中庭
「うへぇええぇえええい! もりあがってるかぁあああ!」
中庭の中央に位置する大きなソメイヨシノの下で、リリアン・マクニールがビールを片手に大声を上げた。すでに完全な酔っぱらいになっている。
「おいおい……ちょ、飲み過ぎだぞ」
横に座っている養護教諭の深夜が心配そうな声をあげるも、酔っぱらいの耳にはまったく聞こえていないようだった。
ちょうど横を通り過ぎるところだったリアトリスが、ジュースの入った紙コップを片手に笑顔で手をあげる。
「いっえーい! 盛り上がってますですよー」
ニコニコと楽しそうに笑うリアトリスに、アレックスが声をかける。
「やあ! なにか食べるかい?」
「じゃあそこのサンドイッチくださいですー!」
彼女がプラスチックの皿に置かれたサンドイッチを取った。横で現国のクレイズが穏やかに笑っている。
「やっぱ花見って風情があっていいよねぇ。ほらほら、ちゃんと飲んでる~?」
彼が話し掛けたのは同僚のスイレンだ。
「ええ。偶にはお花見もいいものですね。そこのお酒頂けます?」
「はいはい」
クレイズがスイレンに渡したのは日本酒だ。スイレンはそれを一口飲むと静かに桜を眺めた。和服を着ているためひどく絵になる。
イセリタは桜の花びらを弄んでクスクスと笑った。
「美しいですね。綺麗で少し儚い雰囲気があるから、桜って好きなのですよ」
リリアンからビールを取り上げたアレックスがイセリタを見る。
「自分では得難いものだから余計憧れるんだろうね!」
イセリタは笑顔のままアレックスの横面を叩いた。
バシンッ、と大きな音がしてクレイズが肩をすくめる。
「こりないなぁ、どうも」