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2~聖女ですから~

 暫く走っていると漸く犯人のメイド、『鑑定』曰く正確には魔族のソフィーヤ、の姿を捉える。

 レイの後ろを大量の騎士たちが追っかけて来てはいるが、それは些細な問題である。

 ソフィーヤを追う為に何に頓着するでも無く道中の騎士を飛び越えたり、間をすり抜けたりと此処まで走って来たのだから当然の光景と言えよう。

 

「なんかのスキルか魔道具かなー」

「どういう事です?」

 

 ソフィーヤの姿を見てそう呟くとニーナが疑問を唱える。

 この世界の魔族も例に漏れず人間と同じ様な姿をしているが肌は青みがかっており、魔物を操り、人間の数十倍から数百倍の魔力があると言われ、更にその肉体強度も人とは比べ物にならない程の強者である。

 他種族を下等種族や家畜と見下し、奴隷にして扱き使い、自らの快楽の為、優越感の為、憂さ晴らしの為などのあまりにも身勝手な理由でその力を振るう。

 それ故に全人類の共通の敵とされている。

 しかし目の前を走る、明らかに自分を標的にしてるレイの姿に気付き逃げ始めたソフィーヤの現在の外見は人間そのものだ、という事をニーナに説明する。

 

「スタート地点から魔族なんてそれなんて無理ゲーですか。」

「でもまぁ盛ったのは麻痺毒だから今回の事は様子見程度だと思う。

 それ以外に何をするでも無く此処から離れようとしているし」

 

 運が悪ければ後遺症が残る程度には強力な毒、という事は事前に察知して誰も口にしなかった訳だし言わなくていいだろうと黙っていた。

 

「流石は魔族……思ったよりも相手が速いな、少しギアを上げるぞ」

 

 ニーナの返事を待たず加速する。

 突然の加速でも振り落とされる事は無かったニーナだが、レイの首に回されたその手は明らかに先程よりも力が込められていた。

 

「と、り、あ、え、ず、死ね。」

 

 言葉に合わせ五歩のタイミングで跳び、死ねとは言ったもののこの場で殺すつもりは無く、かなり抑えた力で脇腹目掛けて足を振るう。

 レイの足が触れた瞬間、まるで大型ダンプにでも撥ねられたかの如く横へと盛大に吹き飛び、見るも見事に壁にめり込んだ。

 

「さてと、どうすっかな……」

「あれ、殺してないんですね。」

「一応情報収集をしようかと」

 

 壁にめり込んでいるソフィーヤの姿は先程までの人間同様の姿では無く、気を失った事によりその効果が切れたのか魔族特有の青い肌をしていた。

 それ以外の見た目にパッと見の差異は見当たらなかったので肌の色を変えるだけの、気を失って効果が切れたという事はスキルだったのだろう、魔道具の効果だったならば本人の状況は関係ないと思われる。

 それから僅かに遅れレイを追っていた騎士たちが到着する。

 

「貴様!王城を駆け回り、挙句の果てには王に仕えるメイ……ヒィッ魔族!」

 

 確かにそこまで距離が離れていた訳でも無く、レイが追っていたのがメイドだとは気付いていたのか剣を向け勇ましく言ってきた騎士の一人だったが、気を失ったソフィーヤを見て腰を抜かす。

 魔族を見ただけで腰を抜かした騎士の姿に眉を顰める、しがみついたままのニーナも恐らくレイと同じ様な表情をしていた事だろう。

 そんな騎士の様子をあまりにも見ていられなくなり、今のうちにソフィーヤを縛り付けようと思ってロープの類を持っていない事に気付く

 どうしようか、なんて悩む素振りを見せるでもなくレイはなんの躊躇も無くソフィーヤの両足の骨を砕いた。

 生来痛みに強いのか、それともそれに気付かない程に意識を深く落としているのか分からなかったが、叫ばれなかったのは僥倖だろう。

 目の前で腰を抜かす騎士たちや半殺しどころでは無いソフィーヤをそのままにしておく訳にもいかず暫くその場でニーナと雑談しているとカテリーナが礼と円、それに複数人の騎士を引き連れてやって来た。

 

「はぁ……何事です。」

 

 カテリーナが額に手を当て溜息を吐き、レイに事情を求め視線を向けてきた。

 

