如として頭の中に声が響く、この場には自分以外には気を失っているソフィーヤしかいない。
ソフィーヤの声は知らないがどう見ても気を失っているソフィーヤが声を発する訳が無い。
そもそもとしてレイにはこの声に聞き覚えがあった。
それはソフィーヤを追っている時、その時に今聞こえた声が頭の中で響き、その内容は――
《統合スキル『現象地図』が発現しました。それに伴い単体スキル『探査』『生命探知』『魔力探知』『地図』が消失しました。》
――だった。
その時はこの世界のシステムで、何かある度にこの声が聞こえるのだろうと思って特に気にも止めなかったが、自分の呟きに反応して受け答えたのなら、と確信する。
様々な創作物でも大活躍する所謂サポートAI的スキルだと。
考えている間にも頭の中に声が響き続け、どんどんとスキルが統合されステータスウィンドウが見易くなっていく
暫くすると声が止み、ステータスウィンドウ上のスキルは何百、もしかしたら何千もあったが今では数えられる程、それでも数十はあるが、それでも最初よりはかなりスッキリとしていた。
ステータスウィンドウのスキルに目を通しその中の一つ、恐らくこの声の原因であろうスキルに意識を向ける。
元々は違う名前のスキルかもしれないが、今あるスキルの名前は『導キシ者』だった。
もはやスキルが称号の様な名称になってるのはこの際置いておくとして、『導キシ者』に声をかける。
「えーと、お前は『導キシ者』で間違いないかな?」
《その通りです主人黒咲佑様、元は『支援』というスキルに属する疑似人格であり、機械的な受け答えをする事しか出来ませんでした。
しかし様々なスキルを統合した結果流暢な受け答えが出来、主人黒咲佑様と会話をする事も可能となりました。》
「自分が属するスキルですら問答無用で統合するんだな……それと俺の事はマスターとでも呼んでくれ……ルナ」
《畏まりましたマスター……あの、ルナとはなんですか?》
「ああ、そこまで人と変わらないやり取りが出来るなら名前ぐらい必要だろ、安直だと思うけどペルソナから取ってルナだ。」
暇潰しにスキルを確認しようとしてたレイだったが、思わぬ結果となりステータスウィンドウを消して『導キシ者』ルナとの会話に勤しもうと決める。
元々スキルの確認も暇潰し程度に考えていたし、話し相手がいるなら、最低でも元の世界で出来ていた事は出来ているのだから今確認する必要も無いだろうと思っての事だった。
若干怖いと思ったのはこの世界で発生したスキルなのにレイの世界の知識も持っていた事だが、それは些細な事だと判断した。
それから色々話した、と言っても流石この世界で生まれたスキルであり、レイが知らないこの世界の事をよく知っていて、まるで先生の様に懇切丁寧に教えてくれた。
自分の頭の中の声と会話する。
傍から見たら完全にやばい奴だがここには誰もいない、何も気にする事無くルナと会話が出来た。
色々教えてもらったその締めに、頭の中で言葉を思い浮かべれば会話出来るという事を教えてくれたのは本当に人間みたいだなと感心する。
どれ程の時間が経ったろう。
レイになってから燃費が良くなり僅かな食事や休眠でも長期間活動出来る様になっているのに僅かな空腹を感じ始めた。
相変わらずソフィーヤは起きないが既に牢に入れられてからそれなりの時間が、自分の感覚で言えば最低でも二日か三日は経っているのは間違い無い。
『異次元収納』から食物を取り出して食べる。
そこで漸く外に意識を向けた。
(おかしい、普通なら牢に人が入ってれば飯ぐらい持ってくるだろ。
最低でもカテリーナは俺がここにいる事は分かっている筈だ。)
そして思い出した様に『異次元収納』からスマホを取り出す、この世界の時間が元の世界と比べてどうなっているのかは分からないが、最低限指標になるだろうとスマホの時計を見ると大阪へ行った日から既に一週間が経過していた。
ルナのほぼ全ての知識を自分の脳にも記憶したのだからそれぐらい経っていても不思議では無いか、という思いと共に尚更異常だと感じる。
鉄柵に近付き階段の方を見ると、来た時にはいたはずの見張りがいなくなっていた。
「見張りがいない、どうなってんだ……?」
