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諸刃の魔力

作者: 月倉 蒼

第四回小説祭り参加作品

テーマ:魔法

※参加作品一覧は後書きにあります


何も見えないような暗闇の中を己の目だけを頼りに突き進む。


ここはこの世界《アースギア》に存在する迷宮ダンジョンのなかで最大規模とされる《神廊》第999階層。

ここを攻略完了クリアした者には神と会えるといわれているらしい。

俺はこの何階層あるかもわからない迷宮ダンジョンをただ一人攻略し続けている。

俺は5年前この世界の神によって召喚(……いや拉致といったほうがいいか)され、強引にこの強大な魔力を与えられた。

その魔力は人の身では強大すぎるので5年しか身体がもたず、5年後には魔力を抑えきれずに魔力が暴走して身体をバラバラにするだろうという注意付きで。

理不尽なものを押し付けられ憤慨した俺だったが、死にたくないならと神に《神廊》を登ってこいと言われ強引に送り出された。

最初の二年こそどうせ死ぬならとできる限りこの世界を楽しもうとしたが、好きな人ができてこの人と添い遂げたいと思い始めると死にたくないという気持ちが強まり、それまで所属してたパーティーを抜け一人《神廊》を登り始めた。

その時点での最高攻略済み階層は87階層。

100階層が最高階層と思い込み、頑張れば神と会え助かるだろうと思っていたが、現実はそう甘くなかった。

攻略組のパーティーが90階層あたりを攻略してるのを尻目に俺はただひたすらに《神廊》を登り詰めた……神によって与えられたこの諸刃の剣である人外の魔力を武器に……。


……そうして今に至る。

時折、ワープ装置で町に戻ると、最前線を攻略し続ける俺への勧誘を避けて食料を買い込んみ、また攻略に戻る日々を繰り返した。

風呂なんて町に戻ったときしか入らず、迷宮ダンジョン内では魔法で身を清め、眠気は魔法の力で意識を強引に覚醒させ続ける。

……そうして、今ここに居るのだ。

既に時間は1ヶ月も残されていない。

1000階層が最高階層でなければ俺は死ぬ……ただそれだけのこと。

彼女への思い……それが今俺を突き動かす原動力だ。


……魔法で気配を隠し、モンスター達を避けて進んでいると大きな広間にでた。

だだっ広い円の形をした大広間。

中心には大きな騎士のような石像が置かれている。

ゴーレム……それは頑丈な体を持つ岩石や金属などの巨人。

しかもこの騎士のゴーレムは5年前神の近くにいたゴーレムだ。

……神は近い。

そう心の中で思い、ゴーレムに近づくと。


……ギギギギギ。


鈍い音を立てながらゴーレムが動き出す。


『カミヘノチョウセンシャヲハッケン……ハイジョスル』


そう言葉を発した後、ゴーレムはこちらに素早く殴りかかってきた。

3メートルを越えるであろうゴーレムが、すぐ目の前に近づいてくる。

もう放たれている大きな拳を避けることができないと感じた俺は……。


物理防御壁シールド


詠唱破棄をした物理防御壁シールドを多重展開する。

数百は越える壁を一瞬にして貼るが、それを紙屑のように叩き破っていくゴーレム。

壁によってできた一瞬の間にゴーレムの後ろに回り込み、攻撃魔法を詠唱する。


火焔暴走フレアバースト


ガラ空きの背中にものすごい勢いで紅い炎を叩き込み、即座に後ろへと跳ぶと先ほどまで俺がいた場所に拳が振り抜かれていた。


「全然効いちゃいねえな」


背中から少し煙を上げているだけのゴーレムを憎々しげに睨みつける。

奴の体にはおそらく最高品質である魔法金属オリハルコンが使用されているのだろう。

《オリハルコン》は魔法金属と呼ばれる魔法に対して強い金属の中でも最上位に位置する金属だ。

その対魔法に関しては圧倒的なまでの力を秘めている。

並大抵な魔法では吸収され、その力を取り込むほどだ。

俺の魔法は吸収できなかったようだが、ものすごく弱体化したダメージしか受けてないのがわかる。


(……それでも勝てないわけじゃない)