「おたくの騎士大丈夫?気を失った魔族見ただけで腰抜かしたんだけど」

「その者たちは騎士ではなく城や街の巡回を担当する下級兵です。

 で、なにごとですか。」

 

 確かに言われてから見るとカテリーナが連れている者たちに比べその装備はなんランクも落ちる物だと気付く

 お姫様に圧を掛けられたので仕方が無く説明をする、とは言え毒を盛った犯人が魔族でそれを一撃で仕留めただけの事であり説明らしい説明は必要なかったが。

 

「い、一撃……」

 

 レイのやる事に諦めすら感じていたはずのカテリーナだが、流石に魔族を一撃で倒したという事には若干引いていた。

 

「とは言え殺さないようにかなり手を抜いたけどね。」

「死ね、とか言ってましたけどね佑お兄さん。」

「それなりの力でやってたら吹き飛ばずにその場で真っ二つのスプラッタですよニーナちゃん。

 ところで佑お兄さんって言い難くない?もっとフランクに呼んでくれていいんだよ?」

「スプラッタは割と平気です。

 なら佑兄(ゆうにい)とお呼びしますです。」

「あ、そうなるんだ。」

 

 スプラッタ、まではいかないがボロ雑巾の様になった魔族ソフィーヤの横で陽気に話をするレイとニーナ

 そんな二人の姿にニーナの友達の筈の礼と円も引いてたのは解せない。

 ともあれ下級兵はカテリーナが来てから少しして去っていったのだが、問題はソフィーヤである。

 出来る限りの手加減はしたのだがこのまま下手に動かせば死にかねない程度には瀕死だった。

 レイは勿論回復魔法も回復系の能力も使えるが、全回復させるのはあまりよろしくはない、かと言ってどれ程手加減すれば丁度いいのかが分からない、今までは敵は殺し、味方を回復させれば良かった為に回復の手加減の仕方なんて考えてこなかったからである。

 

「多分折れた……砕けた肋骨が肺に刺さってるし下手に動かすと殺しかねない結構ギリギリの状態なんだよな。

 誰か『回復魔法』使えないの?」

 

 カテリーナを見る。

 大体の物語なら勇者召喚に関わるお姫様が『回復魔法』を使えるのは定番だからであるが、残念ながら首を振られてしまう。

 どうしたものかと考えているとおずおずと円が手を挙げた。

 

「あの、多分私が使えます……」

 

 そんな自信なさげに言われてもリアクションに困るので円のステータスを見せてもらう。

 そこには確かに『回復魔法』というスキルがあり、その他の部分をサラッと見ると職業欄に『聖女』、称号欄に『異世界の勇者』と書かれていた。

 カテリーナが勇者様方と複数人に対して言っていたのは称号の『異世界の勇者』を指していて、職業としての勇者は恐らく礼なのだろう。

 女勇者というのも無くはないが明らかにレイ寄りの思考をしているニーナが勇者では無いのだと断言出来る。

 簡単に殺すなんて単語が口から出る奴が勇者な訳無いだろ。

 

(勇者と聖女ね……帰ったらファイスとプラチナを誘ってどっか遊びにでも行くかな。)

 

 礼と円、目の前の勇者と聖女を見て同僚の異世界産勇者と聖女の事を思い出す。

 しかしそれも一瞬の事で、再び意識を円へと向ける。

 

「『回復魔法』って言われて明確にイメージ出来る?」

「あー……ニーナに色々とやらされたんでそれなりには出来ると思います。」

 

 どこか遠い目をして言う円、ニーナちゃんこの子に一体何をしたんだ、と聞きたくなったがそれは後でいいと頭を振る。

 

「なら、ステータスを出しっぱなしにして回復魔法を出来るだけ正確にイメージをして、ステータスのスキル欄の『回復魔法』を使用する(・・・・)って感覚で出来るはず。」

「はぁ……それだけでいいんですか?」

「この世界の魔法体系はよく分かんないけど、スキルとしてある以上は多分それで使える、はず。

 俺がこの魔族を追う時に使ったのもスキルだし」

 

 半信半疑ながらもソフィーヤの傍でしゃがみこみ、ソフィーヤの身体に手を翳しながらレイに言われた通りに『回復魔法』、回復をイメージしてステータスウィンドウをチラッと見て使用すると考える。

