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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The third hack
14/26

Part.5 (3)

 立て続けに響いた銃声。

 ひとつは俺のゴーグルにあたりはじけ飛んだ。

 その時、俺はまだ引き金さえ引けていなかった。

 くそっ、やられた。

「動かないで」

 御影は男の後ろに立ち、彼の後頭部に銃を突きつけた。

 何故か、男は攻撃をやめ固まった。

「銃を捨てなさい。今ならまだ間に合うわ。それとも、もう一発くらいたい?」

 御影の言葉を聞いた男は、苦い顔をしながら手に構えた銃を離し、両手を天に向けた。

 御影は地面に落ちた銃を俺の足元へ蹴飛ばした。

「おとなしく座ってなさい」

 御影は銃を突きつけたまま、男に促す。男は手を上げたままその場へ座り込む。

『ハッキング成功……』

 その時目黒がそうつぶやいた。そしてすぐさま御影は告げた。

『光成、表に出て存分にいたぶってちょうだい』

 先ほどまで、無線から響いていた銃声がひとつも聞こえなかった。

『よっしゃ! さあて、鬱憤ばらしといくか』

「目黒さん、彼を見張っておいて。望月、時間がない、着いてきて」

 彼女はそういって光成がいる通路へと向かい走り始めた。

 俺は後を追いながら訊く。

「御影、俺はもう……」

「大丈夫よ」

 彼女はしっかりとそういった。

 俺はちらとディノスを確認する。きちんと動作しているようだし、よく考えれば無線だって聞こえている。しかし、俺はさきほど確かに撃たれたのだが……

 そんなことを思案している間に、俺たちはたどりついた。

 通路の真ん中に光成がいる。

 そして手前には先ほどとは逆に敵が物陰に身を隠そうと右往左往している。しかし、この通路には身を隠す場所はない。

「撃って」

 俺と御影は通路の端に立ち、その銃口を彼らに向け引いた。

 もはや攻撃の手段を持たない彼らをしとめるのに、俺たちの非力なハンドガンは十分過ぎた。

 ひとり、ふたり、その逃げ惑う背中に弾が直撃していく。

 彼らはもはや統制を失い、各々が弾から逃れることばかりに苦心していた。

「やめてくれ!」

 一人男がそう叫んだ。

 御影は発砲をやめた。しかし、銃口は彼らを捉えたままだ。

 そして、俺の前に手をかざし攻撃をやめるよう指示した。

『二人とも、撃つのをやめて』

『なんだよ、今仕留めないでどうする?』

 光成がつまらなそうに言う。

『いいから』

 御影はゆっくりと彼らに向かって歩き始めた。

「全員手をあげて」

 銃で一人一人を威嚇しながら彼らを取り仕切る男の目の前で立ち止まる。

 男は御影に言う。

「俺たちの負けだ。ここはくれてやる。だからこれ以上の攻撃はやめてくれ」

 御影はすぐには答えを返さなかった。

 そのため、男はいつまでも向けられた銃口におののいてばかりいた。

「そうね……」

 彼女はもったいぶったように言う。

「私はサーバーさえ手に入れば、あなた達のことなんてどうだっていいの。……今後のことを考えてここで芽を摘んでおくのもいいかもしれないわね」

 彼女はかちゃりと銃を構えなおす。

 男はびくりと身をこわばらせ、腕で顔を覆う。

「でも、それよりも私は情報が欲しいの。これ以上損害を大きくしたくないなら私の言うことを聞いて」

 彼は腕の置くから顔を覗かせ聞く。

「どうすればいい?」

「サーバーに全員集めて。あっちでこそこそしてる彼らもね」

 通路の置くの方でこちらを覗く数人がいた。おそらく外から通路に侵入した奴らだ。攻撃はできなくなるし、逃げようにも仲間は取り残されるでにっちもさっちもいかなくなってあそこで様子を伺っているのだろう。

