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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The third hack
11/26

Part.2 (3)

「どうして俺だけなんだよ?」

 帰り道の途中突然御影から『橋のサーバーに来て』とメールが届いた。それは俺だけにあてられたものだった。

「今日は偵察。四人でうろうろしてると目立つじゃない」

「それはそうだが、別に俺じゃなくとも――」

「行くわよ」

 彼女は勝手に歩きだした。

 俺も後を追う。

「武器は?」

 俺は事前に何も聞いていなかったので武器の類は家に置いてきてしまったのだ。

「いらないわ。別に倒しにいくわけではないもの。その代わりこれ」

 彼女がそういって差し出したのは双眼鏡だった。

「あなた持って置いて」

 俺はそれを受け取りカバンにしまった。

「なんでまたこんなものを。見つからないように近づけばいいんじゃないか?」

「初めに戦った奴らは南校の中でも下っ端。だから、近づいて盗み聞きなんてことが可能だった。でもこの港いる奴らはそこまでアホじゃないわ。敵の接近を察知するプログラムを組んでいるはずよ。例え目や耳に捉えられないように行動しても、目黒さんのようにこちらの存在を掴むことが可能だと思われるわ。だからサーバーに近寄っての偵察は不可能なの」

「しかし、入り組んだ場所だって言ってたよな。そんなところ遠くから見えるのか?」

「横からでは厳しいでしょうけど、上からならある程度わかるかもしれない。あてがあるの、今からそこに行くわ」

 御影と俺は川沿いに海に向かって歩き続けた。

 そして河口付近の端を渡り、港までやってきた。

 この一帯は工業製品を輸送するタンカーが寄港することもあり、大きな港になっている。

 何棟かの資材格納庫が立ち並ぶ、その横の方に問題のサーバーはあるのだ。

 御影はある格納庫の前にくると立ち止まった。そして周りを見渡した。

 この一帯は人がほとんどいない、あるのはコンテナばかりだ。

「望月、はやく」

 彼女は誰もいないことを確認したのか、格納庫の横についている鉄階段をのぼりはじめた。その階段の入口には『立ち入り禁止』と言う札が朽ちて切れたロープと共に落ちていた。

 階段をのぼりきると外壁を沿って通路が向うまで伸びている。高さ約十五メートルくらい、柵は簡素なもので足を滑らせると隙間から落ちてしまいそうだ。

 彼女はもう一番端まで辿り着いていた。

「何やってるの? こっちへ」

 俺もそこへ向かった。歩くたびにカツカツと音が響く。

「あそこ。双眼鏡で見て」

 彼女の指さす五百メートル先には無造作に資材の置かれた場所が。

 俺はカバンから双眼鏡を取り出し、そのほうを覗いてみた。

 様々なものが置かれており、サーバーの場所がなかなか見つからない。おまけにこの角度からでは通路がどのように通っているのかもわからない。確かに御影の言う通り待ち伏せにはぴたっりの場所かもしれない。

「どこに目をつけてるの? もっと右の方よ」

 俺はそちらにレンズを向けた。

 居た。人らしきものが資材の隙間からみえる。サーバーは近くにないようだ。数は見えてるだけだと三人。しかし、まだ居そうだ。

「どう?」

「三人確認できる」

「まだ居るはずよ」

「でも良く見えないんだ」

「もう、貸しなさいよ」

 彼女は俺から強引に双眼鏡を奪い取った。突然に視野が開け、大量の光が俺の目に飛び込む。

 御影はしばらく覗き込みこう言った。

「六から八。それくらいは見積もっておいた方がいいわね」

「どうしてそう断定できる?」

「もう一度見て」

 彼女は俺に双眼鏡を差し出した。俺はさっきと同じところを覗き込む。

 さっきと同じように三人の姿だけが映った。

 御影は俺にこう説明した。

「よく見て。サーバーに通じる大きな通路は見た限り二つあるわ。そして今見える彼ら三人はその片方の通路にいる。もし私があのサーバーを守るのならもう片方の通路側を手薄にしたりはしないわ」

 三人がたむろするその奥にサーバーを見つけた。サーバーの近くには誰もいないように見える。

「そう考えるともう片方の通路にも誰かを配置しているはず。そして配置している人数はおそらく同様に三、四人。もし、一人だけ配置するのなら今見えている通路だって一人にしてあとのメンバーはサーバーの前にいるはずだもの。でも、サーバーには誰もいないように見える。つまり、敵は勢力を左右の通路に二分して配置していると思われるわ」

