最終話
僕が感じていると思っているこの好き嫌いの気持ちでさえも僕が生み出したものじゃないんだろうか。僕が感じたものじゃないんだろうか。
お母さんの豚丼が好きな僕はその豚丼を作ってくれるお母さんがいないと存在しない。
歌うことが好きな僕も僕が好きな曲を作ってくれる人がいなければ存在しない。
本を読むことが好きな僕もそのきっかけをくれた図書委員がいなければ、本を書いた人がいなければ存在しない。
縁側が好きな僕は元をたどれば家を建てた人がいなければ存在しない。
冬から春に変わる匂いが好きな僕...。これは僕が感じたものだ。他の人に支えられてるものじゃない。僕の感情だ。でも、この感情は僕だけが感じているものじゃない。
放課後の教室が好きな僕も学校がなければ存在しない。
シャーペンを集めるのが好きな僕もシャーペンを作ってくれる人がいなければ存在しない。
濡れた服が張り付くのが嫌いな僕は服を作っている人がいなければ存在しない。もっと言えば、服を着るという環境がなければ存在しない。その環境を作っているのは僕の周りの人たちとそれに従う僕自身だ。
柑橘系の果物が嫌いな僕はこれを食べる環境がなければ存在しない。
人混みが嫌いな僕なんて、僕以外の人がいないと存在しえない。
嘘をつくことが嫌いな僕もそうだ。
枠にはめられるのが嫌いな僕もそう。
そうか。そうだったんだ。僕は。僕という人間は僕以外のもので出来上がっていったんだ。本当の僕は僕の内側になんてなかった。ずっとあると思っていた場所に僕はいなかった。
―お前は誰だ―
僕以外の人がいないこの世界で僕は僕を証明することは始めからできなかったんだ。じゃあ、この質問に対する答えは何だろう。僕は誰なんだろう。
―お前は誰だ―
僕の存在は僕以外の人によって支えられていた。
―お前は誰だ―
僕以外の存在は僕によって支えられていた。
―お前は誰だ―
一人でも僕の存在を証明してくれる人がいれば。
―お前は誰だ―
そうか。
―お前は誰だ―
ずっとここにいたのか。
―お前は誰だ―
僕の存在を支えてくれる人が。
―お前は
「僕はここにいる。それを君が支えてくれていたんだ。始めからずっと。」
...。
「・・やっ!かざやっ!かざや…っ!!」
「お母さん…?」
「よかった…。本当によかった…。」
頭がずきずきと痛む。手で触ってみるとそこには包帯が巻かれていて、腕には点滴とつながった管が刺さっていた。
「学校の帰り道であなた車に轢かれたのよ。」
そうか。僕はあの日、学校で授業を受けて、放課後サークルに顔を出して、雨の中帰っているときに。
「お母さん。」
「ん?」
「ありがとう。」
A human being is a social animal. ~人は社会的動物である~
社会とは人々が行う相互作用のことで人は他者と相互作用的に支えあって生きている。人は他者によって、その存在を支えられている。他者もまた、「あなた」によってその存在を支えられている。




