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Hack Revolution  作者: 川瀬時彦
The third hack
10/26

Part.1 (3)

「さて、みんな集まったわね」

 俺が屋上に向かうと、すでに他のメンバー揃っていた。

「今までは私と望月だけだったから奇襲作戦しかとれなかったけど、人数も増えて小規模程度なら正面からでも戦えるようになったわ。そこで今回は港のサーバーをハックしにいくわ」

 壁際に腰掛けていた光成が言う。

「港のサーバー? 俺はあそこにサーバーがあるのを見たことないぜ。一体、どこなんだよ?」

 光成の質問に御影は『どう答えたものか』とでもいう顔をした。

 そして「ちょっと待って」と言い自らのディノスを操作し始めた。

 すると、俺のディノスのウインドウが独りでに立ち上がった。そしてそこにはある地図が描かれていた。光成と目黒のディノスにも同様に地図が表示されていた。

「いま、送ったわ。そこがサーバーの場所よ」

 俺はマップを縮小拡大し、果して港のどこなのかを考えた。

「おい、沙織。ここ、資材置き場じゃねえか」

 光成はある程度飲み込めたようだ。

「そのとおり。数年前、そこはまだ開けた広場でサーバーもきちんと管理されていたわ。しかし、近年では管理することを放棄され、必要なくなった広場は資材置き場と化しているわ。おそろくそのサーバーは他のサーバーに比べて利用率が低かったのね。あの場所じゃ無理もないわね。街のサーバーでさえ管理できない政府が早い段階でここを放棄のは不思議な事じゃないわ」

 俺は御影に訊いた。

「すまんが、俺はあまりここに訪れたことがない。どんな場所なんだ?」

「そうね……」御影が言葉を選んでいる中、挟むように返答をしたのは光成だった。

「木材、鉄骨、コンテナ、ドラムカン、と様々なものがところ狭しと置かれてる。地図ではサーバーは資材置き場の奥に位置しているが、とてもそこまで表から見えたもんじゃない。俺が知らなかったのも当然だ」

「まあ、彼の言ってることで大体あってるわ。非常に見通しが悪く、身を隠すところはいくらでもある。つまり待ち伏せにはもってこいの場所ね。一人二人で後先考えず突入すると退路を塞がれて囲まれるおそれもあるわ。今回はその対策を十分にしたうえで攻めにかかるわ」

「対策って、どんな?」

 俺の問いに御影はこう答えた。

「それについてはまだ言えないわ。まだ中途半端なの。しっかりと固まってから話すわ」

「少しぐらい教えてくれよ」光成は言う。

「そうね、彼女、目黒さんの力を借りることになるかもしれないわね」

 御影は目黒の方に目を向けた。

 目黒は前髪越しに御影の目を見据えていた。

「ふーん」

 光成はそう興味なさ気な返事をした。

「じゃあ、また具体的なことが決まったら連絡するわ。各自解散」

 御影の言葉を聞くと、光成はさっさと下へ降りてしまった。目黒も続いて音も立てずにすーっといなくなってしまった。

 俺は、御影に寄り声を抑えて訊いた。

「いいのか? ついこないだまで敵だった奴だぞ――」

 俺はこの前彼女を仲間にしたときといい、御影があまりに目黒に対して無警戒なのを危ぶんでいた。

「――もしかしたら、何か狙っているかもしれない。あいつ自身から歩み寄ってきたのも変だ」

 御影は落ち着いた口調で言った。

「安心して。私はまだあの子を信じちゃいないわ。彼女が変な動きをしていないかどうかいつも注意を払ってる。いい、あなたは同じクラスなんだから彼女の行動をよく見ておいて。もし、何かあったら私に連絡して。分かった?」

「ああ、分かった。しかし、お前も分かっていて何故仲間にした?」

「確かに、彼女には怪しいところが多いわ。しかし、あの力を利用することができれば大きな戦力になるはず。まだまだ私達は人が少ない。大きな相手を撹乱するには彼女の力が必要になるはずよ」