 円がスキルを使用する為に考えたのは目の前のステータスウィンドウのスキルの部分をスマホの画面の様にタップするイメージだった。

 そして白い光がソフィーヤを包み徐々にその傷を治していく、その光景を見ていて治り過ぎだとレイは感じる。

 円の『回復魔法』はLv2である、恐らくスキルのレベルは10が最高値だと考えている。

 自分のスキルはそのLv10がいくつも並んでいたが、それ以上の数値を見かけなかったからだ。

 となると十段階の下から二つ目ならまだ駆け出し程度のレベルだと思っていいだろう。

 そこで改めて円のステータスウィンドウを見る。

 そこには聖女らしいと言えばらしい、恐らくだが『回復魔法』をブーストするスキルがいくつも並んでいた、そのブーストスキルは殆どがLv1やLv2だったが、それでも重複した結果が想定以上の過剰な回復なのだろうと判断する。

 流石は聖女、と考えているとソフィーヤから声が漏れる。

 慌ててソフィーヤを見ると傷はほぼ完治していて、今にも目を覚ましそうだった。

 円の肩を掴み少し乱暴ながらソフィーヤから離す。

 次にどうするか、勿論その機動力を奪うのが先決だ。

『異次元収納』から二本のサバイバルナイフの様な物を取り出すと太腿目掛けて投げる。

 それで安心する事無く、潰さないように軽く頭を踏み意識を刈り取る。

 そのまま立ち位置を変え太腿に刺さったそれを引き抜き足と腕の腱を切り裂いた。

 

「ふぅ……これで安心」

「佑兄容赦ないです。」

 

 そこまでやって漸く安心をして円を見る、するとその顔は真っ青になり身体は震えている。

 最小限の傷で抑えたとは言え生き物を、肌が青い以外は人間と外見上の差は殆ど無い魔族を刃物で躊躇無く切る、という光景は普通の日本の女子高生なら十分に顔を青くする理由となるだろう、ニーナは平然としていたが。

 

「さっきは乱暴にして悪かったな、大丈夫か?」

 

 震える円を立ち上がらせようと近付き手を伸ばす、しかしその手は円によって振り払われてしまう。

 仕方ない、そう思い円から離れる。

 

「カテリーナ、地下牢があるだろ?案内してくれ」

 

 先程ソフィーヤを追う時に王城のマップを確認しているので地下牢がある場所は分かっている。

 しかし行っても場所が場所だけに見張りがると考え、見ず知らずの自分では話が進まないのは目に見えているのでカテリーナに案内を頼む。

 姫様と呼んだり敬語っぽいのを使うのに飽きたのか面倒になったのか、呼び捨てにして適当な言葉を投げるも誰もそれを咎めない。

 代わりに、カテリーナはなんともない風を装ったが、騎士たちから向けられた視線はまるで化け物を見る様なものだった。

 

「ニーナ、俺が言うまでも無いだろうけどその子の事見ててやってよ。」

「合点承知之助ですよ!」

 

 ブイサインを向けてレイから離れると円を立ち上がらせる。

 それを見届けてソフィーヤを担いでカテリーナの案内の元地下牢へと向かう。

 レイに化け物を見る様な、若干恐怖すら混じった視線を向けてきた騎士たちだったが、カテリーナと二人きりにする訳には行かないと確りと後を着いてきた。

 

「ここです。

 この階段を降れば地下牢があります。」

「この先には案内してくれないのか?」

「あの……」

「冗談だよ、お姫様をこんなとこに連れてく訳には行かない、とは言え誰かは一緒に来て欲しいんだけど」

 