ソフィーヤを見る、一週間も目が覚めないのは流石におかしいと思い呼吸を確認する、していなかった。
「あー、もうなんなんだよ。
死ぬ程の怪我は負わせてねえぞ、とりあえず『異次元収納』にしまうか。」
ソフィーヤを『異次元収納』に仕舞い終えるとルナから報告が入る。
《マスター、確認したところ地上に人間の姿は確認出来ませんでした。》
どうやら『導キシ者』に『現象地図』も統合されているらしく、地上の様子を確認したルナが教えてくれる。
レイの脳裏にニーナ、そしてカテリーナの顔が浮かぶ、礼と円に関しては殆ど関わってないので正直真面に顔すら思い出せない(瞬間記憶能力者)。
自分がいれば国を、とまでは言わないが、最低でもニーナやカテリーナ、ついでに礼と円ぐらいは守れたのではないかと後悔が浮かぶ。
「とりあえず出るぞ、ルナはそのまま『現象地図』を確認していてくれ」
《畏まりました。反応があれば都度お伝えします。》
ルナからある程度使えるスキルの説明は受けている。
使うスキルは『魔装武具』魔力を凝縮してオリジナルの武具を創り出すスキル
生み出すは刀、壊れず全てを切り裂く刀
イメージを固めてそのイメージ通りに魔力を流し凝縮する。
数秒後現れたのは純白の柄に漆黒の刀身を持つ直刀、それを構え、目の前の牢を細切れにする。
自分が全力で振るっても壊れない所か鉄を切って刃毀れ一つ無い。
牢を出る前にその刀を試しに『鑑定』してみる。
《神刀・白黒
『不壊』『自動修復』『武具破壊』『魔力切断』『魔力貯蔵』『魔力回収』『仲間保護』『所有者固定』『召喚』『変形』》
『鑑定』も『導キシ者』に統合されているのか、視界に結果が現れてはいるが、その鑑定結果をルナが読み上げてくれる。
「他のは名称から分かるんだけど『変形』ってなんだ?」
《試してみて下さい。》
ルナに言われよく分からないままに試す。
どうなるのか分からないのでただ『変形』とだけ念じる。
途端白黒が光、その光が収まると白黒が消え変わりに手元には二丁のリボルバーが存在した。
意味が分からん、それが率直な感想だった。
白黒同様に『鑑定』してみる。
《弍丁神銃・黒天白鴉
共通『不壊』『自動修復』『武具破壊』『魔法破壊』『魔力弾装』『魔法弾装』『魔力貯蔵』『魔力回収』『仲間保護』『所有者固定』『召喚』『変形』
黒天専用『白鴉』
白鴉専用『黒天』》
突っ込む気力も失せるレベルのチート武器である。
「えーと、まぁ大体分かる。
『変形』は流石に白黒に戻るんだろうし、『魔力弾装』と『魔法弾装』は魔力そのものを弾にするか、魔法を弾として撃つかって事だろ……この専用の二つは分からん、お互いの名前ってだけは分かるけど」
《二つを手に持っている時に様々な能力が上昇するものです。
マスターに分かり易く言うならセット効果、と言った所でしょうか。》
全くもって頼もしい疑似人格である。
武器の確認も終わり今度こそ牢を後にする。
牢を出、もう一枚鉄柵の扉があった事を思い出し『変形』と念じて白黒を手にして最初の牢同様に細切れにし階段を駆け上がる。
窓から差し込む光に目を細める、太陽の位置からしてどうやら昼を僅かに過ぎた程度の時間のようだった。
廊下を慎重に進む、ルナの言った通り確かに人間の気配は感じなかったが、とは言え別に死体が至る所に転がっている、という事もなかった。
死体が無いという事は僅かながら希望が見えてくる、ニーナたちが生きている可能性が見えてきた。
《マスター、街の出入口の一箇所に十一人の人間がいます。
ナビゲートします。》
ルナの指示に従って人がいるという街の入口へと向かう、周りに誰がいる訳でもないので建物を壊さないギリギリの速度で走り、城を抜け街に出てからは念の為に屋根を伝って向かった。
《争っているようですね。》
出来るだけ近付きそっと覗き込むと、ルナの言う通り争っている様子が伺えた。
数は三対八のようだったが、優勢なのは三人の方だった。
その姿に気付き、声を上げる。
「ニーナ!」
間違える筈もない、やけに自分に懐いてくれていた三つ編みにこの世界では珍しい気泡一つ無い地球産の眼鏡をかけた図書委員とでも渾名されそうなロシア人の少女、ニーナだった。