 彼女の力は彼女一人であっても俺達二人を打ち負かそうかというほどのものであり、もし味方になるとすればとても心強いことである。

「それもそうだな。そういえば、光成には目黒へのマークはさせなくていいのか?」

「彼は見た限りそういうの不得意そうだから、……このことは言わないで」

「いつも教室を飛び出していく奴が、目黒ばかり注視してるのは不自然だな。言わないでおくよ」

「わかったなら、早く下に降りなさい。こうしてる間も彼女を野放しにすることになってしまうわ」

「ああ」

 俺はすぐ教室に戻った。

 目黒はいつものようにひっそり机に座っていた。

 この日、俺はそれとなく彼女を見ていたが特にいつもと変わったところは見つけられなかった。というか、あまり彼女の”いつも”というのが実際よく分かっていないのだが……

 帰り道、俺と光成は橋の下のサーバーへ寄った。

 御影より定期的にサーバーをチェックと更新するよう言われたからだ。

「ええと、このアプリを使うんだったよな?」

 光成はサーバーの前で更新の準備をしていた。

「ああ、それだ。あとはそのアイコンをクリックするだけだ」

 彼女によればサーバーにかけられたキーの効力は時間と共に弱くなっていくらしい、そこでこのようにキーの更新をする必要がある。それと、このサーバーを狙う他のハッカー達に対する牽制の意味合いもある。

 俺は気になっていたことを光成に訊いた。

「どうしてお前、あの時助けてくれたんだ?」

 光成は難しい顔をしていた。

「どうして?って言われるとうまく理由は説明できねぇ。とにかくお前達が良くない状況にあることは見ればわかった。するととっさに体が動いたとしか言えねぇな」

「まあ、助かったことに変わりはない。しかし、良いのか? 御影の誘いを飲んでハッカーなんかして」

「俺は各所のサーバーが使えなくて困ってた。管理しない政府も政府だが、それを好き勝手するハッカーにはまして腹が立ったさ。もちろん、お前らも一応その括りに入るわけだから、初めは加担しようなんて思うはずがなかったさ。助けるのもあの場限りのものだと思っていた。でも、沙織は違う。ここと駅裏、どちらのサーバーもあいつがハックしてから正常に動作している。しかも、現存する政府管理下のサーバー以上に安定している。通信障害なんて今日まで一度もない。俺は思うんだ。体たらくな政府にサーバーを管理されるぐらいなら、沙織に全部ハックされてしまう方が良い。だから、俺はお前らに手を貸すって決めたんだ」

『おかしくなったサーバーを私たちの管理下で正常に戻すの』俺の頭に御影の言葉が蘇った。

「全部ハックね……、確かにあいつ当初そんなことを言ってたな」

「それにしても驚いたね。うちの学校にあんなのが居たとは。あの容姿なら学内では誰もが知る存在になれるはずだが。そもそも一年といくらかこの学校にいた俺が、一度も見たこと無いってのはおかしくねえか? あれだけの女、目に留まらないほうがおかしい」

「そうだな。俺も御影がうちの生徒とは知らなかった。学年行事やなんやらで普通一度は目にしても良いはずだ……。そういえば、俺達の学年は去年より一人増えてるよな? もしかしてそういうことか?」

「それだと、A組の奴らの中で話題になっていいはずだが、少なくとも俺はA組連中から沙織の話を聞いたことはない」

「いずれ俺が御影に直接聞いてみるよ」

 光成のディノスから効果音がなる。

「さあ、終わったぜ。早いとこ帰ろうぜ。俺はもう腹が減って仕方ねえんだ」

 俺はここで彼にある頼みをしなければならなかった。

「あぁ、俺も腹が減った。そこで頼みなんだが、今俺の財布は非常に苦しい状態にある。毎度のことなんだが……」

 俺は彼に向かって手を合わせた。

「俺はかまわねえが、ちょっと待ってな」

 光成はディノスから誰かにコールし、手首につけたそれを自らの耳へと押しあてた。

「俺だ。悪いが今日の夕食、もう一人前増やせるか?……じゃあ、いまから帰る」

 彼は歩きだしながら言う。

「OKだ」

「悪いな、恩に着る」

 いつも橋から左に向かうところを右に向かい、彼と一緒に歩いてゆく。

 市街地を抜け古びた商店街、この間目黒と一戦交えた場所を少し行ったところに彼の家はある。

 彼らはアパートの二階に住んでいる。このアパート外から見てもわかるほど老朽化している。

 塗装が剥げてサビだらけのいつ落ちてしまうかわからない鉄階段を上がる。

 踏むたびに錆びて朽ちた鉄片が下にと落ちていく。

 ドアまで進み彼がドアノブに手をかけるが開かない。

「鍵閉めたまんまか」

 彼はそういってポケットの中からいまどきめずらしい鍵を取り出す。俺のアパートですら今はディノスを用いた電子キーが導入されている。

 鍵を開け、扉が開く。

「さあ、入れ」

 俺は靴を脱ぎ「おじゃまします」と言い中にに入る。

 玄関の次はすぐ居間になっている。台所は居間と一緒になっている。

「おい、帰るっていってるんだから鍵ぐらい開けといてくれよ」

 光成はその台所に立つ妹へとそう言った。

「今まで、手が話せなかったんだもん」

「ノブ回すだけじゃねえかよ……」

「あっ、望月さん。私のなんかで良かったら食べてってくださいね」

 麻美ちゃんは制服の上に白いエプロンを着て、……いや、この形状をみるに割烹着と言った方が適切かもしれない。とかく彼女は何かをこしらえていた。

「もちろんだよ。むしろたまにこうやってご馳走になってるのが申し訳ないよ」

「いいんですよ。お兄ちゃんはいつもは帰る時間が不規則で一緒に食べれない事が多いけど、望月さんが来たら三人で食べれるから楽しいし。さあ、そこに座ってください」

 彼女が手を指す方には丸いローテーブルが置かれていた。ちゃぶ台ってやつか?