「少しでも変なマネしたら、どうなってもしらないわよ」

 彼女は彼らを順々に銃口でなめ警告した。

 男が仲間に立つように促す。

 彼らはサーバーの前に座らされた。

 先ほど目黒に見張られていたのを含め九人。

「あなた達、見たところ南校のグループね?」

 彼らは橋のサーバーをハックしていた奴らと同じく南校の制服を着ていた。

「……あぁ」

 男が仕方なさそうに答えた。

「リーダーと他のメンバーはどこにいるの? 私の知る限りここにいるメンバーはほんの一部に過ぎないはずよ」

「それは知らない」

「……光成」

 彼女は光成にアイコンタクトをとる。

 光成は装てんしなおしたサブマシンガンを彼らに向ける。

 男は急に早口になって話し始めた。

「待ってくれ! 本当に知らないんだ。俺達は指示されてここに来ただけで他のやつらがどこにいるかは知らない」

 御影が光成に銃を下ろすよう合図する。

「それはどういうこと? 詳しく聞かせて」

「各サーバー担当のハッカーと上層部との連絡は伝令を通して行われる。ディノスによる通信だってそうだ。だから、俺達は直接リーダーと行動をともにすることもないし、他のメンバーがどこにいるかも知らない。一度他のメンバーの居場所を伝令に聞いたこともあるが、それは教えてもらえなかった」

「あなたはリーダーと会ったことがあるの?」

「一度だけ、ハッカーになった時、その時会ったことがある。それきり会ったことはない」

「その場所はどこ?」

「街はずれにある廃ビルのサーバーだ」

 御影はうろうろと彼の前を歩く。そして立ち止まって言う。

「そう、あなたの話でいくとこれ以上聞けそうなことはないわね。いいわ。全員このまま返してあげるわ。わかったら早く行って頂戴」

 彼らは手を後頭部につけたまま、立ち上がる。

「光成、彼らを表まで送って」

 光成が彼らに銃を向け、「早く行け」と指示する。

「あ、そうそうこれ」

 歩き出そうとする彼らに彼女はあるものを投げ渡した。

「忘れ物よ」

 それは彼らが先ほどまで使っていた銃だった。俺がそれを全て回収し御影に渡したのだ。

 反射的にそれをキャッチしたハッカー達はまさかというような顔でこちらをみる。

「ロックをかけておいたから一週間は使えないわよ。それまではみんなで大人しく家でゲームでもしてることね」

 そういえば先ほど御影が目黒に銃をわたし、目黒が何かをほどこしているようだったが、このことだったのだろう。

 去っていく後姿に彼女は言い放った。

「伝令には、こう伝えときなさい。もうこの場所に手は出さないこと、とね」

 彼らは通路は消えていった。

 彼女はひょいと近くに積まれた鉄骨に座る。そしてゴーグルをはずす。

「さて、目黒さん。残りのハッキング頼んだわよ」

 目黒がサーバーの前で操作し始める。

「御影、どうして俺は無事だったんだ?」

「え? なんのこと?」

 質問が唐突だった為か、彼女は変な顔をしてこちらを見る。

「ほら、敵がさ、急に一人やってきた時さ。俺、あの時確かに撃たれたんだ。ここをさ」

 俺はゴーグルを指差していう。

「ああ、あれね。その弾にはもうウイルスが添付されてなかったのよ」

「つまり、どういうことだ?」

「敵があなたを打つ前に私が彼を撃ったのよ。だから彼のディノスにはもう攻撃する余力は残ってなかったのよ」

 そういえば、銃声は二回聞こえたんだ。その一つ目は俺に当てられたのではなく、敵に当てられたものだったのか。

「にしても、アイツは通路の途中に居たはずなのに、どうして俺達が通った時は居なかったんだ?」

「あれは、正直言って賭けだったわ。彼はあそこを離れないように仲間から指示されていたはず。だから彼を動かすには何か外的な要因が必要だった。だから彼の気を引くため発砲したの。思惑どうり彼が動いてくれたから良かったものの、もしあれに気づかずあの場に留まられていたらどうなっていたかわからないわ」