俺は呪文を唱え始めた。


========================


神に異世界に拉致られた俺は、なんとか違う世界の人が住む町に溶け込んでいた。

日本人特有の黒い髪はすこし珍しいらしいが、この世界の極東出身の人ならばおかしくはなく特に迫害されてたりということはなかった。

魔術師として探索ギルドという迷宮攻略を目的とする組織に入り、日々の金を稼ぎ生きるの人生は日本にいた頃よりは楽しく過ごせている――。


「あの、マモルさんですよね? 少しお話いいですか?」


ギルドの食堂ですこし遅めの朝食を食べていると、声をかけられたので、相手を見る。

――その瞬間、少し目を奪われた。

声をかけてきた彼女がものすごく美少女だったからだ。

腰まである白銀の美しい髪、大きなエメラルドグリーンな目、瑞々しい果実のような唇。

日本にいた頃には、お目にかかったことがない美少女に声をかけられたのだ、一瞬固まってしまうのもしかたがない。


「あのぅ……」


少し泣きそうになっている少女の声でやっと現実に戻れた。


「……えっと、確かに俺だけど、どうしたの?」


何事もなかったかのように返事をすると、彼女は顔を一瞬綻ばせ、すぐにキリッとした顔で……。


「……私とパーティー組んでください!」


そう言った。


========================


ギュィィィィィィン!!! ドゥゥン!!


大きな音をたてて、ゴーレムは倒れ動かなくなった。

何度も持てる中で最高の魔法を詠唱から始め、一つ一つの魔法を全力で叩き込んだ。

そうして、やっとの思いで倒した俺は激しい戦闘で荒くなった息を整えていた。


「ハァハァ……やっと倒したぜ……」


なんとか息を整えた俺は、ゴーレムの残骸をアイテムボックスにそのまま放り込み、広場の奥にできた転移装置を起動させた。

更に奥にできた階段を見つめながら、俺は《神廊》を後にした。


========================


人数も少なく珍しい魔術師として何度か勧誘されたことはあったが全部断ってきた俺は、彼女の勧誘も断ろうとしたが彼女の話を聞いて組むことにした。

彼女はギルドで最も多い剣士で、あまりに多いがためにほとんどのパーティーが固定で、野良パーティーに入ろうとしても新人の彼女より、何度も野良を経験してきている熟練のほうが戦力になるため、入れず一人で潜ってきたが限界を感じ俺とパーティーを組んで欲しいとのことだった。

それだけならそういう境遇のやつはいくらだっているし、それでもなんとかやって行ってるじゃないかというと、彼女はポツリポツリと自分の境遇を話し始めた。

幼くして父は他界し、冒険者だった母はなんとかここまでじぶんを育ててくれたが、先月病に倒れ何としてでも助けたいが、このままでは生活すらままならないと。


母子家庭。


それを聞いた俺は似た境遇だったため、親近感が湧いて彼女とのパーティーを組んだ。

昔から言われているが、剣士と魔術師の組み合わせは相性がいいらしく、力をセーブした俺と彼女で順調に名声をあげていった。

名声が上がるとパーティーメンバーがだんだん増えパーティーは6人になった。

心から楽しいと思える日々だった。


そしてある日、俺は彼女……に一人呼び出された。


「どうした? 急に呼び出したりして」


そう問いかけるが、彼女は思いつめたような顔でこちらを見つめるばかりで何も言わない。

二年ほどのパーティー生活で俺たちの中はかなり良くなっている。最初のほうは俺自身彼女を意識しすぎてぎこちなかったものだ。


「……お「私、あなたのことが好きです! とっても!! だから……」……え?」


黙りこくる彼女に再び声を掛けようとした俺に彼女はそう言った。

俺は彼女が好きだった……でも彼女はそんな俺に別の感情を抱いてると思い込み何も告げれなかった。

そんな俺に彼女は告白してくれた。

嬉しさに飛び上がりそうになるが、己の寿命を思い出し気持ちが沈み込む。

暗くなった俺の表情を見て勘違いしたのか、


「すいません……私なんかじゃダメですよね……」


今にも泣きそうな声でそう言った。

今度は俺が想いを伝える番だ。


「俺も君のことが好きだ……けど、すまない……俺には寿命がもうあまりないんだ」


寿命が残り半分を切りそうになっている。そんな俺じゃ彼女を幸せにできない。結ばれたとしても子供に俺や彼女と同じ思いをさせたくない……そう思っているから俺は……。


「寿命があまりない?!?! どういうことですか!!!」


酷く驚いた様子の彼女が、そう俺に問う。

俺は自分がこの世界の人間ではないこと、そして神に無理やり押し付けられた魔力のせいで残り3年ほどしか生きれないこと、結ばれたとしても子供に俺や彼女と同じ思いをさせたくないことを伝えた。

