第2話
「ぐぅ~。」
お腹が空いた。さっきから、座り込んでは自分の存在について考え、気が向いたときに明かりに向かって歩いていた。それを繰り返してるとお腹も空いてくる。なんとなく夢の中だと思っていたけど、お腹はしっかり空くみたいだ。どこかに食べ物…。落ちてる訳ないか。
その後も考えては歩きを繰り返し続けた。
どれだけ歩いてもやっぱり小さな明かりが大きくなることはなかった。
「もう限界だ。」
空腹でもう歩けなくなっていた。足が前に出ず、その場で寝転がった。床?と思しきものは少しひんやりとしていた。あぁ、何か口に入れたい。お腹いっぱい食べたい。お母さんが作った豚丼、好きだったなぁ。絶妙に甘辛いたれが肉と絡んで、それがつやっと光った白ご飯に乗っかってるんだ。おいしかったなぁ。もう食べられないのかな。
「豚丼…。」
はぁ、そんなこと考えてると豚丼の匂いがしてくる。僕の想像力は嗅覚にまで影響するのか。ん?豚丼の匂い?スンスン。する。確かに豚丼の匂いがする。目を開いて体を起こすとそこには豚丼があった。白い湯気を立てたおいしそうな豚丼が。そこに。僕はそれを引き寄せた。目の前の豚丼を。もう一度匂いを嗅ぐ。
「ぐぅ~。」
僕の腹の虫も我慢できないといった風に声を出した。この香り本物だ!早速食べようと思ったが…。箸がない。
「箸がなくても…。」
ここにきて箸がないとは。もう素手で行くしかないか。背に腹は代えられない。
「カラカラッ。」
ん?何の音だろう。音のした方に顔を向けるとそこにはあった。箸が。こんなことがあるだろうか。二度も僕が望んだものが出てくるなんて。ありがとう神様。こんなところにいたんですね。今まで色んな悪いことをしてごめんなさい。お母さんに強く当たったりして。これからはたくさん感謝してまじめに生きます。今まで信じもしていなかった神様に感謝して改心してしまうほど、それは非現実的なことだった。
「いただきます。」
美味しい。その豚丼はもう食べられないと思っていた。お母さんの豚丼そのものだった。また食べられた。少し涙ぐんでしまった。もう食べられないかもしれないと思っていたから。
「ごちそうさまでした。」
―お前は誰だ―
僕は…。
「お母さんの豚丼が好きな人。」
…ダメか。
―人は失くさないとその大切さに気づかない―
こんな身近なところにも大切なものがあったのか。いつの間にかそれがあることが当たり前だと思っていた。僕が当たり前だと思っていることのそのほとんどが大切なものなのかもしれない。ただ、失くす機会なんて滅多にない。
お腹も膨れた。少し状況を整理しよう。目が覚めたら薄暗いところにいた。奥の方に小さな明かりが灯っているが、いくら歩いてもその明かりに近づくことができない。時々「お前は誰だ」と聞かれる。この質問に答えられれば、この夢?から覚めることができるかもしれない。あとは願えばその願ったものが出てくる。最後のは本当か確かめてみる必要があるな。お腹が満たされて少し眠気が来たので、布団がほしい。このひんやりとした床の上じゃよく眠れそうもないから。
「布団…。」
ボフっという音を立ててそれは現れた。僕がいつも使っていた布団だ。白い敷布団と枕、薄い茶色の掛布団。どうやら、想像したものが出てくるみたいだ。少し眠ろう。目が覚めたら、この夢も覚めるかもしれない。




