表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とにかく酷い童話

荒くれ白雪姫

 昔々ある所に大変美しい白雪姫という王女と、美に取り憑かれた継母が居ました。

 ある日、継母は魔法の鏡にこう問いかけます。


 「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


 魔法の鏡はこう答えます。


 「()()()()()()白雪姫が一番美しいかと」


 その言葉を聞いた継母は怒り狂います。

 どうして、私では無いのか、どうしてあの()()()()しかしない王女が一番美しいのか、と。


 継母は狩人を呼び付け

 「白雪姫を森に連れて行き、撃ち殺し、その肝臓を持って帰って来い」

 と、言いつけました。




 「……だから、私に銃を向けたと?」


 ここは森の中。昨晩降り積もった雪がより幻想的な雰囲気を作り出しています。

 そんな雰囲気をぶち壊すかのように雪に顔が埋まる程、土下座し、平伏す屈強な男と、その男の頭を足で押し付け、銃を当てる女の子が居ました。


 「ひぃっ……本当すんません!逆らえなかったんですっ!」


 女の子は命だけは!と必死で縋り付く男を糞を見るかのような目で睨み付け、ブーツの硬い所で思いっきり蹴り上げました。

 男は少し斜面になっていた森を雪だるまになりながら転がっていきます。


 (あぁめんどーー)


 そう考えた女の子は雪だるまに銃を投げつけ、殺気マシマシで言い放ちます。

 その姿は蛇よりも、虎よりも、獅子よりも、鋭く冷たかったでしょう。


 「二度とすんじゃねーよ??」

 「はいいっ!」


 男は銃を拾い、猫の前の鼠のように尻尾を巻いて逃げて行きました。

 女の子は溜息を吐き、近くの切り株に腰掛けます。

 王女らしからぬ、いや女の子らしからぬ大股開きで貧乏揺すりをしながら。


 「サバゲーの方が楽しいわぁ……」



 その後狩人は猪の肝臓を持ち帰り、継母に渡しました。

 継母はそれが猪の物だとすぐに気付きましたが


 (あいつを追い出せたしいっか)


 と、塩茹でにして食べてしまいました。意外とあっさりしているものです。

 レシピは王家伝統なんですよ。シェフは業務放棄しているので継母特製です。



 これはーー立てば爆弾、座ればヤンキー、歩く姿を見かけたら110番。

 そんな白雪姫の物語です。



 「まずは拠点を探さねーとなぁ」


 冬の森はかなり危険です。本来一国の王女が護衛も無しに来る場所ではありません。

 護衛達もあいつなら大丈夫っしょと業務放棄してるのは秘密です。

 熊より、雪崩より、白雪姫と遭遇した方がマズいという教訓があるのも秘密です。

 白雪姫が嫌いな歌を常に流すという白雪姫除けの鈴が製造されたのも秘密です。

 ちなみに意外と白雪姫が嫌いなのはロックです。バラードを好むので気を付けましょう。


 さて、白雪姫が森を歩いていると前方に何やら灯りを発見しました。

 一軒のこじんまりとしたレンガ造りの家です。

 しめしめ……と腕と脇を鳴らしながら、白雪姫はノックします。


 「誰かいねーか?」


 ()()()()可愛いその言葉に惑わされ、扉を開いたが最後。其処は地獄と化します。

 数秒中でバタバタと音がしてから、扉が開きました。また白雪姫被害者の会が一層賑やかになりますね。


 「はーい、誰で……ヒェッ」


 扉を開いた途端、ここの住人が見たのは、蛇よりも(以下略)な睨みをかます女の子でした。

 いや、住人達にはそれは熊の様に見えたでしょう。


 「熊は冬眠してるハズなのにいっ!」


 慌てて扉を閉めようとしても、もう遅い。

 扉と家の間に白雪姫がバッチリ足を差し込んでいます。


 「邪魔すっぞーー」


 既に大家族なそのお家に、また一人素敵な家族が加わりました。歓迎しましょうね。


 その家に住んでいたのは皆さんご存知、七人の小人です。

 白雪姫からここに来た経緯を伝えられた頃には、全員蛇に睨まれた蛙のように縮みあがっています。


 (国が太鼓判押してる狩人が秒殺されてる……!) 


