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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The fifth hack
22/26

Part.4 (5)

「近辺を歩いてみると、あの建物に近づいているほど通信状態が安定する。たぶんサーバーはこの中にあるはずよ」

「しっかし、なんつーレトロさだよ」

 光成の言うとおりその建物は周りにある真新しい住宅と対照的に非常に古そうだった。改修されている為か壁や屋根そのものはきれいだが、その作りと風貌はおそらくはるか以前に建てられた洋館と呼ばれるものだと思われた。俺自身教科書で見たことがある程度なので、厳密にそれに当てはまるかどうかはわからないのだが。

 最近開拓されたこの住宅地の中で、その洋館だけ時代の波に取り残される中、何者かに見つかるまいとするかのように息を潜めぽつりと立っていた。

「どうしてこの建物だけ残ってるのかしら? この一帯はもともと何だったの?」

「俺はつい最近越してきたんだ。知らねえよ」

「俺も同じだ」

 つい二年前この街に越してきた俺たち、そして転校生の御影にわかるはずもない。

「目黒さん、あなたこの街で育った?」

 目黒に御影は訊いた。

 目黒はこくりとうなづいた。

「じゃあ、わかる?」

 目黒は思い出しながら話した。

「……工事。何か工事してた。でもその前は知らない」

 結局、俺たちにこの疑問をこの場で解消することは不可能だった。

「まあ、なんであれサーバーのハッキングには関係ないわ。中を調べれば大体検討もつくはずよ」

 俺たちはあたりに人がいないことを再度確認し、洋館の門へと向かった。

 門の横にはこの建物が何であったかを示していたであろうプレートがとりつけられていたのではないかと思われる長方形の跡が残っていた。その部分だけ他の部分より色が白くいくらかきれいであった。

 鉄格子の大きな門には鍵はなく、鎖でもっとも端の格子同士が一周巻かれているだけであった。

 光成がその鎖を解くとなんの抵抗もなく門は開いてしまった。

「管理されてるわよね?」

 手入れされているように思われる洋館の庭と容易く開いてしまう門の不和に彼女はどうにも納得がいかないようだった。

 門の中まで入ると塀のおかげで周囲からは見えなくなる。ここで俺たちはそれぞれ装備品を身に着けた。

「準備はできた? じゃ、入るわよ」

 御影は木製の両開きの扉の、鍍金のはげかけたアンティーク調のノブを握る。

 ゆっくりと音を立てまいとそれをまわす。

 ちいさなカタッという音がなり、すべるように開き始める。

 十センチほど空き、彼女はその手を止める。

「合図したら行くわよ」

 彼女は「さん、にい、いち」合図を送ると、力いっぱい扉を押し開け中へ入り込んだ。

 俺たちもそれに続く。

 御影は四方へ銃口を向け、安全を確認する。俺も一応左の方へ同じようなポーズで注意を払ったふりをしていた。

 広い空間だった。そう、これはおそらく部屋とは呼べない。俺たちのいるこの空間の奥の左右の端はそれぞれ奥に向かって伸びる廊下がある。そして部屋の左右から曲線を描いて伸びる階段が中央で一つとなり二回の廊下へとつながっている。二階も一階と同様に廊下が奥へと伸びている。床や手すり、あらゆる箇所に使われた木材のほこりをかぶったような臭いが長い年月を感じさせた。

「誰もいないわね。一部屋ずつ調べるわよ」

「これ映画みたいだぜ」

 光成がはしゃぎながら一人で階段を上りだす。

「待って。下から見――」

「どっちからでも一緒だろ?」

 御影が言い終わる前に光成はそう言って上の廊下まであがりこちらを手すり上から見下ろしていた。

 御影は話を聞こうとしない光成に折れたようで、やれやれと階段を上りだした。

「しかたないわね。私と光成で前に進むから、二人は念の為に後ろを頼むわ」

 俺たちは光成を追って二階の左にある廊下に向かった。

 廊下は二十メートルほど続いており、右手には窓、左手には四つのドアが並んでいた。先に来ていた光成はその右手の窓から下を除いていた。

「すっげぇ中庭だぜ」

 その窓からは彼の言うとおり花や草木に彩られ中央に小さな噴水が設置された中庭が確認できた。中央の噴水は枯れ、水は流れておらず、そこに水を留めているに過ぎなかったが、その手入れのされ方から今現在も誰かが管理し使用しているとしか思えなかった。