 騎士たちの中で一番装備が豪華な者が一瞬だけレイを見て無言で降りて行く

 先程の様子から押し付け合うなりもっと時間がかかると思っていたので、先導してくれるなら騎士の態度がどんなものであろうとレイとしては別段不満は無い。

 階段を降りるとそこはイメージ通りの地下牢、鉄柵の扉があり、その扉を抜けた先正面に真っ直ぐの一本の道、そしてその道を中心に左右に別れていくつかの牢がある。

 階段を降りて直ぐの所に事前の想定通り存在する見張り、騎士だか兵士だか装備の質から兵士だとは思う、先導してくれた騎士が声をかけその兵士から鍵を預かる。

 何を言うでもなく先へと進み目の前の扉の開け、一番奥の牢へと案内される。

 王城の地下牢という事もあり、余程の理由が無ければ入れられる事は無いのだろう、他の牢は空だった。

 その一番奥の牢を無言のまま開き、レイが入れる様に扉の前から除ける。

 何も言ってこないが入れ、という事なのだろうと牢に入り寝る為のスペースの様なところにソフィーヤを降ろす。

 するとまだレイが中にいるにも関わらず扉は閉じられ、鍵をかけられる。

 しかしレイはこの程度の事では別段狼狽える事は無い。

 レイとしてはこうなる事は十分に予想の範疇だった。

 だからこそ行動に出る。

 ソフィーヤを降ろした位置からゆっくりと進み騎士の目の前で牢の鉄柵に手をかけ、特に力を入れた風でもなくその鉄の棒を軽く曲げる。

 牢に入れて安心し切っていた騎士は牢を破る事は簡単だと言わんばかりのレイの行動に流石に慌てる。

 レイはそんな騎士に何を思うでも無く無感情に、無表情で、兜をしているが僅かに見える騎士の目を見ながら言う。

 

「別に敵対したい訳じゃないしこの国を滅ぼそうとか侵略しようとか考えてる訳じゃない、かと言って悪い事をした覚えだって無いけど、とりあえず大人しく捕まっててあげる、けど……その顔、声、匂い、そして名前……覚えたよ。」

 

 それだけ言うと牢の奥で座り、壁に背を預け目を閉じる。

 その様子に今度こそ安心したのか、冷や汗をかきながらもその場を後にするため歩き出す。

 

「あ、カテリーナとニーナによろしく」

 

 あまりの声の近さに驚き振り返る。

 そこには先程奥で座り込んだはずのレイの顔が間近、鉄柵を挟んだすぐ目の前にあった。

 その顔は笑っているように見えるが、目だけはじっと騎士を見詰める。

 数秒して満足したのか本当の笑顔になり、先程の位置へと戻って行った。

 

(なんなのだ!なんなのだアレは!完全に化け物ではないか!まだ魔族の方が可愛げがあるぞ!)

 

 レイを牢へと閉じ込めた騎士、カテリーナの近衛騎士隊隊長であるアルフレッド・フォークシーの頭の中はぐちゃぐちゃであった。

 レイに聞こえる位置の為それを声に出す事は無いが、気持ちとしては今すぐ叫びたい程の焦燥を感じていた。

 彼は、近衛騎士になる前のアルフレッドは全部で三十二隊ある王国騎士団の十四番隊副隊長であり、若いながら戦争で活躍し、魔族とだって戦った事もある。

 現在近衛騎士隊隊長を任されてるのを考えればその強さは上から数えた方が早い。

 それでも、そんな王国の騎士として上位にいる自分ですらレイの足元にも及ばない、そう理解出来てしまった。

 だが、足元にも及ばないと理解出来たのはアルフレッドが強者の証でもあった。

 格が違う(・・・・)と言うべき自分に理解の出来ない圧倒的な強者と遭遇した人間は判断を間違える。

 その様な存在を目の前にした時格下だと判断してしまうのだ。

 故に足元にも及ばないという判断が出来、レイを圧倒的強者だと理解出来るアルフレッドのその強さは本物だった。

 

「んー、暇だな。

 しかしカテリーナはいい騎士を手元に置いてるね、まぁ多分だけど、あの騎士よりカテリーナの方が強いんだけどね。」

 

 カラカラと笑いながらいまだ意識を取り戻さない人類の敵、魔族のソフィーヤを見る。

 正直レイとしてはどっちが正義だとか悪だとか本心からどうでもいいと思っている。

 そもそも正義や悪とは主観であり、争いと言うのは正義と悪では無く互いの正義を主張して起こるのだ。

 現状の様に情報が殆ど無ければ何を信じるべきか誰が敵で誰が味方かすら分からなくなる。

 だからレイの考えはシンプルで自分にとっての敵か味方か、生かすか殺すかただそれだけだった。

 だから、悪だからという訳では無いが折角目の前にいい実験体(人間より死に難い肉体)があるんだから最低でも『回復魔法』の強弱ぐらい覚えておこうかなと、本当になんとなく思った。

 

「あー、駄目だ、この世界の魔法体系知らねぇんだった……そうだ、今のうちにステータスをちゃんと確認しとくか。」

 

 念じてステータスウィンドウを表示する。

 相変わらず長いが自分が座ってる為か先程とは変わって正面で段々に表示されていた。

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