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自己を支えているもの  作者: hahiruro
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第5話

次は嫌いなものを挙げていくことにしよう。



―お前は誰だ―

 雨で服が張り付く感じが嫌いだ。僕は基本、家を出るときに雨が降っていなければ、傘を持って行かない。天気予報もあまり見ないので強い雨に降られることがままある。その時に服が体に張り付いてくるべたっとした感覚が嫌いだ。

「お母さんの豚丼、歌うこと、本を読むこと、縁側、冬から春に変わる匂い、放課後の教室、シャーペン集めが好きで、濡れた服が張り付くのが嫌いなのが僕だ。」

…。

これでもか。


―お前は誰だ―

 僕はレモンが嫌いだ。レモンだけではなく、柑橘系の果物が嫌いだ。いつからかは覚えていないが、物心ついたときから、僕は柑橘系の果物を食べなくなっていた。柑橘系の酸味や風味がどうも口に合わない。近くの人たちはみんなそんなのもったいないと勧めて来たりしたが、僕が試しに食べてみることはなかった。

「お母さんの豚丼、歌うこと、本を読むこと、縁側、冬から春に変わる匂い、放課後の教室、シャーペン集めが好きで、濡れた服が張り付くこと、柑橘系の果物が嫌いなのが僕だ。」

まだだろう。

…。

やっぱり。



―お前は誰だ―

 人混みが嫌いだ。パーソナルエリアが十分に確保されていない状態。知らない人の体温が嫌でも伝わってくる感覚、落ち着く場所がないのが嫌いだ。満員電車の人混みと渋谷、原宿の人混みは車内と屋外というところでまた違うが、屋外であっても落ち着けない、緊張感が途切れないから嫌いだ。

「お母さんの豚丼、歌うこと、本を読むこと、縁側、冬から春に変わる匂い、放課後の教室、シャーペン集めが好きで、濡れた服が張り付くこと、柑橘系の果物、人混みが嫌いなのが僕だ。」

…。

これでもか。こんなに自分の好き嫌いを考えたのは初めてだ。その場その場でこれは好きだとか、嫌いだとか、思うことはあるけれど、考えてみるとぱっと浮かぶような好き嫌いは少ないんだな。もう少し考えてみるか。



―お前は誰だ―

 嘘をつくのが嫌いだ。嘘をつくと顔に出てしまうからということもあって、僕自身嘘をつけないというのもあるが、嘘をついた後に必ず何であんなこと言ってしまったんだと後悔するから。嘘をつくときもついている時もずっと胸がきゅっとなるのが嫌いだ。とりわけその場しのぎの嘘が嫌いだ。よく考えた結果それが最善ならば仕方がないとも思っているけども。

「お母さんの豚丼、歌うこと、本を読むこと、縁側、冬から春に変わる匂い、放課後の教室、シャーペン集めが好きで、濡れた服が張り付くこと、柑橘系の果物、人混み、嘘をつくことが嫌いなのが僕だ。」

…。

まだか。好き嫌いを並べていくのは、僕の証明にならないのだろうか。僕一人で僕を証明することはできないのだろうか。



―お前は誰だ―

 僕は人にこういう人だと言われるのが嫌いだった。それが例え、優しい人だとか真面目な人だとかよい意味であっても、僕はそんなに優しくないだとか真面目じゃないと思ってしまう。本当の僕は他にもいて、君が見ている僕だけが僕じゃないと。こういう人だと枠にはめられるのが、自分はその枠の中でしか生きられないような窮屈さを感じて嫌いだった。

「お母さんの豚丼、歌うこと、本を読むこと、縁側、冬から春に変わる匂い、放課後の教室、シャーペン集めが好きで、濡れた服が張り付くこと、柑橘系の果物、人混み、嘘をつくこと、枠にはめられることが嫌いなのが僕だ。」

…。

だめだ。好き嫌いを並べても僕の証明にはならない。何かが足りないんだ。僕は何かが分かっていない。

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