Part.4 (4)
一斉につけられた蛍光灯の光。その光は俺の視力を著しく奪った。
俺は御影に言われた通り、机の間に身を沈める。
パチパチと周りから音がする。
俺は今敵から撃たれている。
しかし、敵が見えない以上どちらに這って逃げればいいものかもわからない。
俺には四方八方に向け発砲することぐらいしかできなかった。
そんな時、ガシャンとおおきな音がたち、敵の発砲が止まった。
「こっちよ」
しだいに周りのものが見えるようになった時、御影は俺の腕を取り、机の影に引きずり寄せた。
「敵は……どこだ?」
「見えるなら応戦して」
彼女はこの机の上へ顔を出し発砲した。
俺も彼女と同じ方向へ銃を打ち込んだ。
この部屋から伸びる通路の向こうに敵が三人居た。彼らは絶え間なくこちらに弾を撃ち続けてきている。
もしこちらに接近されでもすれば少数のこちらに圧倒的に不利だ。
しかし幸いなことに、通路の入り口におおきなロッカーが倒れており、バリケードの役目をはたしていた。
俺と御影は机に身を隠しながら発砲し続けた。
互いに撃ち合えども当たらない。戦闘が膠着しつつあるそんな時、御影は言った。
「私が合図するまで撃つのをやめて」
「牽制しないと敵がこちらに近づいてくるぞ」
「いいから」
これまで彼女の策略の成果を考え、俺はどんな案かはわからないが彼女に従ってみることにした。
といっても、それはたった五秒ほどの時間だったかもしれない。
がたりという物音がするやいなや、彼女は「今、撃って」と囁いた。
俺と彼女は机から身を乗り出し、ロッカーを乗り越えようとしていた敵に発砲した。
乱暴に叩き込んだ弾は二人に被弾したようだった。
「引き上げだ」
最後尾にいた奴がそう言い。彼らは通路の奥にある階段へと逃げていった。
御影は彼らを追おうとはしなかった。
「追わないのか?」
彼女は銃を持った手をくたりとぶら下げる。
「あの状況で被害無しで退却させたのよ。十分よ」
そう言いながら彼女は少し顔をしかめ、左肩を右手で包むようにさすった。
「どうした? ぶつけたのか」
「そりゃあれだけのものに体当たりしたのよ。痛いに決まってるじゃない」
あれとはどうやら通路を塞ぐ倒れたロッカーのようだった。
つまり俺の聞いたガシャンという音は御影によってロッカーが倒される音だったらしい。
「敵の侵入を防ぐにはこれくらいしか思いつかなかったわ。二手に分かれていたのが幸いね」
「すまない、助かった。肩大丈夫か?」
「ええ、たぶん」
「一応俺が銃は持っとくよ」
「そういえば、見つけたファイルは?」
俺は発見したファイルを彼女に送信した。
彼女はそのファイルを調べる。
「サイズがゼロ……やはりダミーね。とにかく上も見ましょう」
彼女からぶら下がる左手の銃を俺は受けとり、床に倒れたロッカーを起こし、警戒しながら階段へ向かった。
ビル内の蛍光灯はすべてつけられているようで階段も明るかった。俺が先導でその先に敵がいないことを確認し、五階へと上がる。
五階へと上がると横手にある非常階段の扉が開いていた。
どうやら敵はここから逃げていったようだ。
部屋には誰もいなくポツンとサーバーだけが設置されている。
御影はサーバーへDiosでハックを試みる。
「……何にも残ってないわ。もはや完全に私たちにがここにくるだろうと踏んで罠にはめられたわけね」
俺は盛大にため息をつき、その場にへたり込んだ。
全く、俺にしても御影にしても今日は大変な骨折り損だ。罠にはめられるだけにきてしまったことになってしまう。すげぇ、間抜けじゃないか。今頃的の総司令官様はご満悦だろう。
「まあとりあえず、このサーバーは私たちのものに……」
珍しくしょげた顔をした御影がホログラムに釘付けになっていた。
「このサーバーどこかからコンタクトをかけられているわ」
「は? なんだそりゃ」
彼女の口調が少しばかし興奮しているのか早くなった。
「敵はこのサーバーのデータは全て消したけど、それ以外を見落としていたのよ」
「それ以外って何さ?」
彼女は俺の質問に逐一答える気はないようだった。
「とにかく、サーバーをハックして帰るわよ。目黒さんに分析を頼むわ」
俺は彼女の荷物一式を抱え、急いたように歩く彼女を追って町へと戻っていった。