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DARK 1

こちらは出来上がり次第あげたい所存です。

平均的に4000文字を目指しているので、一話一話読みごたえのあるものになるかと思われます

どうしてかしら。どうしてかしら。

ある日ある時ある事から全てがおかしいの。

鏡は真実を写さないし、茨は小さな小さな穴を作った。赤い頭巾は森に近寄らなくなり、笛は音を出さなくなった。他にもたくさん。


なんておかしなお菓子なお話。



◇ ◇ ◇


それは楽しい茶会になるはずだった。

麗しくも可憐な令嬢たちによる、ささやかな茶会に。まだ恋も知らぬ8から10歳の令嬢が、1つのテーブルを囲って談笑していた。


そんな中、1人の一際目立つ令嬢は席を立った。終わりの時間でもないのに、と周りがざわめき近くの令嬢が声をかけようとした時、糸が切れたように彼女は倒れた。


「エアリエス様!?」


ああ、だんだん遠くなる意識の中で令嬢たちの声が聞こえる…。

(わたくし)は大丈夫ですわ、と声は喉から出ることはなかった。

辛うじて微笑もうと顔を動かすが、その後瞳は完全に閉じ上手く笑えたかも分からないまま闇へと意識を落としていく。


鐘の音が聞こえる。

朝を知らせる我が国独自の文化だ。

私は重い瞼をゆっくりと開き、見慣れた天井を見つめては目を見開いた。

何故ここにいるのだろうか、と。


「__!__、_!」

「……?」


起きたばかりだからだろうか。それとも私がここにいる原因のせいなのだろうか。言葉があまり上手く聞き取れない。

見つめている間に新たに人が入ってきた。男女二人だ。夫婦のようで、二人の片方の薬指には似た指輪を身につけていた。


「__!_、__。__!」

「__。_」


やっぱり何を話しているのかわからない。聞き覚えのない言葉だった。彼らには申し訳ないが、私からすればこの部屋以外は見慣れないものだ。

そもそも、なぜ見慣れていると認識できているのかも疑問だが。


「__…エアリエス、__?」

「っ……!」


その単語(エアリエス)だけは、頭に入った。

それがきっかけだったようで、頭はどんどんクリアになり次第に言葉も自然とわかるようになった。


「エアリエス…!もう、しゃべれるかしら?あ、水は必要かしら…!?」

「えっと…はい」


涙を浮かべながらもゆっくりと私の手を握った彼女は、綺麗な銀髪が膝立ちをしたせいで床までついていた。隣にいる黒髪の男性はそんな彼女の銀髪を適当に上げてはペンでさした。


「オリヴィア、エアリエスにまくしたててはいけないよ。僕も目覚めてくれて嬉しいけれど、彼女が疲れてしまうからね」

「あぅっ…そうね。ごめんなさい、エアリエス。私達はまた明日来るわね」

「はい…お母様、お父様」


二人は私に微笑み、医師らしき人に一言話すと早々に部屋から出ていった。私は、医師達に検査されている間なぜ二人をそう呼んだのか考えていた。

私は二人を夫婦だとは思ったが、まさか親だとまでは考えていなかったはずだ。


「エアリエス様、ご気分は如何ですか?調子が良さそうであれば、今夜から水を、明後日にはお粥を始めましょう」

「はい…体は、もう大丈夫ですわ。迷惑をかけました」

「……」


なんだろうか。

医師達は困惑の表情を浮かべている。

しかし、疲れているのだろうと話を終えては早々に出ていった。一体何なのか、気になりはするが今はまだ体が起き上がりそうもなかったので目を瞑ってもう一度寝ることにした。


しかし、いくら目を瞑っていても眠れる気がしない。それほどまでに長い間眠っていたのか、それとも別の何かか。心做しか頭も痛くなってきている。


「ぅっ…」


気のせいではなかったらしい。痛みは時間を追うごとに強さを増し、私は呻くことしかできない。鐘のように頭の中で響き渡る。


「ぃ……っ!?」


突然何かがフラッシュバックのように頭の中に流れてきた。

こことは違う文化の世界。機械が多く、人は様々な格好や思想の中で生きていた。その中で私は孤独だった。子どもの頃は友達がいて、好きな人もいて、それなりに満たされた日々を送っていたはずだ。大人になるにつれて夢を見ることはなくなった。ただ仕事をする毎日だった。


そんなある日出会ったのが乙女ゲームだった。タイトルは「グリム学園と麗しの王子様」。通称「グリプリ」。

グリム童話に出てくるキャラが王子として学園に通う話だ。ありきたりな設定ではあったけど、やり込み度は高くグリム童話について詳しくなるほど内容も凝っていた。

攻略対象は、赤ずきん、シンデレラ、ヘンゼルとグレーテル、いばら姫、ハーメルン、白雪姫の7人。

全員本来の童話キャラの子孫という設定で、グリム学園に通いながら主人公と恋に落ちて学園に迫る危機を脱するのが大まかなところだ。

そして私は……魔女の子孫の悪役令嬢。相手の攻略対象はいばら姫。攻略ルートは円満を除いては4つずつ存在している。


「Grimm…Grimm…Red……罠を仕掛けてティーパーティー…」


今世を含め、全てを思い出す頃には歌を口ずさんでいた。

赤ずきんのキャラソングに出ていた歌詞の一部。彼は確か重度のおばあちゃん子だ。そのおばあちゃんが歳で亡くなり、彼の歯車は狂い始めて猟奇衝動を抑える術もなく悪化していく。