「とっさによく考えたな。だから通路の方を警戒してたのか」

「だから、あなたがやられずにすんだんじゃない」

「それは感謝しないといけないな。どーもありがとごさーやした」

 男というものはあんまりこういうとき真剣さというものを相手に汲み取られるのが苦手である。おそらく俺の心のこもらない棒読み言葉はそんなものから発せられたのだと思う。

 彼女はそれを聞いて、一つため息した。

「そんなのいらない。てか、あなたに期待してない」

「言うと思った」

 互いがわかりきったような返事にほくそ笑む。

「今日の立役者のお帰りだぜ」

 そこへ光成がぷらぷらと銃をぶら下げて帰ってきた。

「彼らは?」

「全員しょぼーんと帰ってったぜ」

「これで私達の存在が彼ら全体に知れ渡るのは必至ね」

 彼女はすたと立ち上がった。

「みんなお疲れさま。特に光成、初めての作戦でこの状況の中よくやってくれたわ」

「沙織、気にするな。これはツケにしといてやるから、今度返してくればオーケーだ」

 光成が意地悪そうに言う。

「はいはい、考えとくわ」

 彼女は少し笑いながらも涼しさを装った。

「あの……終わりました」

 目黒が御影に話しかける。

「早かったわね。それじゃあ、今日はこのまま解散していいわ。おつかれ」

 空は赤みを増し、金色に輝く海にカモメが円を描いて飛んでいた。

 俺は思い出した。

「おい、前やったディノスの登録はいいのか?」

 今までサーバーをハックした際は、サーバーに俺達のディノスを認証させていたはずだ。

「それなら不要よ。目黒さんに頼んでそれももう済ませてあるから」

 目黒はこくりと首をうった。

「わたし、帰ります……」

 そう呟くととぼとぼ歩き帰り出した。

「また連絡を入れるわ」

 御影が彼女の背中に声をかける。

 未だに目黒のことはよくわからない。一体何がしたくて御影に使われているのだろうか。しかし、御影の言うとおり彼女の技術は確かに目を見張るものがあるのは事実だ。今回だって一番活躍は光成だろうが、彼女の技術なしに成功し得るものでもなかっただろう。

「じゃ、俺は家帰って寝るぜ。なんか疲れたわ」

「結構よ。これからのことは望月を通してでも伝えるから」

「んじゃ」

 去る光成に彼女は手を振る。

「さて、俺も帰るかな」

 俺が光成の後を追おうとした時だった。

「ちょっと待って」

 御影が止める。

「なんだよ?」

「今回の作戦で弾を使い果たしたの。今からそれを買いにいくからあなた着いてきてよ」

「何で俺なんだよ」

 こんなことを言っているが、内心そこまで嫌でもない自分がいた。ただ、それが何故かはよくわからなかった。

「今回あなたが一番働けてないからよ」

「相変わらず手厳しいな」

「ほら、行くわよ」


 俺達は置いてきた荷物を取りにあの場所へ戻った。

「彼、手ぶらで帰ったのかしら」

 そこには俺と御影の鞄の他に光成の鞄も置かれたままであった。

「あいつのことだ。明日登校するまで気づかないだろうな」

「あなた、届けてあげたら?」

「言われなくても」

 俺は鞄を二つ抱え、彼女について歩いた。

 彼女は街の少しはずれの建物がまばらになり始めたあたりにあるホビー屋の前で足を止めた。

「ここよ」

 店の中に入るがレジスターのあるとこに店員らしき人がいない。

「いいのか? 誰もいないが」

「いいの、いいの。いつもこうだから」

 彼女は店の奥へと足を進める。

 奥といっても店は小さく。十歩もあれば一番奥までいけてしまいそうである。ホビー屋といっても子供がくるような明るさはなく、照明が十分にいきわたらないので薄暗く、壁際につまれたプラモデルの箱などには薄く埃が積もっていた。目新しい玩具が表に少し置かれているだけで、大半は一昔前のものばかりである。

 彼女は店の隅にあるエアガン等が置かれた場所で立ち止まり、商品を見渡していた。

「あ、これ。俺達が使ってるゴーグルじゃん」

 それはその中に並べられていた。

「そうね。型はこれと一緒よ。ここには置いてないけどこれに無線機能を付加したものを使用してるわ」

「思ったんだけどな、ゴーグルである必要あるか? 無線機だけで売ってるだろ」

「なに言ってるの、あなた今日世話になったばっかりじゃない。それにこれを見なさいよ」

 彼女は近くにあったエアガンの箱をとると、その裏面の表示を指さして言う。

「『エアソフトガンで遊ぶ際は安全のためゴーグルを使用してください』ってここに書いてあるでしょ。私達はいい年なんだから小さな子供達の模範にならなくちゃいけないわよね」

 彼女はわざとらしくそう真面目ぶった。

 いやいや、ハッカーやってるって時点で模範とかそんなこというレベルじゃないし。

「それはごもっともで」

 だから俺も真面目ぶってそう返した。

「うふふ」

 そんな風に彼女は笑った。

 ほんとうに時たま茶目っ気溢れる冗談言うを彼女。

 その時、彼女は確かに女の子だった。

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