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言葉の壁を越えて

作者: 東京 澪音

僕の住む町は工場が多い街で、外国の方をよく見かける。

今では然程珍しくもなくなったけど、小学2年生だった僕らにはあまりにも衝撃的だった。


いつも遊ぶ公園の近所に外国人が越してきた!


それは瞬く間に知れ渡った。


友達が公園で遊んでいた時、家族4人で家から出てくるのを見たらしい。

家族構成はお父さん・お母さん・娘二人。


テレビでは見た事があるが、間近で外国人を見た事のない僕らは興味津々。

午前中で学校が終わる土曜日に、皆で公園に行く事にした。


土曜日。

学校終わったら、お昼を食べて13時30分に公園に集合。


僕は大慌てでご飯を食べ公園に向かった。

到着したころには全員来ており、外国人の家の入口が見えるジャングルジムに陣取ってスタンバってる友達もいた。


しかし、ジャングルジムに登ってボーっと家を見ているだけの小学生の団体。傍からみたら随分と異常な光景だったんじゃないだろうか?


外国人がいつ家から出てくるかわからないのに、ひたすらそこで待つ。

ジッとしていられない小学生には苦痛以外の何物でもない。


気が付くと公園にある時計は14時30分を指している。


時間に気が付いたそのうち一人が、近所の駄菓子屋でゴムボールを買ってきたので、何人かは拾った木の棒を使い野球を始めていた。


僕を含む3人は相変わらずジャングルジムで待機。


そんな中、友達が言った。

なぁ、外国人が家から出てきたらどうすんだ?


・・・確かに。


僕らはそんな事まで考えていなかったんだ。


外国人が越してきたから見に行こうぜ!

たったそれだけ。それ以外は誰一人として何も考えていない。


お前話しかけてみろよ!


何となくだけど、そういう流れになるんじゃないかなって思っていた。

何故かって?


それは僕の仇名が外人だから。


僕は肌がとても白く、髪の毛が栗色。勿論染めている訳じゃない。

瞳の色も茶色で、そんな外見からついたあだ名だった。


小学生の時はよく揶揄われた。

上級生なんかにも、おい、英語喋ってみろよ!とか時々揶揄われていたくらいだ。


こうなると、他の友達もそれに賛同。

僕はもし外国人が現れたら話しかける担当となった。


困った。

とても困った。


人見知りはしないけど、相手は外国人だ。英語なんて話せない。

でも小学2年生の僕でも知っている単語はある。


HALO! THANK YOU! GOOD BYE! OK!と、名前の紹介位は出来た。


やるしかないが、出来ればその係は降りたい。

しかたなく、僕は心の中で外国人が現れない事を祈った。


時計の針が15時を少し過ぎた頃、僕の願いは神様に却下された。


外国人の家から、ローラースケート用のヘルメットを被った女の子が自転車に乗り現れた。

一人は僕らと同じくらいで、もう一人はもう少し幼い。


お姉ちゃんらしき子は自転車で、妹らしき子はその後を追いかけ、僕らのいる公園に入ってきた。

今日の午前中まであんなに外国人の話で盛り上がってた僕らだったが、しばらくその二人に釘付けになっていた。


金髪のロングヘアーで、二人ともとても可愛い。

この時ブロンドヘアーを初めて間近でみたんだけど、とても綺麗だった。


誰かに背中を押された。

おい、行けよ!


僕は緊張しつつも話しかけてみた。


Halo!


二人はこちらを見て、Halo!と返してくれた。


すげぇーじゃんか外人!(僕の事)

誰かが言った。


凄いも何も、それ位誰でも言えると思うのだが。

多分、みんな二人を見てテンパってたんだと思う。


皆も僕に続きHalo!と声をかける。

二人も返してくれるのだが、それ以上の会話はない。


そう、僕らは共通の言語を持っていない為、これより先に進めないのだ。

お互いに困った状況であったが、しばらくすると妹の方が姉に何か話しかけ、二人は僕らに構わず自転車で遊び始めた。


僕らはただそれを見ているだけであったが、気が付いたことがる。

どうやら妹が自転車乗りの練習をしたかったらしい。


妹にヘルメットを着けてあげると、自転車を妹に譲り、後ろから支えてあげたりして練習しているのだが、結構危なっかしい。


おい、みんなで教えてやろうぜ!

そう言うと、みんなで妹が乗る自転車を支えたりしてあげた。


一人途中でいなくなったと思うと、彼は補助輪と工具をもって帰ってきた。

これには一同”おぉ~!”と声を上げた。


彼は自分の自転車に補助輪を付けると妹にその自転車を貸す。

初めて一人で自転車に乗れた喜びからか、妹は大はしゃぎ。


飽きもせずに、公園内をグルグルと回っていた。


このあたりからはお互いにもう言葉の壁なんて大して気にしてなかったんだと思う。

笑って、はしゃいで、駄菓子屋で買ったお菓子を分け合って、少しの間で僕らはとても仲良くなった。


妹の方も、自転車に乗るのに慣れてきたのか、だいぶ乗り方のコツをつかんだようだ。

姉の自転車に乗り換えて、僕らが後ろを支えながら練習を重ね、とうとう一人で自転車に乗れるようになった。


皆、自分の事の様に喜んでいた。


夕方になり、そろそろ家に帰らなければいけない時間。

僕らは二人にむかって、バイバイと手を振った。


二人も僕らに向かって手を振ると、THANK YOU!と言って別れた。

日本で出来た異国の友達。


僕らは公園で二人を見かけると、よく一緒に遊んだ。

町ですれ違う時もHalo!と声を掛け合った。


交わせる言葉はとても少なかったが、お互いに通じ合えていたのだと思う。

2年後、生まれた国に帰った事を母から聞いた時には少し寂しかったが、今となっては良い思い出である。


後に僕は英語も喋れない癖に海外に1週間程一人旅をするのだが、知らない国を一人で旅する怖さ、そして不安。きっとあの二人もこんな気持ちだったのではないだろうか?


時々観光客が困っているのを見かけると、喋れないくせに話しかけたりしちゃうのは、僕の悪い癖かもしれないけれど、一人で異国を旅する不安を知っているから話しかけちゃうんだと思う。


ひょっとしたら迷惑な事と思われてしまうかもしれませんが、心細い時なんか意外と嬉しいものなんですよね。


経験上僕もそうでしたから。


共通の言語が無くてもわかり合える事もある。

この言葉に共感してくれる人は、多分僕と似たような経験をした事がある人達なんじゃないだろうか。


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