という事は後の二人は礼と円なのかと思ったが明らかに髪の色が違うし、そもそも残りの二人も女性なので礼ではないのは間違い無い。
「おー!佑兄!無事だったんですね!」
佑兄、たったの一週間だがもはや懐かしくも感じる響き、間違いなくニーナである。
それを確認すると屋根から飛び降りニーナの近くへと着地する。
ニーナと共にいるのは恐らくニーナより年上、20前後の赤髪の筋肉質の女性と、黄緑色の髪の杖を持った女性だった。
「無事だったのかはこっちの台詞だ。
大人しく牢に捕まっててやりゃいつの間にか城や街からごっそり人はいなくなるわ、一緒に入ってた奴は気付いたら死んでるわ。」
「よく分からないけど波瀾万丈ですね佑兄」
相変わらずのノリにほっとする。
「なんだてめぇは、こいつらの仲間か。」
「ニーナちゃん、この方たちは?」
「んーと、盗賊?」
確かに見た目は盗賊然としている。
「おいゴラァ無視してんじゃねぇぞ!」
喧しいと思いながらも折角だから創った武器をニーナにお披露目しようとして、手元に無い事に気付いた。
ニーナを見て慌てて出てきたせいで屋根の上に置きっぱなしにしてしまったらしい。
「ニーナ、んでそこのお二人さんもちょいと下がっててくれる?」
だが問題無い。
「おいアンタ、いくら相手が雑魚だといっても流石に八人相手はキツいんじゃねぇか?」
「そうですよ、私たちも手伝います。」
赤髪と黄緑色髪が何か言ってくるがニーナはレイの実力を理解している。
なので二人の手を取って素直に下がってくれた。
その二人になんか言われてるようだがどうせ一瞬で片付く、それも問題無い。
「『召喚』」
屋根に置き忘れた白黒が手元に現れる。
白黒を見てニーナが興奮していた。
もっと興奮させてやるから待ってろよと言わんばかりにニーナの方に一瞬向いてニヤリと笑う。
「『変形』」
手元の白黒が二丁のリボルバー、黒天と白鴉に変わる。
ニーナの興奮度が増したのが見ないでも分かる。
使うのは片方だけでいい。
「バースト」
右手に持つ黒天の引鉄を引く
レイからしたら僅かだが黄緑色の髪の女、彼女は魔法使いであり『魔力視』という普通は目に見えない魔力を見る事が出来るスキルを持っており、黒天に込められた魔力に目を見開く
この世界の魔法使いから見た溢れんばかりの魔力が込められた一撃、八人の人間を呑み込むには十分なサイズに膨れ上がり、銃弾としては少し遅い速度で盗賊らしき連中へと向かう、銃弾としては遅いとはいえこの程度の相手を逃がす速度では無い。
魔力の弾は彼方まで飛んで行き、先に見える木々を薙ぎ払って山にぶつかり大爆発を起こす。
ここから見えるだけでも明らかに山を削っている。
自分からしたらほんの少しのつもりだったが込めすぎたらしく、それを見たレイは流石に反省する。
とは言え別に後悔はしていない。
勿論目の前にいた連中の姿は何処にも、いや、全員分の足首だけその場に残っていた。
「佑兄!佑兄!なんですかそれ!めっちゃくちゃかっこいいじゃないですか!鬼に金棒じゃないですか!」
目の前に十六の足首が転がっているというのにこの反応である。
「残念ながらこれは俺にしか使えない。」
《確かに白黒及び黒天白鴉はマスターの専用武器ですが、マスターの『魔装武具』でニーナの武具なら創れます。》
「え、ほんと?」
「佑兄誰と喋ってるんです?」
「スキルから生まれた疑似人格、おーけー?」
「おー!おー!なんですかそれ!私も欲しいです!」
「多分ユニークスキルだからニーナには無理かな。」
「ぶーぶー」
「変わりに専用武具を創ってしんぜよう。」
「ほんとですか!早く早く!」
最近は常に周りに誰かがいた事もあり、一週間ルナと会話していたが、それでもニーナと話していると何だか泣きたくなる衝動を抱える。
それでも笑って話せるのはニーナだから、だろう。
ニーナと話していてすっかり忘れていたがニーナの連れの二人に目を向けると唖然としていた。
山を削ったのはレイ自身にとっても予定外の事ではあったが。
「おっと、そういえば紹介を忘れてましたね、うっかり八兵衛です。
この人は佑兄、魔族を片手間にぶち殺せる人です。
