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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The second hack
9/26

Part.5 (2)

 銃口が彼女に差し向けられる。

 こうなっては俺もオトリである意味はない。

 俺は走り出した。

 そこに理論だった考えなどなかった。

 どう見積もっても彼女が助かる見込みはない。

 だが、それは外的な起因を考えない場合においてであった。

 必死に前へと進む俺の目へと写ったもの。

 トーチカのごとく積み上げられた段ボールは崩れていった。

 そして、鳴り響くガラスの音。

 立ち止まる俺の肩に誰かが手を置いた。

「お前ら、俺も混ぜな」

 そして、彼は崩れかかった段ボールに最後の一撃とばかりに自ら飛び込んで行った。

 トーチカは完全に崩れ落ち、彼の姿はその向うへとうずもれてしまった。

 俺は、すぐに御影の元へ駆け寄った。

「立てるか?」

 彼女も突然の事態を飲み込めていないようで、座り込んだままだった。

「ちょっとひざをすりむいたけど、……いけるわ」

 彼女の右の膝小僧が赤くなっていた。血がじわりじわりと滲んでいた。

 普段ハンカチなど持ち歩かない俺だが、ポケットを探るとここに来る途中もらったポケットティッシュがあった。

「とりあえず、これ」

「ありがとう」

 彼女は患部をティッシュで軽く当てるようにして拭き、反対の足から立ち上がった。

 彼女は足元に落ちていた紐を拾い上げた。

「最後の最後、こんなものに本当の意味で足を取られるとはね」

 それは紙などをまとめて縛る時などに使うビニール紐だった。それが通りの端と端で結ばれていたようだ。

「あんな状況じゃまじまじ地面なんて見てられないしな。とにかく行くぞ」

 俺は彼女を引っ張り段ボールの散乱するサーバー前へとやってきた。

 彼女は自らの銃を拾い上げ、腰のホルダーへと戻した。

「本当に情けないものね。ていうかアレは何?」

 彼女の指さす先には先ほど盛大なダイブを決めていた彼が段ボールの山の中から姿を現していた。

「いや、それは俺がまずアイツに聞きたいんだ」

 俺は段ボールをどけながら彼の元に行く。

「最初にありがとうとは言っておくが、光成、どうしてお前が?」

 彼は立ち上がり汚れた服をはたきながらこう言った。

「お前最近帰るときにやたらこっちに来たりとおかしいと思ってな。今日も家で用事があるって言って先に帰ったかと思えば、こんなところにいるお前を見つけた。しかも、これほどの女と一緒にだ」

 彼は御影の方に目配せした。

「場所が場所だからな、なにをしだすのかと後をつけてみたら、まさかハッカーごっことはな。どうやら危ないようだったからとっさにな」

 彼の後ろのサーバーの据え付けられいる壁の下をみると砕けちったビール瓶が散乱していた。これをどうやらあのトーチカにぶつけて崩したらしい。

「望月の友達?」

 俺は御影にうなづいた。

「そう、とりあえず助かったわ。いろいろ話もしたいのだけど先に済ませることがあるわ」

 そう御影は光成へのお礼も早々、足を進め段ボールを乱暴にどけた。

「どうやら抵抗する気はないみたいね」

 そこには一人の少女がいた。彼女は立って逃げだすでもなくそこにちょんと女の子座りをし、うつむいていた。

 御影と同じ制服、顔を覆うように前にかかった髪、小柄な体格。俺は自分の目に映った彼女が誰なのか分かっていた。しかし、同時に俺の記憶をもとに思考するとここに彼女がいることは不自然で他ならず、見間違えているのかとも思った。

 俺の知っている彼女は俺や御影、そして光成とは違う気質の人間なんだ。用意周到で手強く御影を追い詰めたハッカーが彼女だなんて考えられるか?

 でも御影の前に座っているのはあの大人しくて口数の少ない目黒だった。

 御影はかがんでその手を彼女のあごに添え、顔を上げさせた。

 彼女の髪は左右に分かれ、隠れていた顔がはっきりと見てとれた。

 小さな顔に小さな鼻と口、その中で大きくて黒目がちな目が御影を見据えていた。

「私たちもこういうのを使えらまだ、楽なんだけどね」御影は、足もとに落ちていた電動式のサブマシンガンを見てぼやいた。

「あいつ、目黒だよな?」

 光成は俺の光成は俺の耳元で訊いた。

「……俺にはそう見えるが」

「あなた名前は?」御影が彼女に問う。

「……目黒、目黒葉月(めぐろはつき)……」

「ハックしてるサーバーはここだけね?」

 目黒は一つうなづいた。

「さて、キーを解除してくれるかしら? そうすればあなたのディノスには手を出さないわ」

「うん」

 ぽつりとうなづいた彼女は立ち上がり、サーバーの前でディノスを操作し始めた。

 御影もディノスを立ち上げてアプリを起動していた。

 しばらくして御影は言った。

「ここには近づかないことね。もし、近づくならこちらも容赦なく応戦するわ。わかったら去りなさい」

 そして、御影はこちらをこちらに歩みより、俺と光成の背中に手を置いて言った。

「ちょっとこっちに来なさい」

 俺たちは彼女に背を押され通りから路地へと歩いて行った。通りを去る最後まで、目黒は立ったままこちらをじっと見ていた。

「お前、なんでこんなことしてる? てか、この女は何だ?」

 途中、光成が俺に訊いた。

「いや、それを話すと長くなるんだが……」

 俺は彼女と初めて出会った時の事を思い出しながら、さてどこからどういう風に話そうかと考えていると、御影が口を挟んだ。

「それは今から話すわ。とりあえず、あんな状態になってるサーバーの前にいるところを人に見られてはまずいからこっちへ」

 俺たちはあの廃パチンコ屋の前へと連れてこられた。

 俺は自分の頭の中を整理するのでいっぱいいっぱいだった。

 光成のことはともかく、目黒もハッカーだったこと。これらの事情をどのように整理すれば俺は理解できるのだろうか?