 俺は双眼鏡を下ろし彼女に訊いた。

「なぜ、奴らはそんなことを?」

「おそらく、最近の私達の行動がそろそろ他のハッカー連中にも知れ始めている。私達、新しい勢力の登場に対して奴らは守りを一層固めているんでしょう。あの配置であればどちらの通路から攻め込まれてもすぐさま戦闘態勢に入れるわ。おまけにもう片方の部隊が救援に向かえば挟み打ちも可能ね。何も考えず入ると痛い目みそうね」

「じゃあ、俺達はどうすれば?」

「大丈夫。彼らが通路に勢力を二分し、サーバーには人を置いていない。ここにつけいる隙があるわ」

「というと?」

「さっきも言った通り奴らは通路に敵が入ればそれを取り囲もうと片方の通路の部隊は救援に行くはず。その時サーバーまで通路はがら空きになる。ここが狙い目よ。まず、誰かがオトリとなって片方の通路に飛び込む。そして敵をひきつけている間、もう片方の通路からサーバーに向かう。そしてそのサーバーにウイルスを送ってやる。敵が混乱している間にサーバー側から敵のいる通路に入り、背後から攻撃する。ざっとこんな感じかしら」

「なるほど、しかしまたオトリがいるのか……」

「心配しなくて良いわ。あなたにはその面で期待していないから」

「……それは、助かるよ」

 どうやらオトリ役ではないようだが、どうも嬉しくない。

 その後しばらく俺は奴らの監視をさせられた。

 御影は隣で座り込み、ディノスで何かをしていた。

「何やってんだ?」

「これ? 今回の作戦の説明を口でするのはややこしいわ。だからブリーフィング用のスライドを作っているの」

 よく見れば彼女が操作しているのはプレゼンテーションなどに利用されるソフトであった。マップや各人の動きなどを書き込んでいた。

「それより、ちゃんと見てる?」

「ああ、まかせとけ」

 とは言ったが、敵に変わった様子もなく俺は見ているふりばかりしていた。

 日が落ち始め、空が次第に赤みがかっていく。

 突然、俺は御影にあの事を訊いた。

「お前、転校生か?」

 彼女ははっとこちらを見上げた。

「………」

 彼女は答えなかった。

 そして、ゆっくりと目を伏せた。

 質問が理解されてないのかと思った俺は、もう一度言い方を変えて訊いた。

「いや、お前が入学当初からいるなら去年までに一度くらいお目にかかっていてもおかしくないと思ってな。でも、見たことはなかったし、今年A組に転校生が来たと話に聞いてたんだ。だからお前がその転校生なのかな、とね」

 彼女は俺から目を伏せて答えた。

「……そうよ……」

 ばつの悪そうな言い方であった。

「で、どこから来た――」

「ねぇ、帰りましょう」

 俺の質問から逃げるように彼女はすたっと立ち上がって階段の方へ歩き始めた。

「お、おい。待てよ。偵察はもういいのかよ?」

 彼女はこちらを振り向きもせずに言った。

「ええ、もう十分よ」

 俺は双眼鏡をカバンにしまいながら彼女の後を追った。

 階段を降り、倉庫街の道をとぼとぼ歩いている彼女に追いついた。

 俺が横に並んでも彼女はこちらにかまわず前を向いたまま歩いた。

 彼女は少し先の地面をじっとみるように少しうつむいていた。

 揺れる髪の毛から、焦点のあっていないような目が垣間見えた。

 それは、彼女にとって触れられたくないことだったのだろうか。

 俺は、このこじれてしまった空気を変えるために言った。

「なあ、もしオトリ使うのなら、光成にしてくれよ。あいつの方が長持ちすると思うぜ」

 こんな自虐交じりの言葉に彼女は彼女らしく「あたりまえよ。あなたじゃ役に立たなかったじゃない」なんて返してくれた。でも、その語気はどうにも弱弱しくて、依然として彼女の眼はどこを見ているのかわからなかった。

 その後も俺はあの話題を極力避けて話してみた。

 帰ってくる言葉は確かに彼女らしいものであった。

 しかし、やはり彼女の心はどこかべつのところにあるように感じた。

 全て上の空で受け答えされているようだった。

「それじゃあ、また連絡するから」

 市街地に戻り、線路にかかる陸橋の上で彼女はそういった。

「ああ」

 そして彼女は俺が降りる反対側へと降りて行った。

 別れ際、彼女は俺と目を合わせることをしなかった。

 考えすぎなのか、それが意図的であったよう感じた。

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