再度、中庭
校庭で生徒が花より団子の様相を呈している頃。中庭では宴もたけなわというべきか、教師陣が大層もりあがっている様子だった。
イセリタが黄色い電話帳を素手で破って生徒達の悲鳴が響き、アレックスのジャグリングは鉄アレイを使っているせいでやはり周囲から悲鳴が響いた。
クレイズとスイレンがまったく動揺していないのが実に不気味であった。
そんな修羅場の中ハイスピードで酒を飲み続けたリリアン・マクニールが顔を真っ赤にしてすっくと立ち上がる。
ちょうどアレックスのジャグリングが終ったところで、悲鳴をあげつかれた生徒たちが何事かと彼女をみた。
リリアンは中庭の視線を一身にうけ、至ってマジメに右手を掲げる。
「いちばん! ごとうはなこ! ぬぎます!」
彼女は完璧に酔っていた。横にいた深夜が悲鳴をあげる。
「やめろ花子! たのむからやめてくれ!」
「じゃまするなふかや! わたしもいっぱつげいをするんら!」
「そんなもん一発芸じゃない! やめろ!」
なにを思ったか男子生徒がはやしたてるような声をあげる。深夜が睨みつけると声は口笛に変わった。完全にからかう方針のようだ。
リリアンがスカートに手をかける。
深夜が悲鳴をあげた。
「うわぁああああああ!」
深夜はもはや足元のレジャーシートを持ち上げてリリアンに頭からぶせそうな勢いだったが、彼が行動を起こす前にガツン、と大きな音がしてリリアンが倒れる。
彼女の背後には無表情のアレックスが立っていた。
生徒達のはやしたてる声が静まり返り、深夜がアレックスの顔を見て息を呑む。
蹲るリリアンを見下ろしてアレックスが吐き捨てた。
「……君のそのことごとく締まりのないたるんだ身体のどこに、なにへむけての需要があるというんだい? 脳みそまにで締まりがないようならまず頭の筋トレからしたほうがいいんじゃないのかな?」
「脳みそ筋トレなんかできるわきゃねぇだろ!」
「殴れば鍛えられるんじゃないのか? なんなら切開してネジを締め直してあげようか」
「ひどいでござる!」
レジャーシートの上でリリアンが大の字になった。深夜は横で
「いいかげんにしろ! 恥を知れ恥じを!」
と、悲鳴に近い怒号をあげていた。
そんな中央部の喧噪とは遠く、ヒラヒラと舞い踊る花びらと遊んでいたヴァレンタインがやっと掴んだ一枚の花弁を横にいたツァオへ差し出す。
「さくらきれいだねーソメイヨシノっていうんだよ」
花弁を差し出されたツァオは一瞬戸惑ったようだったが、すこし顔を赤らめてヴァレンタインんから目を逸らす。
「……あ、そ」
そっけない返事ではあるが、ヴァレンタインは予想の範疇だったらしくフフ、と穏やかに笑った。ツァオは相変わらずヴァレンタインから目を背け不機嫌そうに眉を顰めている。
長い髪を桜と遊ばせる彼らの横を、祐未が通り過ぎて行った。
「なあ、テオ知らねぇ?」
彼女が話し掛けたのは中庭の騒ぎをききつけてフラフラとやってきたノハだ。彼は少し考えてから首を傾げる。
「さあ。見つけたら教えようか?」
「んー、いいや。ちょっと気になっただけだからさ」
「そう」
短い会話の後、祐未がその場を去る。手に2Lのペットボトルを持っているから、買い出しのついでにノハを見かけて、聞いてみただけなのだろう。
ノハはリアトリスのところにいこうかとも思ったが、すこし考えてから空を見上げた。
「そうだ、屋上行こう」