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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The fifth hack
21/26

Part.3 (5)

「装備はいいのか?」

 これから区域内に入るにあたって彼女は特に何かを装備しようとはしなかった。

「こんな場所であんな格好したら浮いて浮いてしようがないじゃない」

 放課後集まった後ここまで歩いてきたゆえに、もう下校中の学生は少ない。といっても、一般人も通るかもしれないこの道をそんな格好で通ることはできない。俺たちは何の武装もせず(御影だけは例によってスカートの下に銃を潜ませているようだった)ごく自然なよう振る舞い進んだ。

 いくつか角を曲がった時、御影はぼそりと口元だけを動かした。

「みんな、適当に私の話に合わせて」

「は?」

 そういったかどうかはっきり確認する間もなく、今度は対照的にこちらに振り向き、手を後ろで組んで、そのままこちらを見上げるように後ろ歩きしだすと同時に言い放った。

「ねえ、私こんなに遠いだなんて思わなかった。聞いてないわよ」

 それは相手に対する非難というよりはすねたような口ぶりだった。

 俺は突然投げかけられた意味不明な苦情にわけがわからなくなる。

 しかし、その口調とは対照的な彼女の表情が意図することで、なんとなくこの状況を整理することができた。

 彼女の目は発言とは関係なく、彼女の背面、つまり俺たちの前方に注意を向けろといわんばかりに視線を後方へ流し、小さく首をそちらに振った。

 俺も視線だけそちらに向けると、向かいから一人でこちらに向かって歩いてくる人物がいた。

 ローファーにシックなブラウンのスカートを召した女学生。例の女子高の生徒だ。制服もそうだが彼女自身の歩き方やその落ち着いた雰囲気がより一層上品さを高めていた。俺や光成はおそらく一生お近づきになれないであろう。そんな俺たちハッカー風情とは違ったオーラを放っていた。

「確かに安い店を探してとは頼んだけど、こんな遠くの店にすることないじゃない?!」

 俺が少し女学生に注意を払いすぎている間、御影は光成に言い寄っていた。

「だって、お前がとにかく安けりゃいいっていったじゃん」

「それはそうだけど。近辺でってことに決まってるじゃない」

「知ったことか。そんなにいうならお前が選べば良かったんだ」

 御影と光成の名演技はここからさらに加速する。

「店探しならまかせとけっていったのは誰よ?! そーいったから頼んだんでしょ」

 俺もここで加わる。

「まあまあ、もとはお前の役割だったわけだし……」

「え、なに私が悪いっていうの?」

「いや、そーとまでは……」

「あんた帰りアイスおごりなさいよ」

 御影はびしりと俺を指差す。そしてそんな俺たちの横を女学生はこちらに注意を向けるともなくすれ違っていく。

「なんだよそりゃ」

「だそうだ。買ってやれよ」

 光成が横から口をはさむ。

「いや、お前が怒られてた話だろ」

 と、ここまで演じきったところで、女学生は後ろの角を曲がって見えなくなった。

「うまくごまかせたんじゃねえか」

 光成が元のように喋りのトーンを落とす。

「突然何かと思ったが、確かにこんなとこを距離の離れた他校の生徒が集団で、しかもみんな無言で歩いてたらなおさら怪しいしな。しかし、別にあの子に怪しまれたって問題はないんじゃないか?」

「私たちと敵対しない無関係の人であろうとも、それに怪しまれては敵に存在を悟られやすくなるでしょ。なるべく同化する、それが無理ならこの場に居ることに対する妥当性を高めるべきよ」

「それはそうと……お前かなりの演技派だな」

「そうかしら、誰しもあんなもんじゃないかしら?」

 演技の時の表情はどこへやら、彼女は涼しい顔でそう言った。

 いや、目黒は一言すら喋ってなかったが、……まあ彼女は彼女で標準とは逆の意味で遠いだろうが。

「また誰かきたらこんな感じでよろしく」

 そして俺たちは後にすれ違った買い物帰りのマダムとカートを引いたお婆さんそれぞれを御影主演の演目「放課後の買出し中にもめる調理部」でやり過ごし目的地の見える角についた。

「あの中にサーバーがあるわ」

「なあ、さっきの婆さんに対してする必要なかったんじゃねえのか?」

「もう、それは終わったの。今はこっちみなさい」

 俺は角から彼女の指すほうを覗く。

「あの建物にか?」

「ええ、あの建物に――」

 言葉半分に彼女は突然後ろを振り返った。

「どうした?」

 俺も後ろ振り返るが誰も居ないT字路だけがそこにあった。

「……いえなんでもないわ。続けるわよ」

 サーバーの周辺は不自然なほど静かだった。

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