最初は驚いてばっかりだった彼女は、考え込み、そしてこう言った。


「《神廊》をクリアすれば寿命が元どおりになって、問題なくなるんですよね? それならクリアしましょう!」


出会った頃を思い出させる綻んだ笑顔で彼女は言ってのけた。

《神廊》をクリアする……できないかもしれない。でも、彼女と結ばれるためにやり遂げたい。

矛盾する思いを強引にまとめ、なにがなんでもやり遂げることにした。


「……俺《神廊》を攻略するよ、」


「はい! みんなでやり遂げましょう!!」


「いや、俺はパーティーを抜けて一人で攻略する」


みんなではなく、俺一人でやり遂げたい。

そうして胸を張って、彼女と結ばれたい……そう思ったからだ。


「ど、どうしてですか?! みんなで攻略すれば、きっと」


「俺はお前と胸を張って結ばれたい! 俺が一人でやらないと意味がないんだ」


「そんなこと言わないでください!! 私はあなたが死んでしまったら!!」


「俺は死なない。絶対に迎えに行くから、信じて待っていてくれ」


俺が今までにないくらい真剣にいってるのがわかったのだろう、彼女は泣きながら頷いた。


「いつまでも、お待ちしています……」


その後、パーティーメンバーにも全て話し、きっと元に戻すから待っていてくれと言った。

俺は必ず生き残ってやる。


========================


迷宮都市ヴィルック

《神廊》を含めた大量の迷宮が都市の周りに混在し、迷宮攻略がメッカな街だ。

探索ギルドを含むたくさんのギルドがここに本部を構えるほど、ここを重要視している。


宿を取り、風呂に入って汚れを落とした俺は、すっきりした気分でギルドの食堂で食事をとる。

現在の時刻は17時頃か……これから攻略帰りの冒険者たちで騒がしくなるなとそんなことを思いながら数週間ぶりの温かい食事を食べる。

……ああ、幸せ。

そんな風にしていると、段々ガヤガヤと食堂が騒がしくなってきた。

何人か俺に声を掛けようとしてたが、仲間に必死に止められてやめたようだ。

この数週間ぶりの温かい食事は、おれの至高の時間なんだ。邪魔したら殺すなんてことを前に言った結果だれも喋りかけてこなくなった。

一人黙々とメシを食べると、宿に戻ろうと腰を上げ、会計を済ませる。

そして俺は宿へと足を向けた。


========================


《神廊》999階層


全ての未練を断ち切り、俺は再びここへやって来た。

昨日の時点で攻略に必要なものは全て持ってきている。

残り数週間もない命でどこまで行けるかわからないが、俺はやり遂げてやる。

そう意気込んで階段を登り始めた。


長い階段を上りきった俺を迎えたのは青い空だった。

辺りを見回すとここは、5年前に神に召喚された場所とまったく同じ場所だと理解する。


「やっとここまでたどり着いたか、のう諸刃の魔力の持ち主よ」


声の聞こえた方を見ると先程までは誰もいなかった場所に老人が立っていた。

目の前に突如現れた老人を見て確信する。


やつは、神。そしてここは神の居城。


「お主を召喚してからの五年間は今まで過ごしたどの時間よりも長く、そして面白く過ごせたよ」


俺の五年を面白かったと笑う神。

……俺は、こいつの暇つぶしのためにこの五年間苦悩し葛藤し続けたのか?