「廊下に囲まれるようにできてるのね」

 向かいにはこちらと同じように窓が並んでいる、あれがおそらく右側の廊下の窓であろう。

「いつまでも見てないで部屋を調べるわよ」

「今度は俺が先に入るぜ」

 光成は興味の対象を窓の外から手前の一枚扉に移し、窓辺を離れた。

「ええ、別にかまわないわ」

 御影も窓を離れようとしたが、ふともう一度窓の外へ視線を送っていた。

「どうした?」

「……いえ、なんでもないわ。一応後ろお願いね」

 そんなことを言っている間に光成は勝手に扉を開け部屋へと入ってしまっていた。

「あ、もう。少し待ちなさいよ」

 御影があきらめ口調に注意を促す。

「こんなにすんなり入れてるんだぜ。こんなに静かなんだし誰もいねえって」

 光成は中を確認しながら言う。

「いえ、静か過ぎるのよ。まるで、息を潜めているみたい」

「いないってだけの話だって」

 部屋の中央には八人が着座できる長方形のテーブルとイスが置かれていた。

 御影はテーブルの表面に指をすべらす。

「今も使われてるわ」

 彼女は指先にホコリがまとわり着かないことを確認する。

 その後、三つの部屋を全て調べたが同じようなものであった。

 ただやはり使用感はどうしても否めなかった。

 廊下は突き当たりで右に折れ、反対側の廊下とつながっていた。

 そしてそのつながった部分の中央には横に大きく広がった両開きのドアがあった。

「見る限りここが一番大きな部屋みたいね」

 彼女はドアノブを回す。しかし、鍵がかかっているのだろうか開く様子は無い。

「ちょっと貸してみな」

 光成は御影に変わり少し乱暴にドアを引いたり押したりしてみた。ガタガタというばかりでやはり開くことはない。

 彼女はディノスでなにかしらのアプリを起動させていた。

「なんだそれ?」

「ディノスサーバーの位置を推定してくれるものよ。ある程度接近していないとダメなんだけどこの建物内であれば大丈夫なはずよ」

 彼女のホログラム上に位置情報が表示される。

「やはり、この奥にあるみたいね」

「どうする? ぶちやぶるにもかなり頑丈そうだぜ」

「待って。確かにここにある可能性もあるけど、ここだけとは限らないわ。この推定位置は二次元で表されている。奥行きと幅だけ。高さは無い。つまり?」

 彼女の誘導尋問に俺は答える。

「下にある可能性もあるってことか」

「一応、他の部屋も調べながら下に向かいましょう。そちらに無ければまた考えましょう」

 俺たちは右の廊下の各部屋も調べもとのエントランスへと戻ってきた。

「なんか全部同じような部屋だったな」

「そうね。何に利用されているのかいまいちわからないわね」

 俺たちは階段を下り、一階の廊下へ向かおうとした。

 しかし、御影だけ立ち止まり後ろを向いていた。

 意気揚々と先陣を切る光成とそれをとぼとぼついて行く目黒だけ気づかず廊下へ進んでいく。

「ねえ……ドア開けてたわよね?」

 彼女は俺に問う。

 彼女の視線の先には俺たちが侵入した扉がある。その状態は彼女の記憶と食い違っていたようだった。

 彼女はドアへ近づきノブを掴む。

 しかし、俺たちの悪い予感とは裏腹に扉は何事もなく開いた。

「はあ、また先日のようになるかと思ったぜ」

 俺は安堵のため息をつく。

 御影が用心深く扉を調べるがやはり変わった様子はない。

「風で閉まっただけだろ? 気にすんな。もし敵ならこないだみたいに閉じ込められてる」

 御影は俺の意見を受け入れた。

「ええ……、でもこんな重い扉、風で動くかしら……」

 光成達を追う際も彼女は、しきりに後ろを振り返っては扉を見つめていた。

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