校庭
教師陣が年甲斐もなくはしゃぐ中庭からすこし距離を置いて、校庭。スロワ・エリクソンは目を輝かせて咲き誇る桜を見ていた。
「チョーキレイじゃん! 今年もすっごいね!」
ハイテンションなスロワの横には、レジャーシートにどっかりと腰を下ろして忙しなく周囲の食べ物をつまむ人影がある。
「花? ンなもんどーでもいーんだよ、それよりメシメシ! ……あ、それ美味そうじゃん」
2年生のユトナだ。彼女の横には3年の奈月が座っていて、花にも食事にも興味がなさそうに大人しく座っていた。
「これのこと?」
奈月がユトナにからあげを差し出すと、彼女はそれを受け取って口の中に放り込む。
それからユトナは自分の近くにあったサンドイッチを奈月に差し出した。
「お前さっきからあんま食ってねぇじゃん! これ食えよ」
「いらない。おなかいっぱい」
「いいから! 腹減ってぶったおれちまうぞ?」
奈月が突き返そうとしたサンドイッチをユトナがさらに押し返す。奈月はユトナとすこしでも多く会話がしたかっただけなのか、押し返されたとたん素直にサンドイッチを受け取った。
「むぅユトナがいうならいいよ」
ただし元々小食なため、サンドイッチを食べる様子はどこか苦しそうだ。もっとも奈月が今日食べたものと言えばクッキーとジュースだけなので、ユトナでなくても同じような態度をとることだろう。
桜を楽しんでいたスロワが2人をみてため息をつく。
「あの2人は相変わらずって感じだし」
呆れ顔のピンク髪に、妙なパーカーを着た男が歩み寄る。3年のノハだ。
「リアが、重箱食べたいっていったから作ったんだけど、食べる?」
話し掛けられたスロワは一瞬彼の持つ箱の大きさに驚いた。けれどすぐ顔に笑顔を浮かべ、ノハが差し出した割り箸で揚げ出し豆腐を掴む。
「これ全部作ったの? すごいじゃん! めっちゃおいしいし! リアトリスも幸せ者だね」
「約束しちゃったからね。だけど食べきれないから配ってるんだよ」
「あんたも大変だねーここに座ってゆっくりしたら? お茶飲む?」
「んー、じゃあ少し貰うよ。重箱ここに置いとくから好きに食べて」
ノハがスロワから紙コップを受け取り、レジャーシートに座る。ユトナが目を輝かせた。
「なんだよその重箱、食っていいの!?」
「リアに作ったから全部食べたらだめだよ」
ユトナが口を尖らせる。奈月は黙ってジュースを飲んでいた。
のんびりと緑茶を飲むノハに、遠くから声がかかる。
「あ! ノハ! なにやってるですかー?」
飲み物とサンドイッチを持ったリアトリスがトタトタと軽い足音をたてて駆け寄ってきた。ノハは座ったまま知り合いの少女を見上げる。
「ここでお茶飲んでるんだよ」
「そんなの見ればわかりますですよー! なんで私のお重をこんなところに放置して休んでやがるのか聞いたんです! 職務怠慢ですよ!」
スロワが眉を顰めて呆れた声をだした。
「それはちょっとどうかと思うわー」
しかしリアトリスは何処ふく風でノハの横に腰を下ろし、重箱の中身に手を伸ばしてきた手を軽く叩く。
「これは私のですぅ!」
手を叩かれて痛みに声を上げたのは図書室司書のロッソだった。
「いいじゃんかちょっとくらい! ケチィ!」
「鳥頭はそこのひからびたサンドイッチでも貪ってやがれですよぅ!」
「ひどい! 太るぞそんなに食べたら!」
「乙女にそんなこというなんて信じられませんね! さすがデリカシーゼロで有名な無能司書ですぅ! 鳥頭には人間生活に必要な知識も蓄えられないと見ましたよ、哀れな生き物です! 鳥なら鳥らしく地面でもつついて小虫でもくらってやがれですぅ!」
「さっきよりひどくなった!」
生徒に暴言を吐かれても司書が怒る様子はない。心が広いのか根性がないのか、評判を聞くにおそらく後者だろうとスロワは思う。
大人とは思えないほど情けない声をだすロッソの背中めかけて、1人の少女が飛び込んできた。
「見つけたぞおじっそ! 構え!」
「うわぁっ!」
衝撃に逆らえずロッソが前のめりになり地面に顔を打ち付ける。彼に飛びついた女子生徒――アメリアは男の背中に乗っていたため事なきを得、司書の顔面が砂だらけになったことについても罪悪感はないようだった。
「構え! おじっそ!」
しきりに足をバタつかせて構え構えと叫んでいる。
ロッソはなんとか起き上がり、涙目で背後のアメリアを見た。
「いきなり飛びつくなよーびっくりしただろ……」
「この団子はうまいな!」
「話聞けよ!」
「おじっそも食べるといい! ただおじっその舌にはもったいない味だから一口だけだぞ!」
「ひどい!」
ロッソがまた情けない声を上げる。様子をみていたリアトリスは重箱の中身をせっせと胃袋にいれつつ、目の前の様子を鼻で笑った。
「これくらいで泣き言とは情けない鳥ですぅー」
ユトナは目の前のからあげをせわしなく飲み込んでいて、奈月はそんなユトナの様子を嬉しそうに見ていた。
ノハは緑茶をおかわりしている。
スロワはいよいよ大きなため息を吐き、真っ青な空と――空によく映える、美しい桜を見上げ、呟いた。
「どいつもこいつも、桜なんか見やしない」




