屋上
「ぬくい……」
屋上ではガラス細工のように繊細な容姿の男が、暖かい日差しにまどろみ幸せそうに寝転がっていた。見かけがみかけなのでそのままだと溶けてしまうのではないかという不安に陥る。
彼の横では高校生の分際で195cmを記録する西野隆弘が缶ビールを片手にタバコを吸っていた。これだけでなぜ彼らがひとけのない屋上を選びくつろいでいるのかがわかるというものだ。
床にはコンビニでかってきた餃子や焼き鳥、専門店のオードブルなどの皿が乱雑に置かれていた。
桜の花を眼下に青空を眺める贅沢な空間で、隆弘がノロノロと携帯電話を手に取る。
「……ノハがこっちにくるってよ」
「マジか。教師くるようなら教えてくれって言っといてくれ」
「もう言ったぜ」
「さすが隆弘」
しばらくして屋上の扉が開く。隆弘が言ったとおりパーカーを着たノハが姿を現わした。隆弘が缶ビールを持った手をヒラヒラと降って挨拶する。
「ようノハ。酒飲むか」
ノハはテオの横に腰を下ろしフェンスに背中を預けた。
「チューハイあるなら飲むよ」
隆弘が近くにあったチューハイの缶をノハに放って寄越した。
「ほらよ」
「ありがと」
ノハが缶のプルタブをあけると、プシュッと空気の抜ける音がした。テオは相変わらず大の字になってひなたぼっこをしている。
ノハはチューハイを一口飲んでから
「あ、そうだ」
と呟く。
「ヴァレンタインとツァオが屋上にくるみたいだよ」
まどろんでいたテオが立ち上がってその場から逃げようとした。その首根っこを隆弘が掴み、地面に押さえつける。
「逃げるんじゃねえよ。男ならドンと構えろ」
「離せ隆弘! 今更どの面さげてあえってんだ!」
「嫌だね。お前が小者だからそんなことが気になるんだよ」
「人の気もしらないで!」
「雑魚の気持ちなんか知るか」
「鬼か貴様!」
「隆弘って鬼だったの? 豆嫌い?」
「いや、嫌いじゃない」
「鬼なのに変わってるね」
「天才は他とは違うから天才って言われるんだぜ」
「そっか」
ノハはそれで納得したようでまたチューハイを飲んだ。地面に縛り付けられたままテオが顔を歪める。
「ツッコミがいないでござる」
そして、また屋上の扉が開いた。