第一話 私は相応しくないないそうです
少しでも楽しんでいただいたら幸いです。
その日の講義が終わり、帰り支度をしていると、
突然、学院長の呼び出しが掛かる。
私は急いで学院長室に向かい、
扉の前に着くと一息ついてノックをする。
中から入室許可の声が聞こえ静かにドアを開き
一礼と共に入室する。
部屋の中には椅子に座る初老の男性。
豊かに伸びた顎髭と対象的なツルツルした頭。
片眼鏡を掛けた学院長『キース・バルモア』
隣にはなぜか大公家の三男、一応私の婚約者である
『ヴィクトール・ガナード』公子が立っており。
更にその横に一年前に転校してきた女性。
確か名前は『ライラ』さんだったと思う。
彼女は少し控えるかたちで立っていた。
学院長以外の二人が何故いるのか少し気になったが、
そのまま苦手な格式張った口上を述べる。
「アリアスフォード呼び出しに応じ参上しました」
学院長はひとつ頷くと、私をじっと見る。
隣の公子様が苛立った様子で学院長に耳打ちすると、
諦めたかのように学院長は私に告げた。
「アリアスフォード、君に退学を勧告する」
思いもしなかった言葉に私は素のままで尋ねてしまう。
「どうして、何故ですか?」
「君の魔術論文が盗用だと訴えがあった」
そんなことあり得ないと反論しようとした所で、
公子様が横から声を荒げて割り込んできた。
「調べはついている、ここにいるライラの論文を盗み、
さも自分の論文のように発表した、君は卑怯者だ」
「証拠はあるのでしょうか?」
冤罪を着せられ、苛立ちと悔しさに震える。
「見苦しいぞ、証拠ならここにある」
公子様が見せたのは、研究者でもあまり見ない学術誌。
そこには確かに私が発表したより前の月日で、
『ライラ』の名前で同じ内容の発表がなされていた。
「そうですか」
改竄された学術誌を見て出来レースだと分かった私は、
何を言っても無駄だと悟り項垂れる。
「分かったなら、出ていくがいい、君には
この名門『エンハイネス魔術学院』に相応しくない」
余りの物言いに思わず顔を上げて睨みつける。
そんな私を見た公子は勝ったとばかりに笑みを見せ、
少し控えていた彼女も一瞬だけ口角が上がった。
日和見な学院長も助け舟を出してくれる事はなく、
私は一週間後に学院から退去しなければならなくなった。
学院長室から出ると、公子が更に話しかけてきた。
「こうなってしまっては当然だが、婚約は解消だ」
「はい、分かりました」
元々、私達は親同士が決めた婚約で、
子供の頃は多少遊んだりして共に過ごした時間はあったが、
両親がなくなってからは形骸化した関係だった。
そこに未練なんぞはこれっぽっちも無い。
顔には出さないがむしろ清々したくらいだ。
「援助も打ち切る、恐らく爵位も剥奪になるだろう」
「はい」
爵位も両親が亡くなり、
私一人残った為にやむを得ず引き継いだだけで、
祖先には申し訳ないが未練はこれっぽっちも無い。
社交も今までデビュタントの時しか出たことないのだ、
逆に面倒な場に出ずに済むと思うと助かる。
ただ援助打ち切りは厳しい、家は由緒だけはあっても
貧乏貴族だ援助がなければ維持出来ない、
恐らく資産は処分するしかないだろう。
「えらく縮小ではないか、そういう事なら
金銭に困ったときには相談に乗らないこともないぞ」
「……ありがとうございます」
「と言っても、娼館を斡旋してやるくらいだがな、
君のように陰気で根暗な白髪の醜女が、
相手にされるかは分からないが」
そう言って笑いながら去っていった。
後を追うようにライラさんも付いて行った。
確かに接点が余りなかったとはいえ、
仮にも婚約者だった女に掛けるような言葉ではなかった。
余りの態度の悪さに今頃になって怒りが込み上げる。
色々な感情に塗れながら学院内の寮に戻る。
自室のベッドに腰掛け部屋を見回す。
ここも、あと一週間で引き払わないといけない。
私物はそんなに無いが問題は実験器具で、
学生の身で研究室は持つことが出来ない私が、
少ない私財で揃えた物ばかり、割と高価だったりする。
学園にいられなくなり、研究が出来なくなれば、
無用な物だと分かってはいるが、研究への未練から
実験器具の処分を躊躇させる。
そもそも私から研究を取ってしまえば何も残らない。
底なしの魔力を持っている私だったが、
それをコントロールする術を持ち合わせていなかった。
そこから私の研究は始まった。
自分の魔力を制御する為に研究に没頭するようになり、
社交なんぞもそっちのけで邁進した。
その甲斐あって研究も徐々に認められてきた矢先に、
今日の茶番である。
私は深くため息を吐くと、ベッドに横たわる。
纏まらない思考をいったん放棄し目を瞑る。
頭がカラッポになりかけた時、扉がノックされた。
一瞬で現実に呼び戻される。
体を起こして「どうぞ」と入室を促す。
「失礼するよ」
一言断って部屋に入ってきた男性。
この国では珍しい漆黒の黒髪、それも当然で彼は留学生だ。
更に珍しいことに私の研究に理解を示してくれる、
数少ない人物の一人『ルーシェイド』である。
「ルーシェ、いらっしゃい」
ベッドに腰掛け淑女としてははしたない格好だが、
今までも散々研究に没頭して無造作な姿を晒している。
彼としても学院内では、
優雅で洗練された所作で、育ちの良さを感じさせる一方、
常に隙きの無い近寄り難い雰囲気を醸し出している。
だが、私との研究内容の話となると砕けた感じになり、
たまに一人で狼狽してたりして困った姿を見せてくれる。
そんなお互いの情けない姿を見ている今となっては、
数少ない理解者で協力者である
ルーシェとはお互いに気のおけない関係である。
「浮かない顔をしてるよ、どうかしたの?」
心配して尋ねてくれた彼に本当の事を言うか迷ったが
少し愚痴をこぼしたくて放課後の茶番劇を話した。
「それは許せないな、
アカデミーにも正式に異議を申し立てるべきだ」
私に同情してくれて怒ってくれる彼に感謝する。
粗だらけの訴えに異議申立ては私も考えたが、
無名に近いとはいえ学術誌を抱込んでいた、
恐らくアカデミーの何人かは既に向こうの手の内だろう。
「無駄だと思う、
それに異議が認められるには時間が掛かるはずよ」
私の諦めの言葉に対して自分の事のように、
悔しい顔をしてくれるルーシェ。
不謹慎かもしれないけど少し癒やされた気がした。
「ふぅ、これから、どうしようかしら」
少し安心したことで逆に気が抜け思わず本音がこぼれる。
「…………それじゃあ、うちに来る?」
そう言った軽い口調とは裏腹に、
ルーシェの目は何時に無く真剣だった。
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