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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The sixth hack
26/26

Part.1 (6)

 俺が屋上へやってきた時、太陽と反対で影のできた建物の壁によりかかり、ディノスをつついていた彼女は、俺を見るや否や操作をやめ、こちらに歩み寄った。

「チェックしたところ別に異常はなかったぜ」

 俺は彼女のサーバーに関する質問に答えた。

「異常がない? サーバー自体にダメージはなかったっし、何か攻撃にさらされたわけでも?」

「そうだ」

 彼女の脇を通り過ぎそれまで彼女が居た影に身を置く。

 俺の返答を聞いた彼女は不可解そうな顔で何かを考えていた。そして、何か見切りをつけたのであろう彼女は、俺にある画面を見せた。

「昨日のアクセス履歴よ。あなたがアクセスする前、時間的には私達が洋館へついた頃、何者かがこのサーバーのデータを閲覧していたようなの。もちろんそれは違法なアプリを介したものだわ」

 俺には彼女の考えていることが少しわかったような気がした。だから補足した。

「でも、そいつはサーバー自体には攻撃をしかけていない。そして、そこが危惧すべき点だ。つまりそういうことか」

「そのとおりよ。相手はサーバー自体ではなくその中にあるなにかしらのデータが目的だったということ。サーバー自体が目的であればこちらも対処がしやすい。それはただ単にサーバーを防衛すれば済む話だから」

 照りつける日向を嫌った彼女は俺と同じ影に入り続けた。

「気をつけなさい。相手が誰かも何のデータを見たのかもわからない。でも、いつか動いてくるはずよ」

「しかし、あれだけ言ってたセキュリティとかはどうなってるんだよ? 見ることすら防げてないじゃないか」

「逆よ。見るだけだから破られたのよ。今のセキュリティでは外部からの攻撃に対して対応はできでも、サーバーにダメージを与えない閲覧においては脆弱なの。かといってすべての閲覧をサーバー側でシャットアウトしてしまうと、それは通常使用も不可能になってしまうわ。それが不正な閲覧であるかどうかを判断しブロックするにはもっと高度なプログラムと強固なネットワークが必要になってくるのよ」

「対処法はあるのか?」

「ないわ」

 彼女はすました顔できりと言ってのけた。

 俺はおそらくはじめて彼女の言うことにずっこけた。もちろん心の中でだが。

 俺は発展しようのないこの話題を置いて、今日ここに来ている本来の理由を聞くことにした。

「今日は何だ?」

 またディノスを操作しはじめた彼女は、作業を中断することなく俺に答える。

「この前潜入したビルで見つけた情報を元に新たなサーバーをハッキングするつもりよ」

「それがそのデータか?」

 俺は彼女の見ている町の地図にいくつかの情報が書き込まれた画面について聞く。

「ええ。情報が正確かどうか確かめているところ。敵は外にいるとは限らないから」

「それって……」

「彼女が私達に加担する合理的な理由は私にはわからないわ。この手の問題に関しては彼女の力を借りざるを得ない。だからこそよ、もちろん私もそう思いたくないのだけれど」

 たしかに御影の言うとおり俺にも彼女が何故俺たちに加担してくれているのかはよくわからない。しかし、決してそれは悪意があるものではないのではないか。甘いのかもしれないが俺はそんな風に思った。

「あなただけを呼んだのは、このデータを元に偵察に行くため。データどおりに敵が位置しているかを確かめるわよ」

「一週間ってとこだからもう向こうは対応策打ってきてるんじゃないか?」

「そうねギリギリね。でも仮に戦力の増強があったとしても、それほど気を落とすことではないわ。今回のことで敵は私達の動きに左右されざるを得なくなった。つまり今までの防衛体制を変えなければならなくなったということ。そうなるとこれまで重点的に守っていたところのいくつかが手薄になる可能性がある。もし、このデータに載っているサーバーが重点的に守られているようなら裏を書いて戦力の少なくなったサーバーを攻めればいいわ。もちろんセキュリティは高いでしょうからリスクはあるのだけれども」

 その後、放課後の活動について指示を受けた俺は教室に戻った。

 さて次は何の授業だっただろうか。いつものようにそんな疑問を解消するため俺はディノスで時間割を見ようとした。

 しかし、これが開かない。

 いくらやってもエラーばかりなのだ。

 よもやと思って他の昨日も試してみる。

 全滅だ。

 周囲を見渡してみるが俺以外の人は何不自由なく使えているようだった。一人を除いて。

「お前ディノスの調子悪くないか?」

 光成も俺と同じ症状に悩まされていた。

「ああ、にっちもさっちも動かない」

「ウイルスか?」

「いや、だったら同じサーバー使ってる他のやつらも――」

 俺はある可能性に気づいた。それを確かめるため教室を飛び出す。

「どうした? どこへ行く」

「すぐ戻るお前はセキュリティチェックしてろ」

 俺は廊下を走り階段を上る。

 そして俺と彼女は鉢合わせした。

「あなたもね?」

 俺と御影は人目を避けるため屋上に向かった。

「お前もか」

「ええ、私達以外の生徒にはなんの不具合も起こっていないのにね」

 俺たちが結論を導き出すのにそれは重要な事柄であった。

「俺とお前、光成、そしておそらく目黒もか」

「このウイルスは意図的に私達だけに感染するように作られたものだわ」

「そんなこと可能なのか」

「本来であれば不可能よ。各人のディノスの個体識別番号を知りえないままに特定の個体に攻撃を仕掛けることはできないもの。そして識別番号は通常に使用していれば外からのアクセスでは判別できないはずなの。でも私達のそれは私達のディノス以外の場所に記録されてしまっている」

「サーバーか……」

「サーバーを操作する以上、そのサーバーを操作する私達を認識してもらうために番号を登録しておく必要がある。今回ハッキングされたのはどうやらこれのようね」

「奴らは思ったよりはやく動いてきたな」

「奴ら……そうかしら」

 御影は顎に手をつきうつむいた。

「もし、彼らなら私達だけ特定に狙うなんてまどろっこしいことするかしら?」

「逆に奴ら以外なら誰だよ?」

「それはわからないけど……、とにかく南高サーバーへのハッキングは中止。放課後はこの問題に対処するわ」

 休憩の終わりを告げるチャイムがなる。

「やば、次の授業の準備してなかった。詳しいことはまた電話でもしてくれ」

「いや、ちょっと待ちなさいよ」

 俺は自らの学業生活の保身のため後ろで引き止める彼女を無視し教室へ直行した。

 そして、全ての授業が終わり俺は御影に電話しようとするところで気づく。

 ウイルスにやられているディノスでは電話をかけることはできない。

 昼休憩の終わりしな彼女が何かひきとめていたのはそういうことだったのだ。

 俺は教室を出て、彼女のクラスへと向かった。

 終礼直後の教室にはまだたくさんの生徒が残っていた。

 部屋の外から中を見てみるが彼女の姿はない。

 俺は引き返し階段を上る。

「ディノスがやられているんだからその場で決めておかないといけないでしょ」

 落下防止用の柵にもたれかかっていた御影は振り向いた。

「どうせここだとわかりきってるんだから問題なかっただろ」

 御影は一つため息をついてあきれた。

「で、まず壊れたディノスはどうする?」

 俺は左手のフリーズしてしまったディノスをさしながら言う。

「それなら問題ないわ」

 彼女は自らのディノスを示す。

 そして、ディノスのホログラム表示ボタンを押す。

 彼女のディノスは何事もなかったように正常にホログラムを表示したのだった。

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