Part.2 (5)
御影の示す地点を確認した光成は、納得いかないような顔で言う。
「ちょっと待て。俺が買い物でここを通ったときサーバーに不具合があるようには思えなかったぜ。電話もメールもできたはずだ」
「そう。なんら問題はないわ、私たちが通常使用する分にはね。だけど、この地区でハッキング用のツールでサーバーにアクセスを試みるとシャットアウトされ、それからしばらくサーバーから拒否されてしまう。これは正常なサーバーでは起こりえない。誰かが作為的にこのサーバーを操作している証拠よ」
「それは南高の奴らの仕業ではないと?」
「目で見たわけじゃないから絶対とは言い切れないけど、彼らであるはずがないわ。彼らの行う悪質なサーバー操作が見られない。光成が言ったように通常の使用に関しては何の不具合もないわ」
「じゃあ、奴らでないとしたら誰だ? 第一その操作は何の為に?」
「無数にいるハッカーの誰がやっているか私にはわからないわ。確かに不可解な操作だけど、ハッキングした人物が望めば明日にでも通信不能などの事態に陥るわ。そういう危険分子は早いうちに確かめておいたほうがいいんじゃないかしら? 当面はやることもないわけだし」
「ま、俺は退屈しのぎだったらなんでもいいさ。しかし、こんな場所にもハッカーが出るようになったのか」
光成の言う「こんな場所」。それは気品溢れる私立女子高と閑静な住宅街のあるサーバーの管理地区を指している。
今までハッキングしてきたサーバーは、陰気な雰囲気が漂ういかにもハッカー達に好まれそうな場所にあった。しかし、今回サーバーのある場所はおよそそんな雰囲気が漂うことなど想像するにできない場所だ。
南高の奴らでないとしてもそのような場所にハッカーがいるなど俺にもあまり納得のいかないことであった。
放課後、屋上に集められた俺たちはこのようなやりとりのあと、すぐさまそのサーバーに向けて歩き出した。
「歩きだと結構遠いよなぁ。……待てよ、確かあそこに」
橋の近くに差し掛かった頃、最後尾を退屈そうに歩いていた光成が突然俺たちを離れ橋の下へと向かいだした。
「どこへ行くの?」
それに気づいた御影が呼び止める。
「ちょっと待ってな」
彼はそういうと橋の下へと入っていった。
そして、すぐに彼が橋の下から出てきた。
しかし、両手はボディのところどころがさび付いた自転車を引いていた。
「遠いんだし。チャリ乗ってこうぜ」
俺たちの元にに戻ってきた彼は言う。
彼が持ってきたのは橋の下に長らく放置されていた自転車であった。
「却下ね」
しかし御影は以外にもあっさり切り捨ててしまった。
「そんなもの持ってたら足がつくわ。止めてあったらハッキングしにきました、もしくは今サーバー防衛中ですって言うようなものじゃない。大半のハッカーが自転車を移動手段として利用しないのはそういう理由なわけ」
「確かにチャリ乗ってるハッカーなんて見たことねえな。ま、これは俺が個人的に使わせてもらうさ」
「おいおい」
そういって彼は自転車を再度橋の下に持って行きサドルを利用しきちんと駐車していた。
道中俺は彼女の話していたネットワークのことについて詳しく聞いてみた。
「御影、敵がそういうネットワークを構築しているなら俺たちもできるってことだよな?」
彼女は横に並んだ俺に目をくばることもなく、前を向いたまま俺に答える。
「ええ、もう既に手にした四つのサーバーでネットワークを構築しているわ。技術的な面に関しては私も詳しくないから目黒さんに頼んでいるんだけど」
「てことは、敵の攻撃を心配しなくてもいいサーバーもあるのか?」
「今は橋の下にあるサーバーを中枢においているからそこが一番セキュリティが高いことにはなるけど、四つをつないだだけでは正直効果は薄いわ」
「じゃあ、まだそれぞれのサーバーに気をかけていなければならないか」
「でももし今日五つ目を手に入れられれば、他のサーバーから駆けつける間、敵のハッキングを防ぐことができるセキュリティに増強できるかもしれないわ。そうすれば今末端にしている港、そして路地裏のサーバーを中心に守ることができるわね」
彼女が今日新たなサーバーを調査しに行くのはそういう理由もあったようだ。
「あと、今思えば橋の下のサーバーといい港のサーバーといい別にハッキングするのに対して苦労しなかったが、あれは敵の末端のサーバーだったってことだよな?」
「ええ、だから攻め入ったに決まってるじゃない」
「お前、よく末端だってわかったな」
「あの二つのサーバーは比較的新しく彼らにハッキングされたものだからネットワークの中枢には持ってこないと思ったのよ。あと、配置された敵の様子ね。あきらかに下っ端だったもの」
「しかしそれって憶測だよな……、もし違ってたらどうなってたことか」
「結果成功してるんだからいいでしょ? さて、ここから管理区域内よ」
町の中心部を抜け俺たちは区画整理された住宅街に足を踏み入れた。