それでこの二人は戦士のアンさん、魔法使いのリーチェさんです。」
「よろしく、でだ、俺が牢に閉じ込められてたこの一週間に何があったのか教えてくれ」
黒天、白鴉を白黒に戻し『異次元収納』にしまいながら言う、すると一週間という言葉に反応するニーナ
「何言ってるんですか佑兄、佑兄がいなくなってからもう二ヶ月経ってるんですよ?」
頭大丈夫ですか、とでも言いたげな視線を向けてくるが気にしない、訳にもいかず二ヶ月と言われ流石のレイも頭が混乱する。
そこで思い出す、自分が確認したのは『異次元収納』から取り出したスマホの時計で『異次元収納』は時が流れないようにしてある。
それなのに一週間進んでいたのは謎だが、元の世界の物なのだからこの世界の環境諸々により何かの誤作動を起こした可能性も十分考えられる事だった。
燃費の良さも考えものだな、なんて呑気に考えていたが、しかし二ヶ月の時を考えればいつの間にかソフィーヤが亡くなってたのもまぁ納得がいく
「もう大丈夫だとは言われてますけど、念の為この街から離れましょう。」
「あー、何があったのか聞いていい?」
「そうですね、この二ヶ月何があったのか歩きながら教えてあげます。」
レイの方は二ヶ月牢屋にいただけなのだから特に話す事もなく、ずっと牢にいたとだけ言ったらかなり驚かれた。
理由、はニーナの説明で分かるとの事でニーナの話を一方的に聞く立場になった。
レイが牢にいた事はカテリーナからも聞いておらず、再会して初めて知った。
ニーナの視点でいえばレイの失踪から五日後一人の魔族がやってきて先程までいた王都シャンデラに毒ガスを撒いた。
王族であるカテリーナは即座に逃がされ、ニーナがカテリーナと再会したのはかなり最近の話で一週間前、そこでもレイについて話される事は無かったが恐らく死んだと思われていたから、とにかく毒ガスを撒かれた王都だったが密閉空間だった訳では無く、しかも吸ったら即死という程の強力な毒ではなかった為九割九分の住人は無事、かどうかは置いといて逃げ出す事が出来た。
その毒ガスを撒いた魔族もそれ以上何かする訳でもなく撒くだけ撒いて立ち去って行ったらしい。
レイ視点で言えばソフィーヤの口封じだなのだと思う。
『状態異常無効』ってそれだけで十分にチートですよね。
カテリーナや他の王族が逃げ込んだのはシャンデラ王国で王都に次いで規模の大きい街の貴族の元だった。
その貴族は公爵家で、言わばカテリーナの親戚のようなものなのだとか。
斯くしてレイとソフィーヤを除いて誰もいなくなった王都の様子を見る依頼が週に一度の頻度で近隣の街の『冒険者ギルド』から発行され、今回たまたまニーナとその仲間のアンとリーチェがその依頼を受けてレイと再会を果たしたのだった。
「冒険者ギルドか、やっぱり外せないよなぁ。」
「ですです!なんとわたくしニーナめはこの二ヶ月でCランクまで上がりました!」
「おおー」
「それでこの二人は入ったばかりの頃から私の面倒を見てくれた先輩なんですよ。
こないだ漸くランクが追い付いたのです。」
アンとリーチェを見る、二ヶ月近くずっとニーナの面倒を見てくれていた、そんな二人に何故かレイがお礼を言いたくなるがお前はニーナのなんなんだと言われそうなのでぐっと堪える。
しかしそうなるとニーナは一人で冒険者ギルドに行った事になる。
「あー、他の二人は?」
「礼と円ですか?実は私もよく知らないんですよね。
王都脱出の際にはぐれてしまって、多分何処かの街にはいるとは思うんですが、話を聞かないので冒険者になった訳でもないでしょうし」
確かに勇者と聖女の二人が冒険者になればガンガンランクを上げて目立ちそうなものだ。
勿論目立つのを嫌って細々とやっている可能性も無くはないが。
「ふーん、何にしてもとりあえず冒険者はやりたいしニーナが登録した冒険者ギルドに入るかな。」
「ちょっ、私あの街の最速ランクアップ記録持ってるんですから止めて下さいよ。」
礼と円の事も気にならないでは無いが顔すら真面に思い出せない相手であり、適当に頭の隅ででも覚えておこうと(瞬間記憶能力者)決めニーナ、それにアン、リーチェと共にニーナたちの活動拠点の街へと向かう。