「ああ、ありがと」

 俺は彼女に勧められ腰を下ろす前に、光成の頭を小突いた。

「痛っ! 何すんだよ?」

「お前は外でぶらぶらせずにさっさと家に帰るよう心がけなよ」

「……わ、分かったよ」

 あぐらをかいて机の前に座る。

 このアパート、床は全て畳、壁も砂壁、部屋の仕切りもふすまだ。窓はさすがにアルミサッシになっているがあとから取り付けたため若干不自然な取り付けである。

 光成がテレビをつける。このテレビ、入居当初からついていたらしいがなんとブラウン管である。ただでさえ大きくないテレビなのに、4対3の画面で16対9の映像を映すので上下に黒帯が入って余計に小さく見える。周りにチューナーらしきものは見られない。以前、「何故写るのか?」と訊いたことがあるが光成いわく、このアパートの大家がチューナで映像を変換した後、そこから各部屋にケーブルで引っ張ってきているそうだ。

「はい、できました」

 麻美ちゃんが俺の前へとドンブリ茶碗を置く。

「おぉ、今日は中華丼か! 具材はどうした?」

 光成はよくやったとばかりに喜んでいるようだった。

「今日は魚屋さんで安く魚介類が買えたし、この前大家さんにもらった野菜も余ってたから」

「おし、いただきやす」

 光成は運ばれてくるなりそうそうドンブリに顔をうずめて食らいついた。

「いただきます」

 俺はアツアツのご飯とその上にかけられたあん、具材のイカやエビをレンゲで持ち上げ、一口に頬り込んだ。

 うん。この子、腕を上げたな。――うまい。

 一年前、まだ料理というものを始めたばかりの頃は恐れんばかりの怪物料理を生み出していた彼女だが、飲み込みが良いのかここ最近めきめきと腕をあげている。今じゃ光成から味についての愚痴を聞くことはなくなった。逆にレパートリーが増えて嫌いな料理まで作り始めたと嘆くことが多くなった。しかし、彼の健康を考えればそれは喜ばしいことだ。

「うん、おいしいよ。ありがとう」

 俺の向かいに座った麻美ちゃんはドンブリでなく普通のお茶碗にそれを盛っていた。

「ありがとうございます。でも、これ味付けはネットからの受け売りなんです」彼女は恥ずかしそうに笑った。

「つい先週までネットに繋がらなかったんだけど、つい先日から繋がるようになったんです。だからこうやってちょっと新しいものにも手を出してみたんです」

「そうか。ここは駅裏のサーバー圏内だったね」

「私は行ったことないからよく分からないけど、調子が悪かったみたいで。お役所の人が直してくれたんですかね」

「いや、あれは役所じゃなく俺達が――」

「おい! 望月それよりちょっとこっちに――」

 俺の言葉をかき消すように光成が大きな声でそういった。そして、右手にレンゲを持ったままの俺を無理やり引っ張って隣の部屋にと連れ込み、耳元で小さく囁いた。

「麻美にはあのことは教えるな」

「どうして?」

「そんなことしてるとバレたらなに言われるかわかったもんじゃない。あいつには政府が直したと勘違いしてもらった方が良いんだ」

 確かに、兄貴がハッカーだなんて知ったらあの子も心配でおちおちしてられないだろう。

「わかったそこは黙っておくよ」

 俺達は素知らぬ顔をして居間に戻り黙々とドンブリに向かった。

 明らかに不思議そうな顔をして麻美ちゃんが訊く。

「どうしたんですか? 急に」

 光成はとっさに答えた。

「大した事じゃねえ。学校の課題についてわからないとこを教えてもらっただけさ」

 こいつもっとうまい言い訳を考えれないのか?

「お、おぅ、何、気にするなよ」

「いや、助かったぜ」

 麻美ちゃんは聞いてはいけないことだと勘ぐってくれたのか、それ以上は訊いてこなかった。

 ご飯を食べてしばらく光成と話それから帰った。

 次の日、俺一人が御影に呼び出された。

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