第7話 謎解き
「この暗号、どっかで見たことある気がする、って言うか似たようなものを見たことがあるんだよな………」
この意味不明なアルファベットが並んだ文字列を見ながら俺は、独り言のようにつぶやく。いつ見たのだろうか。テレビ、小説、マンガ、雑誌??いや、それよりももっと前、たとえばあの家で……
「イッッッ!!」
思いだそうとするとそれを拒むかのような頭痛に襲われる。なぜだか分からないが俺はこんな時なのにもかかわらず、この痛みを避けたいと思ってしまった。なので俺は、思い出すのは止めて自分で考えることにした。
「真ん中のinはおそらくそのままだよな、スペースも空いてるし。問題は3← qed cfopq yxpbjbkqと→3 wkh ghvhuw eloglqjだけだが……」
焦って頭の回らない俺がすぐにこの暗号を解ける訳もなく、10分、20分と時間だけが経過し、それに比例して俺のイライラもどんどんたまっていく。
「くそっっっっ!!」
ゴンっと自分へのイライラをベンチを殴ることで和らげる。このままでは暗号が解ける前に日が沈んでしまう。そんなことを考えながら前方を睨みつけていると斜め前を歩いていた親子の会話が聞こえてくる。黄色い帽子をかぶった男の子とそのお母さんだろうか。男の子は俺を指さしながら
「ママ、あのお兄ちゃん怒ってるよ!!」
と笑いながら言った。するとそのお母さんは男の子の手を引っ張って
「人には色々あるんだからあんまりそういうことを言っちゃだめよ。それに指を指さないの」
と言って歩いていく。
「それにしても今日のパン食い走は惜しかったわね、もう一つとなりのパンだったら一位だったかもしれないのに」
「やだよ、だってあんパンだったじゃん。僕あんパン嫌いなんだもん」
そんな会話をしながらその親子は去っていった。しかし俺は今の親子の会話の中で引っかかるものがあった。
「一つとなり、か………」
何か思いつきそうなのに全然思いつかず、もやもやとした気持ちが高鳴っていく。ふと顔を上げると3人の男が歩いているのが見えた。1人はもう酒を飲んで酔っぱらっているらしくフラフラとした足取りで、両端にいる2人に支えられる様にして歩いている。
「部長、もう帰りましょうよ!フラフラじゃないですか」
「うるさい!!もう一軒いくんだ!!なんでわしの案が没にならなきゃいかんのだ、訳が分からん!!気が済むまでつき合え!ほら、次はあそこに入るぞ!!」
部長と呼ばれていた男はそう言って目の前にある居酒屋に入っていった。残された2人は困ったように顔を見合わせている。
「気が済むまでっていつまでだよ、これで三軒目だぞ………」
「本当だよな、まあ勘定が部長もちなのが唯一の救いだよな………」
「それに何で没になるんだって言われてもな…」
「部長のアイディアは今回の議論の主軸からズレてたんだからしょうがないと言うか何というか…」
そんな話をしているうちに店に入った部長が出てきて
「はよこんか!!」
と怒鳴っている。
「「分かりました、すぐにいきます」」
2人はため息をつきながら背中を丸めて居酒屋に入っていった。
「ズレている、一つとなりなら……ズラす、3→ってことは3つとなりってことか??……は!!もしかして!!」
もやもやが消えてあることがひらめいた俺は手帳を取り出すと、アルファベットa~zまでを横並びで書き始めた。アルファベットを並べた表と不規則に並んでいる暗号を見比べる。
「おそらく3→は左に3つ、→3は右に3つズラして読むんだろうな、そしたらええっと………、 nba zclmn vumygyhn と znk jkykxz horjotm か………。なんだよこれ、解けてないじゃんか……」
解けたと思っていた暗号はさらに頭の中に?をうんだ。絶対に合っていると思いこんでいただけあってショックは大きく、ベンチの背もたれに体をあずけて空を見上げる。青一色だった空はきれいなオレンジに染まり、もうすぐ日が沈むことを物語っている。俺がこの暗号が解けなかったせいで蒼は助けられないのだろうか、そう思った瞬間視界がぼやけてあわてて目をつむる。そういえば今日の朝食は蒼が作ってくれたんだよな…、俺が寝坊したせいで。あれが最後になってしまったのか………。そう言えば夢を見ていたみたいなこと言われたな……。
「夢で分からないとか言ってたみたいだけどまるで今の俺みたいだな…」
そう言った瞬間何かが弾けたように頭の中で映像が流れ出す。誰に言われずともこれが今日見た夢だと言うことが理解できた。そして暗号の解き方も。ひらがながアルファベットになっただけだ。袖で涙を拭ってからもう一度暗号をみる。
「さっきのは逆だったんだな、その文字をズラすんじゃなくて何かからすでにズラした文字が書いてあったんだ。それをふまえてもう一度解き直すとこの暗号の答えは………、 the first basement the desert bilding か、日本語にすると「「朽ちた建物の地下一階」」か……。となるとあそこしかないよな………」
この町の端っこにはビトリーが拠点にしていたビルが建っていた。今となっては不気味でだれも近づきたがらないらしいが隠れ家としてはぴったりだろう。
「蒼、待ってろよっっ!!」
俺はそのビルめがけて全力で走り始めた。
このビルを目の前で見るのは初めてだったが、誰も近づきたがらないのが納得出来るほど不気味なオーラを発していた。
「ここに蒼がいるのか……」
ビルに入ってすぐのところに地下へと降りる階段があった。携帯の明かりを頼りに一段一段確実に降りていく。歩いていると扉の隙間から光が漏れている部屋があった。そこからは何人かの笑い声が聞こえてくる。声が皆高いのでおそらく男はいないのだろう。
「蒼!!」
意を決して扉を開けて入った俺が見たのは驚くべき光景だった。
お久しぶりです!!椎名 陽です!今回は謎解き回です!!皆様は解けましたか?
次回の投稿は11月の26日土曜日を予定しています!!よろしくお願いします!!