 こんな熊(に見える女)に誰も勝てる筈がありません。

 白雪姫の新たな家族が新たな奴隷と化す瞬間でした。



 それから小人達は毎日歌い、踊って暮らしました。

 白雪姫の好きなバラードを()()()()、休む事なく踊る(働く)毎日。

 ついに小人の一人が音をあげました。

 彼は継母に手紙を出し、助けを求めたのです。

 白雪姫を黙らせられるのは彼女だけ、みんなのヒーロー継母マンです。


 継母は流石に可哀想だと思ったのと「美顔スチーマー買ってやる」という約束に踊らされ、白雪姫を大人しくさせる作戦を立てます。


 これも皆さんご存知、お馴染みの毒林檎作戦です。

 国一の毒を扱う商店から毒を手に入れ、林檎に仕込みました。

 またシェフはサボっているので継母お手製です。愛妻毒林檎です。

 黒のストールで姿を隠し、特殊メイクで老婆に扮し、継母は白雪姫が居候している家へと向かいます。

 ちなみに喉を腫らして声まで変えるという本格ぶりです。こういうの本気になっちゃうタイプなんです、継母マンは。


 冬の夜、レンガの家にノックの音が響きます。


 「すまない……開けてくれんかの……」


 小人達は人生で一番の瞬発力を発揮し、扉に飛び付くように向かいました。

 小人に向かい入れられた老婆は奥で寝ている白雪姫を起こし、林檎を差し出します。

 起こされ不機嫌な白雪姫は近くの小人をひょいっと摘み、そいつの口に林檎を突っ込みました。


 「毒味よろ」

 「ぐむっ……むむむむむ!?」


 その時、老婆は遅効性の毒にして良かった……と心から思っていました。小人は必要な犠牲です。君の死は無駄にしないわ。

 白雪姫は林檎を食べた小人が何事も無いのを見て、自分も一口食べました。


 ……モグッモグ……ペッ。


 口に入れた白雪姫でしたが噛んでいる内に首を傾げ、ついには吐き出してしまいました。

 まさか、毒がバレた……!?と慌てる老婆を睨んできます。

 白雪姫がドスドスと老婆に近づき、死を覚悟した瞬間でした。


 「林檎はふじだろ普通ーー!」

 「そこーー!?」


 ジョナゴールドは苦手なんだよっ!と老婆は追い出され、作戦は失敗に終わったのです。



 ここは、白雪姫の国から少し離れた所。

 その国の王子の耳にある噂話が入ってきました。


 「白雪姫という二つ名がつけられた熊が小人を蹂躙している、死者も出た」


 なんて噂話。

 ()()()正義感の強い王子は放っておけない!と兵を引き連れ、小人の家へと向かいました。


 熊の特徴等を聞くために小人の家を訪れた王子一行。


 「この周辺に凶暴な熊が出没したと聞いた。話を聞きたい」


 そんな言葉を言われた小人は快く家に通しました。

 ついに小人が熊という言葉に疑念すら持たなくなりました。末期ですね。


 小人は王子に熊を紹介しました。この家を地獄へと変えた全ての原因を。

 王子は白雪姫を見た途端思った事は何でしょう?簡単です。


 「なんて美しい……私と結婚して頂けないだろうか?」

 「……は?」


 白雪姫=熊の錯覚にかかった小人と王子の兵が間抜けな声をあげているのに一切気を留めず、指先へのキスをやってのけた王子。

 兵の一人なんかは王子がバグった!と頭をぼこぼこ殴っています。


 「お前に会ったの今日が初めてだよな?」

 「……ええ。一目惚れです」

 「……きっも」


 白雪姫は王子をこの世の物に向けるべきではない目を向けています。彼女の視点では王子は糞以下です。哀れ王子よ。

 王子はそれから毎日小人の家を訪ねました。

 白雪姫に蹴られても、殴られても、侮蔑されても、ついには器用な小人に作らせた兵器で吹っ飛ばされても、何故か生きており、またやって来るのです。


 流石に気味が悪くなった白雪姫は()()()、警備がしっかりしている城へ戻り引き篭もりました。

 そして国の平和が戻ったのです。めでたしめでたし。


 ……継母だけは苦い顔をしていましたが。

 家計簿をつけながら食費がかさむんだよなぁと渋い顔をしています。

 正直国の平和より大変な事なのでした。

全国、全世界の林檎ファンとジョナゴールドを作っている農家さん。

そしてジョナゴールドへ謝罪します。


作者は好きですよ、ジョナゴールド。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