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婚約破棄謝罪会見

作者: たなか

「この度は、卒業パーティーの際中、私の軽率な判断により、婚約破棄を宣言してしまったことを心から謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」



 会見の冒頭で、アラン王子は記者団に向かって、真摯な態度で深く頭を下げました。しかし、記者の猛攻は勢いを増すばかりです。



「謝って済むような問題じゃないでしょう! そもそもどうして卒業パーティーの真っ最中に婚約破棄をする必要があったのですか! 学園の歴史に泥を塗るつもりだったのではないですか?」



 畳み掛けるような怒涛の質問に、王子は完全にパニックに陥りました。その時、『攻撃は最大の防御』という状況に相応しくない名言が彼の頭を過りました。



「ええっと……それは……そもそも……き、君達だって、お、面白おかしくしたいから聞いているんだろう!?」



「何ですか! その態度は!」



「あっ、間違えた……」



 しどろもどろになっている王子の耳元に、隣に座っている側近のキッチョールが何かを囁きます。残念ながら、高性能のマイクはその小声まで漏らさずしっかり拾っていました。



ひそひそひそ(すみません、動転して)ひそひそ(しまいました)ひそひそ(申し訳ありません)



「すみません、動転してしまいました。申し訳ありません」



 一言一句キッチョールに言われたまま話すアランの姿は、さながら腹話術師の人形のようでした。



「じゃあ、どうしてあの場を選んだんですか! 自分の言葉で説明して下さいよ!」



「それはですね……つまり……」



ひそひそ(頭が真っ白になってし)ひそひそ(まいました)



「キッチョールさん! そのひそひそを止めて下さい!」



 気付かれていないと思ったのか囁き続けるキッチョールでしたが、記者からの指摘を受け、気まずそうに俯きました。



「では、質問を変えます。アラン王子がルイズ男爵令嬢と密かに交際していたとの情報が入ってきていますが、実際はどうなんですか?」



「それは…………」



「あなたには、イザベラ公爵令嬢という婚約者がいらっしゃるではないですか! 彼女に悪いと思わなかったのですか?」



「……私だってねえ! 自由に恋愛したいと思ったらあかんのですか!?」



 声を荒げて突然号泣しはじめるアラン。興奮して方言交じりの話し方になっていきます。



「愛がないならあ゛! だれどぉ結婚しでもぉ! 同じや同じや思てぇ! んあっ! はっはっはっあ゛あん!! ずぅーっと我慢して来たんですわ! せやけどこの政略結婚制度は変われへんからぁ、それやったらぁ私があっ!! ……はぁはぁっ……、真実の愛を見つけでぇ、文字通りぃ! ぅんはぁ゛ん!! 命がけでっへっへっぇぇいあ゛あ゛ん!!!」



「ちょ、ちょっと水を飲んで落ち着かれてはどうですか?」



 激しく嗚咽しながら熱弁を振るうアランの迫力に思わず記者もたじろぎ、少し休憩を取ることを勧めました。



「……すみません……少々取り乱しました……」



「それで、ルイズ男爵令嬢に関しては、隣国のスパイであることを王子が見抜き、通報したということで処分が減刑されたと聞いていますが、どうして彼女の正体が分かったのですか?」



「……まあ……野生の勘が働いたというか……『何か嘘ついてることない?』と聞いてみたら、少し間が空いたんですよね。それがきっかけです」



「……ただ、学園にそうやって他国のスパイが入り込み、王子に接触したということ自体、不用心だと思いませんか?」



「……王都の検問(オウトロック)があるんで……大丈夫だと思います」



 アランの天然発言につい数名の記者が噴き出し、ピりついていた空気が緩みました。



「では、最後に質問というよりお願いなのですが、王子お得意の謎かけをお願いします」



「……整いました……今回の騒動を起こした私自身と掛けまして、片目に眼帯をしている人と解きます」



「ほう……その心は?」



「……当然立太子(立体視)できないでしょう」



「「「おおお!」」」



 秀逸な謎かけに拍手と歓声が巻き起こります。三回目の婚約破棄宣言と謝罪会見でありながら波乱に満ちた前半戦は、あっという間に終了しました。



「……それでは引き続き、エクストリームトラッシュレディ楽団のメンバーとの不倫発覚に加えて、それを報道した出版社に感謝するような文通のやりとりが流出し、世間を混乱させているアラン王子の婚約者、イザベラ公爵令嬢の謝罪会見を行います」

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― 新着の感想 ―
[一言] 落語家元ネタありがとうございます。 拙作もお読みいただき重ねてありがとうございます。 すみません、評価入れ忘れてたので入れました。
[良い点] 面白かったです [一言] 最後はゲスの極み乙女か、やっとわかった。 掛け言葉で喝采の元ネタはどちら様でしょうか? 多分落語家なんだろうけど……
[良い点] どっちも大概にせぇよ(´゜д゜`) やっぱ婚約者なだけ合って息ピッタリですね(悪い意味で)
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