そう考え出すと目の前の神への怒りが溢れて止まらなくなる。

睨みつけている俺の気持ちを理解したのか、神は真面目な顔をし語りだした。


「そんなに怒らないでくれ。わしがお主を呼び、この人の身には諸刃すぎる魔力を与えたのか……それを今から話したいからな」


わしは神としてこの世界を何億年と守り続けてきた。

じゃがの、神とて生物。寿命には逆らえぬ……。

しかし他の神にこの世界を預けるのは嫌での……お主のようなあまり欲深くなく、それでいて思慮深い、他の神を信仰していない若者にこの世界を託したかったんじゃ。

その魔力は神としての器を持つか試すもの。適正を持たぬ者に宿った瞬間、その者は死んでしまう。

お主は人の身でありながら、この魔力に適応した……。

それは、神として最も重大な条件。

お主は神の器をもっていたんじゃ。

じゃから頼む。神としての座を受け継いでくれんか?


そう語り終えた神は、俺に深く頭を下げてきた。

ここに連れてきた時の憤りを覚える態度とは違い、真摯にお願いする態度。

神をよく見ると、出会った頃とは違い酷く痩せこけ、体に力があまり入らないようでフルフルと小刻みに体が揺れている。

神の寿命が近いことは、明らかだった。


「頼む、後生じゃ……! わしはこの世界が好きじゃ。だから、他の欲にまみれた神どもにこの世界を渡したくない。じゃから……」


沈黙した俺の答えを否定と感じたのか、酷く焦りながらそう頼みこんでくる神。

俺は先ほどまでの感情を沈め、俺の目的について神に聞いた。


「俺は彼女――ソフィアと結ばれて、今までどおり暮らしたい。神になるのは構わないが彼女と暮らせるのか?」


「もちろん今まで通り過ごしてくれてもいい……! 神として活動してくれるならば。彼女と永遠に結ばれることも可能だ。神にはそれだけの力が……権限がある」


彼女と結ばれることが可能。

俺も男だ。神なんて大層なものに憧れたりもする。


「わかった。神になるよ」


それ以外選択肢はない。

諸刃の魔力に適応しているらしいとはいえ、人の身である今、既に限界が近いことがわかっている。

体の荒れ狂う魔力を抑え、彼女と結ばれる方法はもうこれしかないだろう。

……まったく、二択ですらない卑怯な問題。

それでも彼女と過ごせるならば。


「……ありがとう、新しき神よ。我が権能を……」


眩い(まばゆい)光が辺りを覆う。

あまりの眩しさに俺は目を瞑ると、頭に膨大な情報が流れ込んでくる。

違和感はない。

むしろ、本来の姿になるようなそんな感じになる。

光が収まり、目を開けると、そこにすでに神の姿はなかった。


……悪い奴ではなかったな。


自分の世界を守るために尽力した男。

それが本当の奴なのかもしれない。

不思議とそんな気持ちになりながら、俺は彼女の元へと急いだ。


========================





第四回小説祭り参加作品一覧(敬称略)

作者:靉靆

作品:煌く離宮の輪舞曲(http://ncode.syosetu.com/n4331cm/)


作者:東雲 さち

作品:愛の魔法は欲しくない(http://ncode.syosetu.com/n2610cm/)


作者:立花詩歌

作品:世界構築魔法ノススメ(http://ncode.syosetu.com/n3388cm/)


作者:あすぎめむい

作品:幼馴染の魔女と、彼女の願う夢(http://ncode.syosetu.com/n3524cm/)


作者:電式

作品:黒水晶の瞳(http://ncode.syosetu.com/n3723cm/)


作者:三河 悟

作品:戦闘要塞-魔法少女?ムサシ-(http://ncode.syosetu.com/n3928cm)


作者:長月シイタ

作品:記憶の片隅のとある戦争(http://ncode.syosetu.com/n3766cm/)


作者:月倉 蒼

作品:諸刃の魔力(http://ncode.syosetu.com/n3939cm/)


作者:笈生

作品:放課後の魔法使い(http://ncode.syosetu.com/n4016cm/)


作者:ダオ

作品:最強魔王様が現代日本に転生した件について(http://ncode.syosetu.com/n4060cm/)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームと現実の世界が重なっているような印象がありますが、無理なく世界観を成立させられていたように感じました。 過去から現在までの流れも大雑把ながら描かれ、物語の流れがわかりやすかったと思い…
[一言] マモルさん、無事攻略、神様就任おめでとうございます。 神様がいい人で良かったです。 まだ普通の人は90層あたりでがんばっているのでしょうか・・・。がんばれ! やっぱりハッピーエンドはいいで…
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