「私はA組の御影沙織。そこの望月とハッカーをやってる。あなたの名前は?」

「俺は光成勇斗。望月は俺のダチだが、何故こいつがあんたと一緒にこんなことやってるんだ?」

「それは彼がとても暇そうだったからよ」

「なるほどな」

 おい、納得するなよ、光成。

「そしてあなたにお願いがあるの。見てもらった通り私達二人では一人相手でさえさっきのような窮地になりかねない。ましてや、十数人相手だと手の出しようがないわ。良ければ私達の仲間になってもらえない?」

 光成は少し考え答えた。

「お前らの目的はなんなんだ? ハッカーにもいろんなのがいるが、俺はその一部の奴らから多大な迷惑を被ったからな。今回は友達としてのよしみで助けたが答えによっては賛同できかねないな」

 光成の言う多大なる迷惑、それはあの橋のサーバーの件であろう。

「私達の目的はこの近辺のサーバーを正常化すること。言いかえればあなたのいう多大なる迷惑を撲滅することってことになるかしら」

「それならば俺にも大きなメリットがあるってことだ。現にここのサーバーは正常になったみたいだな」

 彼はディノスを立ち上げ、それを確認した。

「では、私達の仲間になってくれるわね?」

 御影が握手を求めようと右手を差し出した時、彼女の後ろから物音がした。

 御影は差し出しかけた右手を戻し、素早く銃を構え振りかえった。

 その先には路地からこちらに向かってくる目黒がいた。

 両手にはなにも持っていない。

 御影は銃口を彼女に向けたまま問う。

「何? もう近づくなといったはずよ」

 目黒は黙ったままゆっくりと御影に向かって歩いてくる。

 御影は、もう一度彼女に銃を構え直した。

 ついに目黒は御影の目の前までやってきた。そして立ち止まった。

 彼女の眼前には構えられた銃。しかし、そんなものを全く怖がっているようには見えなかった。

 そして、なにかを呟いた。しかし、俺には聞こえなかった。

「どういうこと? 詳しく聞かせて」

 御影にはそれが聞こえていたようだ。彼女は構えていた銃を下ろした。

 そして、二人は話し始めた。しかし、目黒の言っていることは俺の距離ではよく聞きとれない。

 会話が進む中、光成が俺にだけ聞こえるように話した。

「あいつ、学校じゃあんなのだが、意外にもこんなことしてるとはな。おまけに素顔をはなかなかのものじゃねえか」

 光成の言う通り彼女は、美しいとはまた違うがとても愛らしい顔つきをしていた。しかし、学校にいる時の彼女の普段の様子からはその魅力を見出すことは難しかった。もし彼女が明るく人当たりの良い性格であればかなりちやほやされているのではないだろうか。

「二人とも」

 御影がいきなり俺達を呼ぶ。よくわからないが俺達は二人の下に近寄る。

「彼女、目黒さんにも仲間になってもらうけど構わない?」

「え?」俺と光成は顔を見合わせた。

 光成は言う。

「俺には口をはさむ権利がない、個人的に賛成はしないが明確に反対する理由もない、勝手にしな」

 俺は訊いた。

「どうしてそうなったんだ?」

「彼女たっての希望よ。しかも、彼女の持っている技術を私達に提供してくれるらしいわ。確かにリスクもあるけど、これは大きなメリットじゃないかしら」

「……分かった、リーダーはお前だ。お前がそういうならそれでいい」

「そういえば、あなたから答えをまだ聞いてないわ。どうなの?」

 御影は光成に向かって訊く。

「いいぜ。どの部活も退屈でつまらなかったんだ、こっちの方がやり甲斐があるしな」

「なら改めて」

 御影は先と同じように右手を差し出した。

 光成はそれに答え、二人は互いの目を見据えしっかりと握手した。

 それから新たに仲間になった二人には御影からの簡単な説明受け、ディノスのリンク(彼らのディノスをサーバーのキーに設定することなど)を済ませた。

「作戦会議の時は伝達するから屋上にくるように」

「OK、わかったよ。じゃあ、俺は帰るから」光成は通りの出口の方を向く。

 日は傾き空は赤く染まり始めていた。

「おっと、帰られては困るわ。まだやることが残ってるでしょ」

 光成は体を返して訊く。

「なんだよ?」

「あなたがめちゃくちゃにしたサーバー前を片づけるわよ」

「あ……」

 しまったと落ち込む光成に俺は言う。

「まあ、仕方ないだろ。せいぜい頑張ってくれ」

「何言ってるの? 望月、あなたもよ」

「え……」

 俺達二人は御影に監視されながら、サーバー付近の掃除に従事させられた。

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