「一番…好きだったんだけどな…」


せめての救い所が狼の子孫ではないところだ。

狼の子孫の悪役令嬢は最終的に赤ずきんに撃ち殺されるし、何より私は赤ずきんが一番好きだったから。


「確か、名前が…えっと」


全て思い出したとは思うが、整理ができていないので彼の名前を考え唸った。


「あっ…アルト=レッド」


レッドは通称で、苗字は他にあったと思うけどそこまでは思い出せなかった。そのうち知ると思うので今は放っておくしかない。


次に思い出したのは魔女の子孫である私の相手。いばら姫のこと。この人が一番安牌と思われる。

赤ずきんは4つあるルートのうち3ルートは狼が死ぬ。それに比べて私は2分の1の確率で生きられる。

絶対に魔女が死ぬヘンゼルとグレーテルにだけは関わりたくないし、白雪姫に関してはバッドエンドは白雪姫自身が死ぬ。そんな悲しい結末は見たくないし関わりたくない。

シンデレラはどの攻略対象よりも残酷でバッドエンド好きな女子に人気の高いものだった。死ぬか足と目を無くすか、良くて国外追放。どれもスチルが綺麗過ぎて逆に恐ろしかった。最後の一つはなぜかもやがかかっていて引っ張り出すことは出来なさそうだ。

ハーメルンに至っては全てが謎に包まれている。主人公が死ぬか世界が滅びるか、閉じ込められるかどこかに連れ去られるかのどれかだ。分かるはずもない。


「ん…?それ考えたらいばら姫ってかなり優しいんじゃ…」


他のバッドエンドが酷すぎるせいで、いばら姫が救いの道に見えて仕方がない。疲れているのかもしれない。


とりあえず私は忘れないようにと机に向かい、白紙の本に知りうる限りのゲームの情報と私の前世の記憶についてを書き記す。

ちなみに、どうして私がいばら姫の悪役令嬢とわかったかと言うと、魔女にも名前がありその名前が私ことエアリエス=キテラだ。

本編で呼ばれることは数少ないが、この作品についての本はすべて読み漁った私からすればきちんと書かれているので知っていて当然なのだ。


と、考えている閒に夜も更けて来たようだ。この世界では真っ赤に輝く月が出る日がある。月食よりは頻繁に起こるので大してレアでもなんでもないが、前世の記憶を持ったせいか今天に見えているそれが不思議で仕方ない。


「綺麗…アルトの瞳によく似てるし、好きだったんだよね」


独り言を呟いてみるが、他に反応はない。人は全員出払っていて、恐らく扉の前に警備がいる程度だろう。聞こえても反応する人はいない。

病み上がりの私への配慮だ。近くに人がずっといるのも疲れてしまうから。


「んー…!よし、早く寝ようっと」


背伸びをしてからベッドに入ると、意外と疲れていたのか今度はぐっすりと眠ることが出来た。

夢の中では、今世の今までの私があまりにも愚かな性格だったことを思い出しながら。


数日が経ち、久しぶりにメイドが用意してくれた朝湯に入った。流石に世界観はヨーロッパ風でお風呂は気持ちよかった。

お礼を言うとまたもや驚かれたが、もはや突っ込むことも面倒だ。

両親があまりにも(ピュア)すぎて忘れてしまいたいほどに、エアリエスの性格は最悪なのだ。なんと言っても勘違いが過ぎて癇癪持ちで、第2の13番目とかいうあだ名を付けられていた。といっても、魔女の家系でもかなりの有力家なので公の場で呼ぶわけにもいかず影でコソコソと広まっている感じだが。


「はぁ…」

「何かあったのかー?」

「……」


なんとなく悩みの種が増えた気がする。声をかけてきた人物は私の周りをうろちょろしながら覗き込もうとする。


「やめて。何もないから」

「お、そうか!いつも通りならよかった!」


元気で少しやんちゃそうな茶髪の少年は、庭師見習いだ。いばら姫の眠れる家臣の一族の1人で、私の数少ない友人。ちなみに年齢は9歳。

こんな馬鹿そうですぐ騙されそうな顔をしているけど、中々本当に騙されやすい。しかしもう少し経てばかなりのイケメンに育つ。


「…ムカつく」

「ん?何か嫌な奴でもいたのか?アリスをいじめるんなら俺が退治してやるぞ!」


アリスとはエアリエスの愛称だ。彼だけは愛称で呼ぶのを許している。私には友と呼べる存在なんていなかったし、悪態ばかりついてきた私に付いてこれるのは彼だけだったから。


「何もないからやめて、ピーター」

「アリス…」

「な、なによ…」

「いつから俺のこと名前で呼ぶようになったんだ?」


まだ記憶の混乱が収まっていないらしい。そういえば、私は彼の名前を読んだ覚えが全くない。失敗した。


「今からよ。何か問題ある?」

「いんや!むしろ嬉しい!」


喜ばれてしまったようだ。けれど、変に疑われるよりかはマシだ。


「そんなことより、いいのか?こんなところで暇してて」

「は?」

「だって今日なんだろ?婚約式」

「……あ!!」


今日はよりにもよっていばら姫との婚約式だったらしい。すっかり忘れていた私は急いで部屋に戻ると急いで着替えるのだった。

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